魔道具~ドア編~
一階に降りると早速ミリンダが、身体を揺らし嬉しそうに聞いてくる。
「アルバ様、朝食は何になさいますか?」
くりくりとした目が、アルバを見上げている。何がそんなに嬉しいのか分からないが、ミリンダの表情は晴れやかだ。
「うーん……」
アルバに表情はいまいち優れない。
というのも、朝食といってこれといったのが思いつかない。グリードの頃は、とにかく朝にあるものを食べるようにしていたので、わざわざ考えることもなかった。
ミリンダの様子を見ると、応えてあげたいと思うが、必死に考えても何も出てこなかったため、考えるのを諦める。
「ミリンダのおすすめで」
それでもミリンダの期待を裏切らないために、何とか出した結論がこれである。
アルバの答えにミリンダは、元気よく「はい!」っと言うと、軽い足取りでキッチンスペースへ歩いて行く。
ミリンダの嬉しそうな後ろ姿を見て、近くの椅子に座った。
キッチンに向かったミリンダはまず、しゃがみこんだ。
何となく見守っていたアルバが驚いていると、唐突にミリンダの足元が光った。すると、床が扉のように上に開き、その中をじーっと見つめる。
「よしっ!」
と、気合こんだ声とともに、ミリンダは中に手を入れると、食材となるものを取り出した。
手には二つの食材が持たれていた。見ると、一つは白い殻で覆われた、鳥の卵。片手に二個持っている。もう一方の手には、紙に包まれた長方形の何かだった。紙に包まれているだけに、見ているだけにアルバには、まだそれが何なのか分からない。
二つの食材で十分なのか、開いた床を元に戻すと、そのままシンクの横のスペースに手に持った二つの食材を置く。床は完全に元の状態に戻った。
床に魔道具が埋め込まれているとは思ってもみなかっただけに、アルバの心の中は驚嘆に満ちていた。
流石に気づきようがない。中から食材が出てきただけに、貯蔵庫の役割を担っているのだろう。
「♪~~♪~~」
調理に取り掛かっているミリンダから、鼻歌が微かに聞こえてくる。
流れるような動作でどんどん朝食の準備が整っていく。ミリンダの動きに合わせて、後ろのリボンが左右に揺れる。
左側にあるコンロに手をあてる。唐突に火が付いたと思ったら、どこから取り出してきたのかフライパンを置き、植物からでた油を瓶から注いだ。
驚くのはその手際のよさだろう。気づいたら手には必要な者が揃っており、ミリンダの動きが止まることはない。
「まるで魔法だな……」
ミリンダの動きを何となしに見ていたアルバから、ポツリと声が漏れた。
まさにプロの動きである。
そうしてテキパキとした作業ののち、朝食は完成する。
二人分を一緒に持ってくると、アルバの前に一皿置き、向かいにもう一皿置いて、ミリンダは椅子に座った。
ミリンダの作った朝食は……
「ハムエッグか」
「はい!定番で決めさせていただきました」
綺麗に黄身が真ん中により、横長のベーコンが二枚一緒に焼かれている。
紙に包まれたのは、動物型のモンスターの肉を加工したベーコンだったのだ。
ハムエッグはグリードでも定番である。
卵も鳥型のモンスターから取れるしと、モンスター討伐ばかりしているグリードでは、一番身近な食材でもあるのだ。
「いただきます」
「いただきます」
二人してそう言うと朝食を食べ始めた。
アルバにとってはこれが、王都に来て初めての食事だ。
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「アルバ様。これからのご予定とかって考えてます?」
朝食を食べ終えて一息ついていると、ミリンダがそう聞いてきた。
「そうだな……」
アルバは腕を組むと何をしようかと考え始めた。
件の決闘は明日だ。鍛錬は怠れないとしても、一日中している訳にもいかない。
ここはやはりと思い、顔を上げる。
「王都観光でもするか」
短くそう言った。
ここまで王都のメイン通りしか見ていない。もし、決闘に勝って、学園に就いたとしたら、これから王都に住むということになる。街の雰囲気や、どんなのがあるか早いうちに知っておいて、損はないだろう。
それに……。
(ヴァニタスが、街でどういう扱いを受けるのか知っておきたい……)
王都の街並みを見ているときに、ライラが言っていた。
『街に出てみれば、どれだけ住みずらいのか分かる』っと。
それを確かめておきたいと思ってもいたのだ。
「本当にですか……?あまりおすすめはしませんよ……」
もちろん、アルバの思っていることなど知る由もないミリンダからは、落ち込んだ声がかかる。
ヴァニタスが街に出ることがどれだけのことなのか、ミリンダの表情が物語っている。
「とはいえひとまずは…」
「はい?」
「ミリンダ。近くに広いスペースってないか?人が通らないところだったら、なおいいんだが」
「人が来ないスペースですか?それだったらどこにでもありますよ」
「本当か」
「はい。王宮の敷地は広いですし、人も行き来きすることなどほとんどございません」
ミリンダが自信気に言う。
確かに、王宮の敷地というのは相当広い。周りを塀で囲まれているそうだが、入ってきたときに見てから、全体像は未だに見えない。
王宮という場所もあってか、人がたくさんいるわけではない。限られた人が、決まった場所にいるために、人から見られない場所を探せばいくらでも見つかる。
「なら、さっそく行くか」
「はい」
アルバはすぐに椅子から立ち上がり、外に向かった。
扉を開けようと手に力を入れる。
とびらはすんなり開いた。
「出るときは普通に開くんだな」
すんなり開いたことに驚くことはない。まぁ、予想通りだなと思ったくらいだ。
ライラもここに来たとき、一度出ればアルバは入れなくなるとは言っていたが、出ること自体は何も言われなかった。
それに、ダリアン王に会った後、王宮建物から出るとき、魔力を込めることなく普通に開いたからだ。
「魔道具ってのはよく分からないな」
思わずそんなことをもらす。
後ろから着いてきたミリンダがそれに反応する。
「だと思います。私たちですら、使い方を知っているだけですから」
ミリンダはそう言って恥ずかしそうにする。
「魔道具は用途は世間一般に知られていますが、どうやって作られているのかは知られていません。ライラ様でしたら知っていると思いますけど……」
「ミリンダもか?」
「はい。知りません。もちろん魔道具がどういう用途として使われているのか聞かれれば、説明できますよ」
「じゃあせっかくだから」
といって、アルバは疑問に思っていたことをぶつける。
「扉に使われている魔道具って、どういった意味があるんだ?」
アルバが見てきた中で思ったのは、魔道具で扉の開閉をする意味である。魔力を込めなければ開かないようにしたところで、ヴァニタスが入れなくなるだけで、大多数の人にとっては関係ない。
誰でも開けれるのだったら、つける意味はないはずだ。
「これは、簡単に言えば鍵の変わりです」
「やっぱりか」
「はい」
「となると、ここや王宮の門に使われているのと、街で使われているのは種類が違うんだな」
「その通りでございます!」
ミリンダはニコッと笑う。
「ここに使われているのは、魔力認識を緩めてあるものでして、誰でも魔力を込めれば開きます」
扉に手をあてると、仄かに光を放ち扉が開く。
これまで幾度となく見てきた光景だ。
「このようにして開けれちゃいます」
「でも、これだと鍵とは言えない」
「はいそうです。ですので、一般家庭の扉にはこれよりももっと強力な魔力認識のある魔道具を使っています。さらには、お店で使われている魔道具はこれとはまた少し違っていて、取り付けた本人が自由に魔力認識の強さを変えることができるるうになっています」
ミリンダが一息にそこまで言い切った。
アルバにも何となくだが分かった。店は営業中は解放しなければならないので弱め、閉めたら入られないように強める。
鍵の役割をしっかりと担っているということだ。
「……魔力認識ってのはなんだ?」
理解は何となくできたが、そこに聞きなれない言葉出てきたために、ミリンダに聞いてみる。
「実を言うと、魔力には人それぞれに違った波長が流れているのです」
そう答えると、ミリンダが目を閉じ、全身に力を入れる。
自分の中にある魔力を、多く外に放出する。だが、魔力を感じられないアルバに、わかるはずもない。
身体の力を抜くと。ふうっと息を吐いた。
「それを最初に魔道具に認識させることにより、その魔力の持ち主にしか反応しなくなるという仕組みです。もちろん、複数の人の波長を認識させることも可能なので、家族全員をあらかじめ認識させておけば、鍵として問題なく使えます」
「なるほど」
アルバは丁寧なミリンダの説明のおかげで、理解することができた。
魔力に波長があるとは初耳だ。
それが分かったところで、アルバには関係ないことだが、知識として入れておくことにした。
「鍵を持つよりも、簡単で安全なんですよ」
ミリンダはそう言うと、開けたままだった扉を閉めた。




