浄化魔法
「おはよう。ミリンダ」
ニコッと笑顔で、アルバに朝の挨拶をしたミリンダに対し、アルバも応えた。
「昨日はよく眠られましたか?」
「ああ。おかげさまで」
「よかったです」
ミリンダは満足そうにアルバを見上げて言った。
「では、まずは朝食の準備いたしますね」
ミリンダと一緒に一階へ降りようと、足を動かす。
ふと気になり、アルバは部屋の扉の横にぴったりとつけられた椅子に目をやる。
部屋に入った時にはなかった。
「ミリンダ」
「はい?」
前を行っていたミリンダが、アルバの声で振り返る。
「この椅子は……」
「それですか?私が用意いたしました。アルバ様がお困りになったときにすぐ駆けつけられるようにと思いまして」
ミリンダはさも当然と言うようにしている。
「もしかして、朝までずっとか……?」
「はい」
アルバは驚いた。
まさか、一晩中ミリンダはこの椅子に座り、アルバに何かあったときのためにずっと控えていたというのか。
「すまない。気づかなくて」
ミリンダに対して申し訳ない気持ちになる。
「?」
アルバの言葉をよく理解していない様子のミリンダ。
「ミリンダ。まずありがとう」
そんなミリンダにアルバは素直にお礼を言う。
「気になさらないでください」
ミリンダはさらっと言った。
「それから、今日の夜は手前の部屋を使ってくれ。頼む」
「いいんですか?」
「いいもなにも、俺はてっきり使うもんだと思っていたんだが……」
「いえ、アルバ様のメイドである私が、アルバ様の許可なく勝手に使うことなど出来ません」
ミリンダは首を横に振る。
困ったなとアルバは思った。
これがメイドとしては優秀なことになるのだろう。教育が行き届いているとみれば、ミリンダの姿勢は素晴らしいものだ。仕える主人のために、嫌がらずになんでもやる。それを苦とも思っていない。
こんなメイドがいつもいるのだったら、何も思わなかっただろう。
だが、アルバにはどうも慣れない。
何でもしてくれることは嬉しいし、楽だ。ある程度の事は、ミリンダのためにと任せていくつもりだったが、ここまでされるとなるとやはり気が引けてしまう。
そこで、アルバは一つ提案する。
「ミリンダ。一つ俺と約束してくれないか」
「……はい。なんでしょうか?」
アルバはゆっくりとだが、はっきりした声で言った。
「これからはわざわざ俺に確認を取る必要はない。ミリンダはミリンダの思うように何でもしてくれて構わない。変に気は使わないでくれ」
ミリンダはアルバに言葉を聞き、微笑んだ。
「分かりました。アルバ様の言う通り、これからは私のしたいようにしますね」
ミリンダの態度に安心した。
頑なに『これがメイドの仕事ですから』と言われたら、どうしようもなかった。
「それではさっそく、失礼しまして」
そういうと唐突にミリンダは右手の人差し指を立て、くるっと回した。
すると、アルバの身体が緑色の光に包まれる。
「はいこれでオッケーです!」
「なにをしたんだ」
アルバはよくわからず全身を見る。
変わったようなところは一つもない。
「今のは浄化魔法の一つでして」
「浄化魔法…?」
いまいち聞きなれない言葉だった。
攻撃魔法や付与魔法、移動魔法と魔法には種類がたくさんあり、浄化魔法はアルバは聞いたことがない。
モンスターが使う魔法での知識しかないだけに、少々アルバの魔法の知識は偏っている。
「治癒魔法の一つみたいなとこか?」
アルバが語感だけでそう判断した。
「はい。そう思っていただければ分かりやすいと思います」
アルバの言ったことは正しかったらしく、ミリンダが頷く。
「今のはかけた相手の、身に着けているのも含めて、全身を綺麗にする魔法なんですよ」
ニコッと笑いミリンダは説明した。
「アルバ様。昨日はすぐにお眠りになられたので、服とお体の汚れを勝手ながら取らせていただきました」
アルバは「なるほど」と言い、納得した。
昨日は風呂に入ることなど頭になかった。
「そういえば王都にも風呂ってあるのか?」
浄化魔法があるなら、必要ないんじゃないかと思うのだが。
「はい。各家庭に一つありますよ。もちろんお湯を出すには魔道具を使わないといけませんが」
「やっぱりそうなるのか」
結局、魔力が使えなきゃ意味がなかったんだな。
そう納得してミリンダと一緒に一階に降りた。




