就寝~王都での初めての朝
ミリンダと話をして、ある程度打ち解けた後。
「アルバ様、これからどうなさいますか?」
そう問いかけられた。
「そうだな……」
これといって予定もない。
外はもう暗くなっており、これから出ていこうにも、少々ためらわれる。
「とりあえず、今日はもう寝ることにする」
「はい。分かりました。グリードからここまで、お疲れですもんね」
ミリンダはそう言って微笑む。
アルバも頷く。
ここまでノンストップで色々なことがあったために、疲労が溜まっている。空腹感もあったが、どうもそれより、身体が休息を求めているのか、眠気の方が強い。
早速というように、ミリンダが立ち上がる。
「寝室に案内いたしますね」
そう言って歩き出す。
アルバもミリンダの後ろについていくように、椅子から腰を上げる。
ここで、テーブルの上のコップが目に入る。
アルバは何を思うわけでもなく、コップを取るとそのまま自身の後ろにあるシンクに入れた。
振り向くと、前にはミリンダがこちらを見ていた。
「片付けなどは私に任せていただいて構いませんのに」
「…ああ。そうか」
ミリンダはアルバのメイドである。むしろこういうのを仕事としているのである。
つい、いつもの癖で片付けてしまった。
グリードだったら、一人暮らしなのでもちろん全て自分でやらなければならない。片付けることが当たり前のことすぎて、何も考えてなかった。
(これからは、ある程度はミリンダに任せた方がいいのかもな……)
そんなことをアルバは思った。
自分でやることが悪いことじゃないが、全てやってしまってもミリンダの立場がない。
王都での生活には欠かせない、魔力のところをカバーしてもらうので、そんなこと思わなくてもいいかもしれないが。
ミリンダの後ろをついて、階段を上る。
「手前の部屋と、奥の部屋、どちらも寝室となっております。どちらになさいますか?」
ミリンダは振り返りそう聞いてきた。
「違いあるのか」
アルバはミリンダに対し質問した。
ミリンダは来る前、アルバは何かないかとすべての部屋を見て回った。
その時に見た限りでは、何も変わらなかったと思ったのだが。
「いえ、違いはございませんよ」
ミリンダはさらりと言った。
「どちらも、同じ家具が置いてあります」
「……だったら奥で」
何となく、手前よりも奥の方が落ち着くと思い、奥の部屋にする。
「はい。分かりました」
アルバの声を聞き、またミリンダは歩き出す。
部屋の前に着くと、扉を開けた中に入ることなく、そのまま扉の横でアルバを待っている。
「どうぞ、アルバ様」
ミリンダの言葉を受け、アルバは中に入る。
部屋を見渡したところであるのは、前に見た通り、ベットと鏡付きの机、そして椅子のみ。
明かりはついていないが、部屋の窓から入る月明かりで、十分見える。
「あの……」
するとミリンダが気づかわしげに声を発した。
「ん?」
「……よろしければ、腰の刀、私が預かりましょうか?」
目線をアルバの腰に向けている。
「寝るのにお邪魔になるのでしたらと思ったのですが……」
「いや、その必要はない」
アルバは短くミリンダの提案を断った。
「ですよね!大切な自分の武器を、他の人に渡すなど出来ませんよね!すみません!」
何を思ったのかミリンダは慌てたようにそう捲し立てる。
「そんな気にしないでくれ。ただ、こいつは自分の手の届く範囲に置いておきたいだけなんだ。じゃないと落ち着かない」
アルバはそういうと、鞘ごと刀を腰から抜き、ベットの横に立てかけた。
「大切になさっているのですね」
ミリンダが感心したように言う。
「まぁな。こいつには随分と助けられているからな。手放すことはできない」
「なんだか相棒って感じで、素敵です!」
何故かミリンダが嬉しそうにしている。
「そうか?」
「はい!」
「ありがとう」
アルバは素直に嬉しい気持ちになる。
「それではアルバ様、今日はお疲れさまでした。ゆっくり休まれてくださいね」
ミリンダは深々と頭を下げた。
「ああ。そうする」
あくびを噛み殺しつつ、そう応えた。
「何かありましたら、いつでも私に申し付けてください」
そう言って、ミリンダが扉を閉める。
アルバはそれを見送ると、そのままベットに倒れこんだ。
目をつむると、すぐに意識は夢の中に行ってしまった。
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ゴーンゴーン―――
街のどこからか鈍い鐘の音が鳴り響いている。
アルバはその音により目を覚ました。
目を開けると、いつものグリードにある家の茶色い木の天井ではなく、綺麗な白い天井が広がっていた。
「夢だった……なんてことはないか」
寝ころんだままアルバはそう呟いた。
起き上がり、窓から外の景色を見る。やはり見慣れたグリードの景色はなかった。
とりあえず、ベットの横に立てかけた刀を腰に差し、部屋を出る。
すると、扉のすぐ隣には、ミリンダが立っていた。
足元には椅子がある。
「おはようございますアルバ様!」
ニコッと笑い、ミリンダがまぶしいほどの笑顔でアルバを迎える。
その笑顔で、アルバの意識も完全に覚醒した。
やはり夢じゃなかったんだなと。




