メイドの必要性
ミリンダの身体から緊張の色が消えたことにより、会話しやすい雰囲気が広がる。
すると、ミリンダが立ち上がる。
アルバの後ろのキッチンのシンクまで歩いていくと、丸い物体に手を触れる。
アルバが触ったときにはただの冷たい物体でしかなかったそれは、仄かに光を放つと、大きな口から水が流れ始めた。
やはり魔道具であった。
それを確認して、横の棚からコップを一つとり、水を入れる。
コップに適量の水が注がれ、もう一度ミリンダが魔道具に手を触れる。
すると今度は光が徐々に薄れていき、水もそれに比例して弱まり、止まった。
ミリンダは流れる動作で、アルバの前にコップを置く。
「どうぞ、アルバ様」
「ん。ありがとう」
アルバのお礼を聞き、ミリンダは向かいの椅子に座る。
これが本来のミリンダの姿なのだろう。
無駄のない動きに見入ってしまった。
疲れていたアルバはすぐにコップに口をつける。
冷たい水が身体に染み渡るのが分かる。
魔道具から出た水は、冷たくそして美味しかった。グリードでも井戸の水をいつも飲んでいたが、これはそれ以上に、王都の水は瑞々しい。
身体から疲れがほんのりと回復する。
満足げなアルバの表情をみて、ミリンダは嬉しそうにしている。
「どうしてメイドなんて必要なんだ?」
水を飲んで一息ついた後、アルバはミリンダに聞いた。
メイドとして来ているミリンダには失礼だとしても、聞いておかなければならないことだ。
「理由ですか」
「ああ。俺自体、グリードで一人暮らしをしていた。一人でも困ることはないと思っているんだが」
生活に必要な最低のことは、できるとアルバは自負している。
それなのに、わざわざ専属メイドを遣わせる必要はないだろうと。
アルバの失礼な質問に、ミリンダは気にせずに答える。
「そうですね。ここの部屋は借り部屋ですので、何をするにも魔力で魔道具を動かす必要があります」
「だな」
そうなっているから、アルバはミリンダを待っていたのだ。
「ですが、ライラ様が用意したアルバ様に部屋には、魔道具の類はございません。グリードを同じように生活していただけます」
「なら、なおさら…」
「はい。私は必要ありません」
ミリンダはそうきっぱりと言った。
「でもそれは、アルバ様の部屋での場合に限ります」
そう続けた。
「一歩外に出てしまえば、街を散策するにも、ほぼ全てのところで魔道具が使われております」
「全てにか」
「はい。極端な話ではなく、それが王都の日常です」
魔道具が当たり前のところでは、なんにでも魔道具が使われる。
それが、一番楽で安心するからだろう。
「街へ出れば、アルバ様は店に入ることすら叶いません」
この建物も、出入り口であるドアには魔道具が使われている。
ならば、街の建物にも使われていて当然か。
「そこで、ミリンダのような存在がいると」
「はい。そういうことになります」
ミリンダは頷きながら答えた。
魔力を使えない者は、王都での生活に苦労する。どこもかしこも魔道具があったんじゃあ、本人の意思とは無関係に、誰かに頼らなければいけない。
「アルバ様が困らぬように、常に傍にお仕えするのが私の役割でございます」
「俺としてもミリンダは欠かせない存在になるな。悪い」
アルバはこれからのことを想像して、ミリンダに頭を下げる。
「頭を上げてください!」
慌ててミリンダはアルバに向かって詰め寄る。
「私はアルバ様のメイドです。何があっても私はアルバ様に対し、不快な感情は持ちません」
「本当か?」
少しの疑いの目でミリンダを見る。
いくらメイドとはいえ確証はないはずだ。ヴァニタスであるアルバと行動を共にするというのは、相当の苦労が付きまとうはずである。
王都というのはそういう国だと、ライラやダリアン王からも言われて想像がつく。
ミリンダもそれは特に分かっているはずだ。
断言などできるとは思えない。
「約束いたします」
ニッコリと、そして強い意志を込めてミリンダは言った。
その目に陰りは見えなかった。
流石は、メイドとしてライラに仕えていただけはあると、アルバは一人感心する。




