メイドさん現る
アルバが暗闇の中、手元のロウソクをじっと見つめていると
「し、失礼します!!」
突然、アルバの後ろのドア勢いよく開かれた。
完全に油断していたアルバは、身体をびくつかせると、ゆっくりとドアの方へ頭を向ける。
「ライラ様より、ここに行くように仰せつかって参りました!ミリンダ・スカーレットと申します」
声の主はよく通る高い声で、アルバに向かって頭を下げた。
「アルバ・ルーイン様でお間違いないでしょうか?」
ミリンダは下げた頭を上げると、こちらに向かって立っているアルバに向かって言った。
ここまで急いで来たのか、少し言葉が震えていた。
「……ああ。俺がアルバだ」
ミリンダの勢いに気おされるようにアルバは答えた。
真っ暗のため、全体を把握できないが、ミリンダがアルバよりも小柄な女性であることは、ドアから差し込む月明かりで分かる。
ミリンダはその答えを聞くと、一歩中に入って、ドアを閉めた。
ドアから入ってきた月明かりも遮られ、暗闇がまた視界を覆う。
「遅れてしまい申し訳ありません!!」
そんな暗闇の中、何故かミリンダは謝った。
アルバには、また頭を下げている様子がミリンダの方からふわっとした風が来たことにより伝わってくる。
仄かにフローラルな香りが漂ってきた。
「それはいいんだが……明かり点けてくれないか?」
このまま話を進める様子のミリンダに対し、アルバはなるべく落ち着いた声音を意識して言った。
「へ?……ああはい!そうですよね!少々お持ちください!」
初め、状況が理解できない雰囲気だったが、真っ暗であることを知ると、慌てたようにドア近くの壁に近づいた。
何かを探す動作をしたと思ったら、
「あった……!」
と、とても嬉しそうな声を上げた。
すると、一気に部屋の全体が明るくなる。
そのことにより、アルバとミリンダの姿が明確になる。
ミリンダは、アルバの思った通り小柄な女性であった。髪は明るいオレンジがかった茶色で、肩付近で綺麗に切りそろえられていた。さらには頭の左右に、髪でつくったお団子もついている。
顔立ちは少女のように幼い。目は大きくパッチリしていて、彼女の雰囲気に合っている。
服装は、王宮ですれ違った女性が来ていたメイド服。
一目で、彼女が王宮に仕えるメイドであることが分かる。
「…………」
そんなミリンダは、アルバの姿を見ると、驚いたように言葉を失っていた。
「どうかしたか?」
ミリンダの様子にアルバは不思議そうに声をかける。
ミリンダはハッとしたように身体を動かした。
「いえ、その、思っていたよりも随分と若かったもので……」
遠慮深げにミリンダは答えた。
「それ、ダリアン王にも言われたな」
王宮で初めてアルバの姿を見たとき、ダリアン王もミリンダと同じような反応を見せた。
さらには、グリードのアルバの家を訪れたライラも言っていたなと思い出した。
「すみません!失礼ですよね……」
アルバの言葉に呆れたような色を感じたミリンダは、肩を落とし謝った。
「いや、気にしなくていいぞ。なんとなくそう思う気持ちは分かる」
ミリンダにも、ライラがグリードから学園の守り人に就く人を連れてくることは、伝えられていたに違いない。
まさかその人物が、学園に通う生徒と同じような年齢の青年だとは思うまい。
月明かりに照らされ、アルバにはミリンダの姿を大まかにだが確認できた。しかし、ここまで急いできたためかミリンダには、アルバの姿は目に写っていなかったようだ。
今にしてやっと、ミリンダはアルバの姿を認識した。
頭から足の先までアルバの全体を見る。
すると、ミリンダの目はある一点で止まった。
「刀……」
ミリンダの口から自然と声が漏れる。
呟くように言ったため、アルバには聞こていない。
腰に携えている一本の刀。
アルバの唯一の身を守る術。相棒である刀に、ミリンダは数秒焦点を当てると、すぐに目線をアルバに戻す。
「ひとまず、座ったらどうだ?」
アルバは近くにある椅子を引き、ミリンダに座るように促す。
「いえ!メイドである私が椅子に座るなど出来ません」
ミリンダは顔の前で手を振り、アルバの提案を頑なに拒否した。
アルバはどうしたものかと頭をかく。
「いいから座ってくれ。俺が落ち着かない」
アルバはそう言いミリンダを見た。
「……はい。分かりました」
ミリンダもアルバの意思を読み取り、椅子まで歩いてくる。
明かりを点けた時と違い、ミリンダは足音を立てずにスッと歩いていた。
その歩き姿は、王宮ですれ違ったメイドと変わらず、無駄がない。
「では、失礼しますね」
長いスカートを押さえ、ミリンダは椅子に座った。
それを見て、アルバもテーブルを挟んだ向かいの椅子に腰かける。




