ダリアン王の気遣い
「すまないアルバ君。嫌な気分にさせてしまいましたね」
レオナルドが出ていった後、ダリアン王はアルバに対して、詫びるように言った。
「気にしてない」
グリードにはガラの悪い奴も沢山いたから、耐性はそれなりにある。
だからって、完全に気にしていないわけじゃない。だが、ここでそんなことを言っても仕方がないと思い、とりあえずは短く答えておいた。
アルバの口調が、ダリアンの雰囲気とライラ、レオナルドに影響させてか、本人も気づかぬうちにいつも通りになっていた。
「ダリアン。アルバに決闘をさせるのは分かる。その相手に王宮騎士を選んだのも、悪い案ではない」
するとライラは、ダリアン王を見つめて言った。
「王宮騎士に勝てば、それだけでアルバの実力が学園を守るのに支障がないことが証明される。生徒や関係者も、どれだけ文句が出ようと、王宮騎士に勝ったとあれば二の句をつきづらくなるからな」
「ライラにそう言って貰えるなんて、光栄ですね」
ダリアンは本当に嬉しそうにしている。
「俺が負けた場合は?」
アルバは一応の確認のために聞く。
敗北したら奴隷のようにこき使うとかだったらたまったものではない。
「やる前から、負けることを考えてどうする」
ライラはさも当然というように返した。やっぱり聞く気なかったな。
こいつの中では俺が負けることは考えてもいないらしい。レオナルドと変わらないな。
「もしもだよ。保険はかけといて損はないだろ」
アルバは、答えを促すようにライラに向けていた視線を、ダリアンに向ける。
「そうですね。もちろん考えてありますよ」
「聞かせてもらっても?」
「ええ。問題ありませんよ」
ダリアンは一度、椅子に座りながら体制を変えると、話し始めた。
「アルバ君が負けた場合には、グリードに帰ってもらおうと思います」
思いのほか、普通のことが帰ってきた。
「それだけか?」
アルバは聞き返すほどに、ダリアンが言ったことは普通だった。
「はい。それだけです。もう少し重いことをさせられるとでも思いました?」
アルバのポカンとした表情が面白かったのか、ダリアン王は目を細める。
「もちろん、もしそうなった場合、私からグリード王に説明します。ライラにはまた候補を探してもらう必要がでてきますけどね」
「ふん。もうあんな面倒なことごめんだ。絶対に勝てよ。勝てなかったらどうなるか…分かるよな」
ライラは何かを打つ真似なのか、掌をアルバに向けて突き出す。
「まぁ、君があんな男に負けるはずないがな」
アルバに向けた手を下ろしながら、ライラは完全にそう言い切った。
アルバ本人よりもアルバの勝ちを疑っていないのが、言葉の強さから感じられた。
その自信はどこから出てくるのかアルバは不思議でならない。
いくらアルバの正体がルナプラーガの英雄とはいえ、四年も前の話だ。それから、アルバは目立ちたくないという理由で、ギルドの仕事も減った。
もちろん日々の鍛錬を欠かしたことはないが、それでも、四年前のあの事件前よりも格段に戦闘経験が落ちている。
第一、ライラは実際にアルバの実力を目の当たりにしていない。
なのに、このアルバに対する自信はなんなのか。
(どうせ、聞いたって『私が決めた奴だから』とかって言いそうだしな…)
そういう思いから、ライラに直接聞くことはしてこなかった。
「ダリアン。一つ疑問なんだが、何故アルバの決闘の相手に、あのレオナルドを選んだ。王宮騎士の中には、もっと適した人間がいただろ」
ライラがアルバに向けた手を下ろして程なくして、ライラはダリアンに聞いた。
確かに、アルバの実力を証明するためとはいえ、レオナルドは少々危険すぎる。
自分の国の王を前にしても、対戦相手のアルバに対しての殺気を隠す気はなかった。
実際、直接アルバに殺してしまうかもしれないと宣言までしていたのだ。
アルバの実力を証明するためには、王宮騎士の中でも実力者でないとならないのは分かる。だが、それに該当する騎士は他にいるはずだ。
何故、レオナルドなのか。
レオナルドは、ここにはダリアンに呼ばれて来たと言っていたために、王自ら対戦相手をレオナルドに決めたことは明白。
アルバもライラと同じように、疑問の眼差しを向ける。
二人の眼差しを正面から受け、ダリアンは口を開いた。
「アルバ君のためですよ」
「俺のため?」
アルバはよく分からず、ただダリアンの言葉をオウム返しすることしか出来ない。
ライラもよく理由が分かっていないのか、黙ったまま言葉を発する気配はない。じっとダリアンの続く言葉を待っている。
「アルバ君は、王都には来たことはありますか?」
「今日が初めてだが……」
ダリアン王は唐突にそんなことを聞く。
「では、この王都が魔法主義国家だということはご存知ですね」
「有名だからな」
王都ロイスタシアはその広い国土と経済力で、大陸全土に渡り確固たる地位を築き上げてきた。
今や、どこの国にいようと王都の情報は入ってくる。
ヴァニタスの国グリードだろうとそれは変わらない。
「魔法が全ての判断基準となっている王都では、ヴァニタスは街を歩けば常に誰かから嘲笑されます。レオナルドを対戦相手に選んだのは、アルバ君にヴァニタスが王都にいることがどういうことなのか、分かりやすく知ってもらうためと考えました」
「王都にはあんなのがごろごろいるのか」
「レオナルドは少々極端ですがね。ですが、ヴァニタスの方々にとっては、王都国民が、大小ありますがあのように見えていると私は思っております」
「俺に極端な例を見せて、覚悟してもらおうとしたってところか」
今後王都で暮らすことになる可能性があるアルバに対して。
「まぁ、私の気遣いは必要なかったように思えますが」
ダリアンは、先ほどのレオナルドとの睨みあいを思い出してそう言った。
あれだけ殺気を放っていたレオナルドに、果敢にも立ち向かっていったアルバを見ていたら、ダリアンの心配は必要ないように思えた。
「王都のヴァニタス軽視の思考は深刻です。私としてもそれをどうにかしようとしてはいるのですが、なかなか国に染みついた古い思考を変えるのは難しいのです」
ダリアン王は憂うような表情をする。
「ですので、アルバ君には勝手ながら期待させてもらいます。アルバ君の存在が、王都に根を張った古い思考を変える、一つのきっかけになってくれればとね」
奇しくもダリアン王は、アルバの家でライラが言ったことと似たようなことを口にしたのだった。
「いいのか?王が自分の国の騎士じゃなく、俺の味方のようなことを言って」
「これは王じゃなく私個人の気持ちです。決闘に関しては、王としてどちらの味方をするつもりはありません。負ければ、アルバ君はグリードに返ってもらうことに変わりはありません。お忘れなく」
最後にニコッと笑って話を終えた。
「では、私達もここで帰らせてもらうぞ」
「ええ。健闘を祈っています」
ライラが様子を見て、部屋を後にすることを提案する。
ダリアン王の返事を受けると、二人は王に背中を向けその場を後にした。
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「アルバ君か」
二人の後ろ姿を見送った後、部屋に一人残ったダリアンはポツリとそう言った。
「果たして彼が今後、この王都にどういう変化をもたらすのか楽しみですね」
あの青年がどれほどの実力を秘めているのか、身体を見たところで分からない。だいたいは、身体から出る魔力量で把握できるのだが、アルバからはもちろん魔力は感じられない。
完全に未知数だ。
「とはいっても、まずはレオナルドに勝ってもらわないといけませんね」
王都でも屈指の戦闘に特化されていると言われるレオナルドに、ヴァニタスのアルバ君がどう立ち回るのかしっかりと見ておかなければなりませんね。




