王宮騎士
ダリアンが視線を扉に向けてすぐ。
扉は勢いよく開かれた。
重厚な扉の開く鈍い音が、部屋中に響き渡る。
ガシャンガシャンと鎧を思わせる足音を鳴らし、こちらに大股で近寄ってくる。
「よう、王様。呼ばれたから来たぜ」
その男は強気な声を発して、アルバたちの方に歩いてくる。
男は全身を鎧で覆い、背中には武骨な大きな剣を背負っている。体格は、アルバの倍以上ある。目は吊り上がり、大きく見開かれていた。髪は動くのに邪魔にならないようにか、短く切りそろえられている。
態度、体格、全てにおいて大きい。
ライラの隣に並ぶとその大きさを如実に感じる。
ここにいる全員よりも、頭一つ分高い。
男は、ライラとアルバのことなど気にも留めないように、ダリアンだけを見ている。
「いい仕事があるってのは本当か?」
よく通る大きな声で、男はダリアンに対して聞く。
「よく来てくれました。レオナルド」
「おう。それで内容は?俺は長々と立ち話するつもりはねえ。早くしてくれ」
王に足して横暴な態度をとる。
しかし、ライラの時のように、ダリアンは何も言わずに続ける。
「誰だ?」
アルバは声を潜めて、隣にいるライラに男のことを聞いた。
「レオナルド・バルフォルト。王宮騎士の中でも、三本の指に入る実力者だ」
ライラも視線はそのままに、アルバに応える。
王宮騎士とは、王都の平和を守るために選ばれた者の総称である。高位の魔術師から、アルバたちを迎えた守衛も含めて。全てが王宮騎士と呼ばれている。
「まぁ、性格に難ありだがな」
そう短く付け足す。
「では、端的に言いますね」
「頼む」
「あなたには、ここにいるアルバ君と決闘をしていただきます」
ダリアンはアルバの方に手を向ける。
レオナルドは、初めてこの場に自分以外の誰かが居るのを察したかのように、その手を追う。
アルバとレオナルドの視線が交錯する。
レオナルドは嘲るように、ニッと歯をむき出して笑う。
「なんだよ。ただのガキじゃねぇか。しかも、ヴァニタスときた」
レオナルドのその態度に、アルバの視線が鋭くなる。
「俺もなめられたもんだな」
「断ることは許しませんよ」
このまま部屋を出ていきそうな雰囲気のレオナルドに、先手を打つダリアン。
「だったら、それ相応の報酬を用意してもらわないとなぁ」
ダリアンに対して、目を向いて凄むレオナルド。
彼の性格上こう提案することが分かっていたのか、ダリアンの態度に変化はない。
「アルバ君に勝ったら、貴方の希望を一つ叶えてあげます」
「本当だな?いざとなって忘れたとは言わせねぇぞ」
「ええ。約束します」
「こりゃあ『いい仕事』だ」
ダリアンのその言葉に、満足いった様子のレオナルド。
すると、レオナルドはアルバの方に向く。
「悪いなガキ。そういうことだ。俺を退屈させてくれるなよ。ヴァニタスだからって手加減するつもりはねえ。せいぜい当日は注意しな。うっかり殺っちまうかもしれねえからな」
「なに……!」
レオナルドはまた嘲笑を浮かべる。まるで自分が負けることなど頭にもない様子だ。
今まで黙っていたアルバも、この態度には頭にくるものがあった。
腰に収める愛刀に手を添えると、今にも切りかかりそうな勢いで、レオナルドを睨む。
「レオナルド!言葉が過ぎますよ」
ダリアンは今までの穏やかな表情とは一変して、レオナルドを叱責した。
「アルバも、気持ちはわかるが今は抑えろ」
ライラが、アルバの前に手を出しとめる。
お互い睨みあったまま動かないでいると、レオナルドの方が面白くなくなったように先に逸らした。
「日時は、二日後の夕方。場所は王宮敷地内にある闘技場で行います」
場が落ち着いたのを見越して、ダリアン王が予定を伝えた。
それを聞き終わるとレオナルドは、歩きながらダリアン王に後ろ手で手を振り、来た時と同じように、鎧を鳴らして部屋を後にした。
「自信の塊みたいな奴だな」
アルバはレオナルドが出ていった扉が完全に閉まると、そう口にした。
「あんな奴が騎士とか、大丈夫かよ」
「あれでも、実力は折り紙つきだ。魔法の扱いにも長けている。特に奴の場合は、戦闘に特化したものだ」
「だからって、性格に問題ありすぎだろ……」
あんな性格の奴が騎士とか。
騎士は国民や王族を守るのが仕事だろ。絶対に他人を守ったりする奴には見えない。
むしろ、襲う側の方が合ってるんじゃないのかとさえ思えるほどだ。
「性格がどうあれ、魔法の実力があれば問題はない。それが、魔法主義国家だ」
たとえ本人がどうあれ、魔法がうまく扱えていれば国の重要なポストに就ける。
魔法が全ての基準になっている王都らしい。
「あーなるほどな」
アルバは納得したように、視線をライラに向ける。
「何故私を見る」
「いや、なんでも」
レオナルドとは違うところで性格に難ありのライラが、王宮直属の学園の理事長なのも、それが理由かもしれない。
アルバがそう勝手に結論づけた。




