ダリアン・ロイスタシア
それからしばらくして、ライラは右に曲がった。
どこまでもまっすぐに行くと思っていたアルバは、やっと着くのかと胸をなでおろす。
曲がって、またしばらく直線に進む。
二人とも何を話すまでもなくただ黙って、廊下を歩いて行く。
曲がったところで、王宮内部のデザインは統一されているために、見ている風景にはあまり変わりはない。
違うところと言えば、窓から外が見えるくらいだ。
さっきは建物の真ん中の廊下だったために、窓は一つもなかった。
王宮に外には、庭園が広がっていた。
真ん中には大きな噴水があり、その周りを色とりどりの花々が植えられている。木々もいたるところのあり、しっかりと整えられている。
ここで休憩するためだろうか。庭園のあちこちにベンチも見受けられた。その一つは、屋根付きになっていてテーブルも置かれ、庭園の風景を眺めながらティータイムを楽しめるようになっていた。
優雅な王族の生活が垣間見える。
アルバがグリードにはない豪華な庭園を見ていると、隣で歩いていたライラが足を止めた。
それを横目で確認し、アルバも歩みを止める。
「着いたぞ」
そう言ってライラが示した場所は、何も変わらない、今まで見てきたのと同じデザインの扉だった。
「ここに王様がいるのか?」
あまりにも変わっていないために、アルバは声に疑問の色が出る。
「そうだ」
「もっと豪勢な感じの部屋だと思った。これじゃあ他の扉と変わらなさすぎて間違えそうだ」
まさかこんなところに一国の王がいるとは到底思えない。
「それが目的だからな」
アルバの心を読んだように、ライラは少し間をおき言った。
「心の準備はいいか?」
「いまさら」
ライラの言葉をアルバは軽く受け流す。
心の準備も何も、王都まで来てしまった以上、ここで引き返すわけにもいかない。
第一このライラが簡単に返すわけがない。
帰れないんだったら、何をするにも変わらないだろう。
そんなアルバの様子にライラも口角を上げる。
ライラが扉に手をあてる。
扉は勝手に開き、来訪客を出迎えた。
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扉の先に広がっていたのは、金で装飾された部屋だった。
王宮の門と同じように煌びやかに彩られたその部屋は、いかにも国を代表する者がいても恥ずかしくないようにできている。
床にはレッドカーペットが引かれ、一直線に伸びている。
カーペットが続く先には五段ほどの階段があり、そこには、これまた金色の椅子があった。
王座である。
そして今、そこに座っている者こそ、この国を一人で統治する王である。
名を『ダリアン・ロイスタシア』。王都ロイスタシアを統べる偉大なる王その人だ。
「よく無事に戻られました。ライラ」
ダリアンは、一国の王とは思えないほど、丁寧な言葉遣いで、グリードから帰ったライラを労う。
「意外と早かったですね」
ニコッとダリアン王は目を細めた。
「私を誰だと思っている」
ライラは得意げに答える。こちらも王様に対してとは思えないほどに軽い口調だ。
アルバはライラとダリアン王のやり取りにあっけにとらていた。
王都の王様だけあって、もっと厳格な性格だと予想していたために、肩透かしを食らった気分だ。ヴァニタスの自分に対して、魔法主義国家の王だけあって、良い感情は向けられないと思っていたのに。
一人取り残されているアルバに、ダリアンは視線を向ける。
「この青年が?」
「ああ。そうだ」
自分の話題になったことを悟ったアルバは、少し前に進みライラの隣に並んだ。
「アルバ・ルーインと言う」
隣に来たアルバをライラが指をさす。
アルバは何を言っていいか分からず、とりあえず頭を下げた。
「ずいぶんと若い」
ライラが学園の守り人をグリードに探しに行くと聞いた時から、ダリアンは屈強な戦士を連れてくると思っただけに、アルバを見て驚きの表情を隠しきれない。
下手をすれば、学園に通っている子と変わらないのではと思える。
「ライラの人を見る目には信用しているつもりですが、しかし、大丈夫でしょうか」
ダリアンは慎重にライラに聞く。
見たところ体躯も平均的であり、装備品も腰に携えた刀一本。人は見た目で判断してはいけないとは言うが、それにしてもアルバはどこにでもいる青年の域を出ない。
そのことに少なからず疑う目でアルバを見るのは無理もない。
「問題ない。アルバの実力はグリード王お墨付きだ。私も納得している。学園を守るのに申し分はない」
「ヴァニタスなのですね……?」
ダリアンは声を落とす。
ライラに聞いていると思っていたが、どうやらアルバ本人に聞いているようだ。
ライラが答える素振りを見せない。
「……ああ」
ここに来て初めてアルバは声を出した。
ダリアンから視線を外す。
「なんだ。今頃、反対する気にでもなったって言うのか?」
ダリアンの態度に、少しだが眉根を寄せるライラ。
その言葉には多少の凄みが込められていた。
「そんなつもりはないですよ。私は元より賛成しています」
ライラの言葉に慌てる様子で否定した。
王様の威厳は感じられない。
だが、少なくともその態度にアルバは好感を持った。
「しかし、学園の守り人にヴァニタスが就いたことを隠してはおけません。公表したときに、必ず抗議の声があがる。生徒やその親を説得するのは無理でしょう」
ヴァニタスの扱いが悪い王都で育っただけに、ヴァニタスに対する信頼は無い。
たとえグリード王のお墨付きとはいえ、所詮は王様だってヴァニタス。納得はしないだろう。
「そんなの気にしなければいい」
学園の理事長とは思えない発言をする。
「確かに、私とライラの権限でアルバ君を守り人として学園に迎え入れることは簡単です。しかし、無理にそうすれば、必ずどこかに幅寄せがいく。さらには、アルバ君にも危険にさらされることになる」
一瞬アルバに視線をやるも何も言わず、ライラに視線を戻した。
「ヴァニタスなんかに守られるなど心外だ!……学園は生徒の意見を重視しています。このような声を無視することは、理事長であるライラにもできません」
アルバはダリアンの言った内容で、さっきの視線の意味を理解した。
あれはヴァニタスのアルバを気にしてのことだったみたいだ。
「だったらどうする?このままアルバをグリードに返すつもりはないぞ」
ダリアン王の言葉を受けライラが問うた。
「ええ。私もそのつもりはありません。このまま、アルバ君の実力を見ずに、ヴァニタスだからと頭ごなしに否定してグリードに返しては、ヴァニタス軽視思考を加速させる要因になりかねません。グリード王の印象も悪くなる」
ダリアンはそう言って頷いた。
「ですので、私に一つ考えがあります」
ダリアンは、そのままアルバたちの入ってきた扉に目を向けると、
「入ってきてください」
姿の見えぬ誰かに向かって声を出した。




