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魔法適性0の守り人  作者: まとい
〜転校生編〜
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リーリンの素質

「はぁはぁはぁ……」


 ミナセは肩で息をしていた。

 あれから数十分。ミナセの放つ魔法を避け続けたアルバは、魔法の使い過ぎで手を止めたミナセの前に、余裕の表情を浮かべて立っていた。

 ミナセは様々な魔法をアルバに向かって放っていたが、全て刀も持たないアルバに避けられていたのだ。

 途中まではミナセもちょっとした訓練のつもりで軽く魔法を発動させていたが、あまりにもアルバに当たらないのにムキになって、徐々に発動する魔法に力が入っていった。攻撃魔法、付与魔法と工夫するミナセだったが、残念ながらアルバの身体をかすることもなく、全てが水泡に帰していた。

 アルバが少々厄介だと思ったのは、透明で見えない拘束魔法だ。ミナセの得意とするところでもあり、時折攻撃に混ぜてくるのだが、これが思ったよりも避けづらい。真っ直ぐにしか飛ばないこともあり、一度認識出来れば避けること自体は簡単だが、意識を集中させてないと当たってしまいそうになる。これまでの戦闘経験で『気配』を感じられるアルバだからこそ避けられているものの、感じられない人には難しいだろう。

 まぁ、とはいえ当たったといっても無理矢理に抜け出すことは可能なので、問題ないのだが、当たらないに越したことはない。

 ミナセがさらに知識や経験をつけ、魔力量も上がれば、アルバに当てることも出来る未来が訪れるかもしれない。そんな可能性は十分に秘めているように感じた。


「あー……ダメだったかー」


 項垂れるミナセだが、すぐに立ち直ると終わりの合図の様にアルバに近づいてくる。


「流石はアルバさんっていったところかな」

「そりゃあどうも」


 アルバはミナセの差し出された手を掴み握手を交わす。

 遠くで二人のことを見ていたミリンダとリーリンも近くまで来ていた。二人とも手を叩き、ミナセとアルバに労いの視線を向けてくる。


「いやー、やっぱり強いねアルバさん」

「そんなことないぞ。ミナセもだいぶ筋は良かった」

「あははは。ありがとう。でも、当てられなかったから意味ないよ」


 ミナセはアルバの素直な褒め言葉を謙遜しながら受けとると、リーリンに視線を動かす。


「どうだったリンちゃん?」


 戦闘と言うよりも手合わせに似た二人の訓練を見ていたリーリンに、ミナセはアドバイスを求める。しかし、リーリンからは困ったような表情を浮かべるだけで言葉が出てこない。


「ええっと……」

「ん?遠慮しなくてもいいよ。どこがダメだったとか、率直の意見が聞きたいから」

「それが……二人に圧倒されて気づいたら終わってた」


 リーリンは苦笑いを浮かべてミナセに謝る。

 リーリンにとっては二人の手合わせの風景が自分とは違い過ぎて、見入ってしまっていたのだ。魔闘科でのための自主練とはいえ、すっかりアドバイスしなければならないのを忘れてしまっていた。


「もうリンちゃんったら。まぁいいや。アルバさんと訓練できただけ、よかったし」


 ミナセは謝るリーリンに少しだけ呆れた声も上げるも、すぐに表情を元に戻し晴れやかそうにそう言って、自分の立つ場所をリーリンに空ける。


「次はリンちゃんに番だよ」

「え……!」


 ミナセによりアルバの前に促されるリーリンは少しだけ驚いた声を上げるが、状況を理解すると緊張して滑らかに動かない足をゆっくりと動かしアルバの前に来る。

 手に持つステッキは震えており、アルバのことを上目づかいに見つめてくる様は、小動物を連想させるもので守ってあげたくなってしまう。


「お、お願いします」


 必死に動かした口でリーリンはそう言うと、アルバに向けて意識を集中させていた。

 ステッキを突き出し、なんとかというように戦闘態勢になる。


「アルバさんは攻撃したらダメだよー!私の時と同じように避けるだけからね」


 ミリンダと一緒に離れるミナセがアルバに注意喚起をしてくる。アルバはそれに頷くと、リーリンの魔法が放たれるのを待った。

 するとすぐに、リーリンの持っているステッキに光が集まり、光弾を作るとアルバに向かって撃ちだされた。

 明らかにミナセの魔法よりも早く、威力がありそうだ。

 基礎魔力『5』のリーリンから打ち出される魔法は強力で、本人の意思とは関係なくある程度、発動できれば効果を発揮する。

 しかし、それだけでは魔法の力全ては出すことはできないようで、やはり集中力と言うものが必要になってくる。

 集中力が切れれば魔法の発動が困難であるように、放ったからといってそれが素直に思ったところに行くかと思えばそうではないようだ。

 現に、リーリンの撃った光弾は速度や威力こそミナセよりも上だったが、アルバの近くに来たところで、動かないアルバに動揺したリーリンの影響を受け、軌道をそらしアルバの顔の横をかすめる様に通り過ぎていってしまった。


「よ、よかった……」


 リーリンはアルバに当たらなかったことにホッと一息ついているようだが、これでは訓練にならない。リーリンもそのことは分かっているようで、すぐにステッキを持ち直すと魔力を込め、魔法を放ってくる。

 だがしかし、リーリンはどうしても動揺してしまうようで、アルバの近くに来るとすぐに魔法の軌道をアルバに当たらないようにそらしてしまっていた。

 おかげでアルバは始まってから一歩も動いていないのにも関わらず無傷。同じ場所に立ったまま、ひたすらにリーリンの魔法を見続けていたのだ。


「あちゃー……やっぱりダメかな……」


 遠くで見守っていたミナセが頭に手を当ててリーリンを見ている。

 ミナセにはどうもこうなることが予想出来ていたようで、すぐに中断させ、ミリンダと一緒にこちらまで歩いてくる。


「リンちゃんはどうしても攻撃を当てられないんだよね」

「ごめんねミナセ。いつもこんなんで」

「いいよ。でもどうしよっかな……」


 ミナセは頭を悩ませるように腕を組み考えている。


「いつもなのか?」


 リーリンの言葉に引っかかることがあったアルバはミナセに問う。


「そうなんだよね。モンスターには大丈夫みたいなんだけど、人を相手にすると」

「……どうしても、怪我させちゃうって思って」

「なるほどな」


 リーリンは優しい性格だ。しかし、その優しさが魔法の軌道に影響を与えてしまっているようだった。

 モンスターであれば倒さなけらばならないという気持ちや自分に向けられる殺意で、自己防衛も兼ねて魔法が撃てる。しかし、人となるとリーリンは相手を傷つけることに二の足を踏んでしまうようで、どうしても当たる瞬間に軌道を変えてしまっているのだ。

 こればっかりは性格の問題もあり、他の誰かがどうすることも出来ない問題でもある。

 

「あの……私少し気になることがあるんですけど」


 すると、ミリンダが唐突にアルバとミナセに向かい口を開いた。


「どうした?」

「いえその……だぶんですけど、リーリンさんの性格からして攻撃魔法は合ってないんじゃないかと思いますよ」

「合ってない?」

「はい。どうしても魔法というのは発動した人の精神が少なからず影響してしまいます。攻撃魔法を相手に当てるには、倒したいっていう気持ちとか、魔法を当てないといけないみたいな好戦的な気持ちを少しでものせないといけません」

「へー知らなかった」


 ミリンダの説明に初耳というミナセが呟く。


「まぁ、ほとんどの人は魔法を発動した段階でその気持ちが確立していますから、意識したことがないと思うんですけど」

「リーリンにはその気持ちがないってことか」

「ないとまでは言いませんが、リーリンさんは優しいですから。怪我してほしくないって気持ちの方が強くなっているんだと思います」


 だからこそ、リーリンの放つ魔法はアルバに当たらなかった。

 ミリンダははっきりとそう言っている。


「じゃあ、リンちゃんが今後も攻撃魔法を使うには気持ちから変えていかないといけないってこと?」

「そういうことになりますね」

「……できる、かな……」


 リーリンは自信なさそうに答える。

 変えると簡単に言っても、培ってきた性格はそう簡単に変わらない。アリスが未だにヴァニタスに対していい感情を持てないのと同じように、リーリンのこの性格を変えるには結構な時間がかかるだろう。

 学園にいる間に変えられるのかも分からない。


「ですが、無理にしなくてもいいんですよ」

「え?」


 ミリンダの言葉にこの場にいた誰もが驚いた顔をする。

 特にミリンダから目を離せないでいるリーリンに向かって、ミリンダは言葉を続けた。


「攻撃魔法がダメなら、他の魔法を試してみればいいんです」

「他の魔法……」

「王宮騎士の中にも攻撃魔法が得意じゃないという人は何人もいます。リーリンさんの様に優しい性格の人は特に攻撃魔法にはどうしても相性が悪くなってしまいます。でも、そんな人でも王宮騎士になれるのです」


 ミリンダは元王宮騎士。その言葉にはどこか説得力があった。


「戦闘において大切なのは攻撃だけではありません。付与魔法や回復魔法、防御魔法などあらゆる魔法が必要になってきます。その中で、リーリンさんに合った魔法を使えばいいんですよ」


 ミリンダはリーリンに向かって微笑みかける。

 実際、元王宮騎士であるミリンダは、過去の戦いにおいて回復魔法を主軸としていたそうだ。もちろん、国民の安全を守る王宮騎士には攻撃魔法は必須。だが、一つのものを極めているというのはやはり強みになる部分だ。

 ミナセであれば拘束魔法。アリスであれば炎魔法というように。得意魔法を作っておくのは、それだけで自分を信じるということに対し大切な役割を果たす。おのずと自信も付いてくる。


「ロイボアとの戦闘はアルバ様から聞いております。不意の攻撃を咄嗟に張った障壁で防いだとか」

「は、はい」


 魔力も十分に込められないあの状況でリーリンは咄嗟に張った魔法の障壁で自分の身を守った。衝撃で打ち上げられはしたが、リーリンの身体が無傷だったのは、それだけリーリンが魔法に込めた思いが強かったからなのだろう。


「リーリンさんの性格は攻撃にこそ向いていませんが、守るのにおいては十分に実力を発揮できると思うのです」

「守る……」

「相手のことまで気を回せるその性格はリーリンさんだけのものです。魔力量は十分にありますから、一度試してみてはいかがですか?」


 ミリンダの提案に、リーリンは少しだけ迷った後、確かに頷いた。

 それを見てミリンダは嬉しそうに微笑む。

 こうして見ていると、ミリンダが元王宮騎士なのがよく分かる。魔法に対する知識から、その教え方まで。あらゆるものにおいてミリンダも学園の生徒よりも上をいっていた。


「試すって具体的にどうするんです?」


 ミナセがミリンダに問いかける。


「大丈夫ですよ。もう考えてありますから」


 ミリンダはミナセの問いに流れる様に対応する。


「見ている間に考えていたんですが……やはりここはアルバ様にお願いいたしましょう」

「俺か」

「はい。これからリーリンさんには自分の周りに防御魔法でもある障壁を張ってもらいます」

「わ、分かりました」

「リーリンさんの準備が出来たら、アルバ様。腰にある刀を抜いて思いっきりリーリンさんに向けて切りつけてください」


 ミリンダの珍しく危険な提案に、アルバは少し驚くが、ミリンダの真剣な目とリーリンの態度を見てすぐに元の表情に戻す。


「大丈夫なの?」


 ミナセだけが、ミリンダの提案に友達でもあるリーリンのことを想って不安そうな声を上げるが、

「アルバさんなら心配ないよ」

「アルバ様なら心配ありません」

 という二人の言葉におされ納得したみたいだ。

 こうしてリーリンと少し距離の離れた所で向き合ったアルバは、リーリンが障壁を張るのを待つ。

 リーリンは魔力を自分の周りの集中させると、すぐに自分をすっぽりと覆う光の壁を展開させた。


「もう大丈夫です」


 リーリンの合図に合わせ、アルバは一気にリーリンの傍までたどり着くと、刀を抜き障壁に向かって刀を振り抜こうとする。

 そんなアルバを見つめてリーリンの瞳が恐怖に揺れるのがアルバには見えた。障壁が揺れ、あと少しで消えてしまうというところに、ミリンダとミナセの声が聞こえて来る。


「気持ちをしっかり持ってください!」

「リンちゃんがんば!」


 二人の声援を聞き、リーリンは慌てて気持ちを切り替え、アルバの攻撃を防ぐことに集中する。すると、揺らいでいた障壁が元に戻り、主を守るために光り輝く。

 アルバはそんなリーリンに満足する等に笑みを向けると、思いっきり振り抜いた。


 ガコン―――!!!


 刀と障壁が当たった瞬間凄まじい音を立てて、障壁が消し飛んだ。

 しかし、アルバの刀がリーリンに振り下ろされることはなかった。

 よく見ると、アルバの刀がリーリンの障壁に弾かれていたのだ。

 これにはさすがのアルバも目を見開き驚いた表情を浮かべる。


「え……」


 しかし、一番驚いているのはリーリンだ。アルバの刀を弾いたのを見ると、小さく呟くように声を漏らす。

 ミナセとミリンダがリーリンに近づいてくる。


「やったねリンちゃん。あのアルバさんの刀を防いじゃったよ!」

「すごいですリーリンさん」

「……あ、ありがとう」


 二人の勢いに押されていたリーリンが何とかお礼を言う。


「まいったな」


 アルバは刀を鞘に収めると、障壁が消し飛んだ衝撃で地面にお尻をついたリーリンに手を伸ばし立ち上がらせる。


「結構本気だったのにな。完全に防がれた」

「い、いえ、その……」


 リーリンは謙遜しているが、アルバは素直にリーリンを褒めたかった。

 アルバは手加減などしてはいなかった。本気の一撃をリーリンの張った障壁にぶつけたつもりだ。もちろん、もしダメだった場合に備えて、刀がリーリンに当たらないように計算して振ったものだが、振り下ろしている間は力を込めていた。

 障壁を消し飛ばしたこと自体おかしいが、自分の刀が弾き返されるとは思ってもみなかったアルバにとっては衝撃の結果だった。

 リーリンと握手を交わす。


「やはり、思った通りですね」


 ミリンダは嬉しそうに両手を身体の前で叩くと、リーリンに向かって口を開く。


「リーリンさんには『人を守る』という素質がもっとも強いようです」

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