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魔法適性0の守り人  作者: まとい
~王女編~
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それから

 ライラの終わりを告げる声が鳴り響いたとき、アルバの横を自警団の二人の生徒が走り抜けていった。

 地面に倒れ伏しているアリスの身体を両側から支える様に女生徒二人が担ぎ上げようとしていると、アリス達にライラが近寄っていく。そして、ライラがアリスに対して魔法を使用した。

 アリスの身体が仄かな緑色の光を放ち、それと共に、徐々にアリスの身体から傷がなくなっていき、震えもおさまってきたようだ。

 それでも、女生徒はアリスの身体を気遣い肩を貸す。

 アリスは女生徒の肩を借りながら、傷がなくなった身体を起こすと、刀を鞘に収めているアルバに近寄ってくる。


「負けましたわ。完敗です」


 アリスがアルバに自身の負けを宣言をする。しかし、そう言うアリスの顔には悔しさが感じられない。どこか負けたことに諦めがついているかのように、すがすがしい表情だ。


「あれだけの魔法を使っても勝てなければ、もう私に勝ち目はありません」

「お前も十分強かったよ」


 所々、危ない場面があったのは事実。

 アリスはアルバの知らない魔法の特性をうまく使いアルバを追い詰めていた。第一、アルバはアリスの魔法が自分に当たらないように、避けることや切り倒すことで精一杯で、刀がアリスに届くまでに予想以上の時間がかかった。アルバの刀もアリスには見切られていたのもあるり、思った以上に苦戦していた。

 

「久しぶりに戦って楽しいって思えた」


 レオナルドの時は終始押されっぱなしで、戦いを楽しむどころじゃなかった。勝たなければ王都から出ていなかなけらばならない事実は変わっていなかったが、今回に限っては、そういった事情を抜きにしてアリスとの戦いに集中できていた。次にどんな攻撃をしてくるのか、アリスの多彩な攻撃にアルバは少しわくわくしながら戦っていたのだ。

 でなければ、殺すつもりでこいなど言わなかっただろう。

 アルバとて、アリスとの決闘に本気で挑んでいた証拠だ。


「それは私も同じですわ。小さい頃以来でした。勝敗など関係なく、相手に一矢報いたいと思ったのは」

「だから、最後は移動魔法だったのか」

「ええ。水蒸気の中で音を消した私の剣を、すべて防ぎぎったあなたにはもう私の魔法は通用しないと思いましたから」


 アリスの言った真実に、アリスに肩を貸していた女生徒二人は少なからず驚きの表情を浮かべていた。


「まさか、瞼を閉じていたとは驚きました」


 そんなアルバを見て、アリスは自分との圧倒的な差を痛感させられた。いくら小細工をしても、アルバには届かない。それをはっきりと分からせられていたのだ。


「視界がゼロなのは変わらないからな。目を閉じた方が周りに集中できる」

「……相変わらずでたらめですね」


 簡単に言ってのけるアルバに対して、アリスは呆れたように呟く。

 アリスはもうすでに自分で歩けるようで、肩を貸していた女生徒二人に礼を言うと女生徒の肩に身体を預けることをやめた。女生徒二人はそのままアリスの傍らに居続けるようで、他の自警団のメンバーのところに戻っていく様子は見受けられない。

 そんな自警団の生徒達も、アルバとアリスの決闘に圧倒されたようなのか、その場から誰一人として動いていなかった。ただ、男子生徒二人だけはこちらの様子をじっと見ている。


「二人ともご苦労だった」


 ライラがアルバとアリス、二人に向かってねぎらいの言葉をかける。


「いい戦いを見せてもらった」

「ありがとうございます」


 ライラの素直な感想に、アリスが頭を下げた。


「惜しかったな。あとちょっとでアルバに勝てたかもしれないのに」

「いえ、私の完敗です。全く歯が立ちませんでした」

「強いだろこの男は」

「はい。レオナルドに勝ったのも納得するしかありませんね」


 アリスがアルバを見ながら、そう言った。

 

「分かってるな?」

「はい。構いませんよライラ理事長。どんなことでも自警団はそれに従います」


 アリスの言葉に傍にいる女生徒二人も頷いている。

 アリスとライラの間で何やら約束事があったようだが、アルバにはさっぱり分からない。ただ、自警団のことであることだけは、女生徒の反応をみて分かった。

 アルバがアリスから聞いた話は、決闘に負けたら自警団は解散するということだが、きっとそのことをライラに見届け人を頼むときにでも話をしたのかもしれない。


「では、今回の決闘によって、アルバ及び自警団の今後について話させてもらう」


 ライラが屋内訓練場にいる全ての生徒に聞こえるような大きな声を出し、今回の決着を告げる。


「決闘に勝ったアルバはこのまま、学園の守り人として学園の生徒や私の所有物などを守ってもらう」

「ああ」

「そして自警団だが」


 ライラが自警団の面々を見ていく。

 自警団全ての生徒も緊張した面持ちでライラの続きを待っていた。


「……お前達が望むのなら、このまま継続してくれても構わない」


 ライラの告げた言葉に、自警団全員が目を見開いている。

 その代表でもあるアリスに、ライラは視線を向ける。


「負けたとはいえ、アルバをあそこまで苦戦させたことは素直に称賛に値することだ」

「ライラ理事長」

「お前の指揮であれば、他の生徒ももっと成長するだろう」


 そしてライラはまた自警団の生徒を見る。


「自警団には今後、もしもの時の最後の砦になってもらう」


 ライラの言葉に自警団の生徒が顔を見合わせている。

 最後の砦というのがどういった意味をしているのか、探っているようだ。


「私やアルバが倒れた時の保険というやつだ。その時は、お前達が学園を、そして同じ生徒の身を守ってくれ」


 ライラの言ったことの意味を理解するのにある程度の時間を使っていたが、すぐに自警団の全員が姿勢を正してライラに向かって真剣な目を見せる。


「アリスをリーダーとして、ここに正式にアリス自警団を発足する。もしもの時はお前達に頼んだぞ」

『はい!!』


 自警団全員の声が屋内訓練場に響き渡る。

 こうして、アルバとアリスの多くの生徒を巻き込んだいざこざは幕と閉じたのだった。


::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::


 後日談。

 それから、すぐアルバはミリンダに治癒魔法をかけてもらい屋内訓練場を後にした。

 自警団の面々はまだ何か話すことがあるようで、屋内訓練場の中には自警団の生徒だけが残っている。

 ライラはアリス自警団を宣言してすぐに仕事があるといい、移動魔法で姿を消していた。

 そして、それからしばらく経った日、他の生徒にも、ライラによって学園正式にアリス自警団の存在が伝えられたのだ。

 アルバがそれ以降自警団と関わることはなかったために、アリス達がどういったことをしているのか分からなかったが、この日、廊下を歩いているとリーリンとミナセを見かけたために自警団のことを聞けるかもと思い声をかけてみた。


「あ、アルバさん」


 近づいてくるアルバに気づいたリーリンが駆け寄ってくる。


「リーリン。アリス自警団はどうだ?」


 アルバはすぐに気になっていたことを聞く。

 しかし、リーリンは困ったようにアルバの言葉を聞くと、苦笑いを浮かべるだけだった。


「どうした?」


 アルバがリーリンの顔を覗き込むようにすると、隣からミナセが割って入ってきた。


「あれ?アルバさん知らないの?」

「なにがだ」

「リンちゃん、自警団を抜けたんだよ」


 初耳のことにアルバはリーリンを見つめる。

 リーリンはゆっくりと頷いた。


「やっぱり私には合ってないって思って。アルバさんとの決闘の後、すぐに自警団を抜けることをアリス様に言いました」

「そうか」

 

 戦闘が怖いと言っていたリーリンがやめても驚くことはない。いずれはそうなるだろうと思っていた。それでも、リーリンはアリスのことを慕っていたし、ここまですぐだとは思わなかった。


「よかったのか?」


 アルバは少しだけ心配してリーリンに声をかける。

 しかし、リーリンは対照的にアルバに笑顔を向けてくれた。


「はい。誰かを守るなんてこと、私には自信がありません。恐怖心が勝ってしまって、とてもアルバさんやアリス様達の様にするなんて、無理です」

「あら?そんなことないと思いますわよ」


 すると、廊下で立ち止まっていたアルバ達に誰かが話しかけ来た。

 誰なのか、ここにいる全員が分かっただろう。もうずいぶんと聞きなれた声だった。

 声のした方向に目を向けると、学園の生徒が五人立っていた。一番前を歩くアリスが、アルバ達の話を聞いて、会話に入ってきたようなのだ。


「ア、アリス様」

「久しぶりですわね。リーリンさん」


 リーリンは突然現れたアリス達に緊張してしまうが、そんなリーリンにアリスは笑いかける。


「聞いてたんですね……」

「ごめんなさい。廊下の真ん中で話しているのですもの、つい気になってしまって」

「ご、ごめんなさい」

「いいのですのよ。それに、あなたがこの男と仲が良かったことに私は少なからず驚きましたし」


 アリスにとってはリーリンのような生徒がアルバと一緒にいること自体、不思議だろうが、それはアルバがリーリンを想ってアリスの前では出さないようにしていたのだから仕方ないことだ。

 アリスとのいざこざが終わった今であれば、別に隠すことじゃない。

 アルバは堂々とリーリンと話していたって訳である。


「それで?無理じゃないってのはどういったことだ」

「ええそうですね。リーリンさんは私と同じ基礎魔力『5』ですから、努力次第で、いくらでも強くなることが出来ます」

「でも、お言葉ですけどアリス様。リンちゃんは攻撃魔法が苦手ですよ」


 ミナセがアリスに食いつく。


「もちろん知っています」


 ミナセの言葉をアリスは簡単に肯定した。


「ですが、人を守るのに必要なのは、なにも攻撃魔法だけではありません」

「え……?」


 アリスの視線がアルバの隣に立つミリンダに向けられる。

 その視線にアルバはアリスがなにを言いたいのか分かったように感じた。


「これはリーリンさんが自分で見つけることが一番いいですので、今は私からはここまでしか言えません。ですが、さっき言ったことを忘れないでくださいね」

「は、はい。ありがとうございます」

「いいんです。自警団をやめたこと気にしてないようですし、私はそれだけで安心しました」


 アリスはリーリンのことをやめてもずっと気にかけていたようで、そう言う顔は本当に安心したように穏やかは表情だった。


「ずいぶん優しいんだな」

「あら。私は基本的に優しいんですよ」


 アルバの嫌味をアリスは軽く受け流した。

 もちろん、アルバにやり返すのも忘れない。


「それよりも、あなたの影響で、リーリンさんの心が生意気にならないか、私は心配でなりません」


 挑戦的な笑みでアルバを見てくる。

 やはり、アリスはこうでなければならない。どうやらもう心配する必要はないみたいだ。


「……そうでしたわ」

 

 すると唐突にアリスは視線をリーリンへと戻すと、何かを思い出したようにリーリンに話しかける。


「森での訓練の時に言っていた『あの人』とは誰ですか?お礼を言いそびれてしまっていました」

「覚えてたんですね」

「当たり前です。それで誰なんですか?」


 リーリンとアリスの会話は二人にしか分からないことのようで、二人以外全員ついて行けずにいた。


「……えっと、その」


 そしてリーリンの視線は困ったようにアルバに向かっていた。

 アリスが驚いたようにアルバを見る。


「なるほど。そう言うことでしたか」

「はい」

「リーリンさんが言うのを渋るのもそういう理由でしたか」

「ご、ごめんさない」

「いえ、気にしないでください。そう、そうだったのですね」


 アリスは何か考える様に呟いた後、突然アルバに頭を下げ、

「ありがとうございます」

 とだけ言う。

 アルバには何ことか分からないでいたが、アリスを見るリーリンの顔を見て、詳しい理由を聞くのをやめた。

 そしてアリスは、いつもの四人の生徒を連れて、アルバ達から離れていく。


「あの四人は変わらないんだな」


 アルバが誰にも聞こえないように呟いたつもりだったが、どうやらその四人の内背の低い女生徒には聞こえていたみたいで、振り返ると、アルバにべーっと舌を出してくる。

 アリスに存在を認められたとしても、未だにアルバは嫌われたままのようだ。

 まぁそれも仕方ないかと思い、アルバは女生徒に肩をすくめて答えるだけにすませた。


「じゃあ、私達も授業があるから」


 するとミナセもリーリンを連れアルバから離れていく。


「またです」

「ああ。またな」

「約束、忘れないでよ」

「分かってるよ」


 離れていく二人にそれぞれ反応を返すと、アルバもミリンダと一緒に学園の廊下を歩いて行く。

 ミナセとの約束はまた気が向いたときにでもしよう。

 なんたって、もう学園から追い出されることなんてないのだから。

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