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魔法適性0の守り人  作者: まとい
~王女編~
102/266

アルバの身体能力

 次の日。

 学園の生徒のほとんどが学園から寮や他のところへと姿を消した後、アルバは決闘の場となる屋内訓練場へと向かっていた。

 屋内訓練場の扉をミリンダに開けてもらい、中へと入っていく。

 すると、自警団の生徒達がこちらを見ていた。

 これから決闘ということで、ほとんどの自警団の生徒が壁際に集まっている。

 その中のリーリンと一瞬だけ目が合う。

 リーリンは身体の前で控えめに手を振り笑いかけてくれた。

 それにアルバは微笑で返すと、アリスと何故かその両隣に付き従っている四名の生徒と対峙する。


「待たせたか?」

「いえ、問題ありません」

「決めたんだな」

「はい。あなたに言われた通り自警団の皆さんには詳細を話し、謝りましたわ」

「そうか」

「そして、自警団の今後についてもお話ししました。皆、私の意見に賛成だと言って下さいましたわ」

「よかったな。だったらもう何を話すことはない。決闘をして終わりにしようぜ」

「ええ。ライラ理事長が来たらすぐにでも。ですが、まだライラ理事長の姿が見えません」


 そう言ってアリスが屋内訓練場をぐるりと見渡す。


「ですので、ライラ理事長が来る前に、私達からあなたに言わなければならないことを済ませようと思います」


 アリスが一歩前に出る。

 そしてアルバと視線を合わせると、頭を下げた。

 それに合わせ自警団全ての生徒がアルバに向かって頭を下げる。

 そんな光景にアルバが驚いていると、頭を上げたアリスがアルバを見て口を開いた。


「このたびは私達のことを守って下さりありがとうございます」

「……なんだそんなことか。お礼は聞き飽きた。それに、守り人として当然のことをしたまでだ」

「いえ、そうだとしても私達は言わなけらばならないのです。アルバがいなければ私達はここにいなかったかもしれませんから。本当であれば助けられた私達自警団が、初めにあなたに礼を述べるできでしたのに、遅くなりました」

「相変わらず真面目だな」

「ええ。敵対していたのであろうと、けじめはしっかりとつけなければなりません。そうでしょう?」

「……」


 アリスがアルバの言葉を真似てそう言ってくるのに、アルバはどう反応していいか分からず言葉を詰まらせた。

 すると、アルバ以外の視線がある一点に集中し始める。

 アルバもその視線の先を追っていくと、そこにはいつの間にやら来ていたライラの姿があった。

 いつもの余裕の表情を崩すことなく、屋内訓練場にいる全員を見ると口を開く。


「すまないな。少々仕事が残っていた」

「構いませんわ」

「ああ」


 アリスとアルバの返事を受け、ライラは満足げに口角を上げる。


「二人とも準備はもう十分のようだな」


 そのライラの言葉を合図に、ミリンダと四人の生徒が壁際まで移動し、屋内訓練場の真ん中にはアルバとアリス、そして見届け人であるライラの三人だけが残される。


「それでは始めよう。二人とも武器を抜け」


 ライラの声にアルバとアリスが己の腰から武器を取り出す。

 アルバとアリスの目線が交錯する。


「互いの勝ち負けの結果は各々分かっているな?」

「ああ」

「ええ」

「ならば私からは言わん。私が決闘を止めた段階で勝敗を決める。異論は認めない」


 ライラに対し、アルバとアリスが頷く。


「では、始め!」


::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::


 ライラの声が木霊した瞬間、アリスの周りには炎の奔流が纏わりつく。

 容赦のない熱量が屋内訓練場に広がる。

 アルバの額にも汗がにじみ出てきた。


「いきます!」


 アリスが気合を入れる様に大きく声を上げ、剣をタクトの様に振り、炎をアルバに向かって迷いなく放った。

 自分に向かってくる炎に対してアルバはその場から一歩も動くことなく、刀を高々と振り上げ、炎のど真ん中に振り下ろす。

 炎がアルバの刀に切られるようにして、アルバの横を通り過ぎていく。

 炎を正面から受け止めながらも、アルバは無傷を保っている。

 そんなアルバに対し、決闘を見守っている自警団の面々が驚きの表情で見ていた。

 しかし、当のアリスは警戒を抜かずアルバから目線を外していない。

 自分に向かってくる炎を全て切りおえたアルバは、纏う炎が無くなったアリスに向かって間髪入れず足を踏み込むと距離を詰めに掛かる。

 地面を蹴り、一気にトップスピードに達するとアリスに刀を振り下ろそうとする。

 すると、アリスが少しだけ笑ったように感じた。

 唐突に自分の剣をアリスはアルバの刀に向かわずに自分に向かって振ったのだ。


「戻りなさない」


 アリスの小さな呟きが聞こえたと思った途端、アルバはアリスに刀を振り下ろすのをやめ横に飛びのいた。

 すぐに、アリスの身体に向かって、アルバが先ほど切ったはずの炎が当たる。

 炎はそのままアリスの身体の周りに纏い、その場に留まった。


「驚いたな」


 アルバの口から声が漏れる。背中を冷や汗が伝う。

 切りおえたはずの魔法が消えることなく戻って来るなど知らなかった。

 アリスが呟いた途端にアルバの背中に、炎と思われる熱量を感じたために、横に飛びのくことで直撃は避けられたが、意識を背中にやってなかったら正直危なかっただろう。


「不意打ちを狙ったというのに、避けられましたか」

「流石にさっきのは危なかったよ。魔法ってのは切られたら終わりじゃないのか」

「ええ。常に魔力を込め続ければ、魔法はどれだけでも操れますよ。このようにね!」


 アリスがまたもや剣を振る。

 炎がアルバに向かい突き進んでくる。

 アルバは今度は切るのをやめ、横に避けると、炎はそのまま屋内訓練場の壁に当たる―――ことなく軌道を変えアルバを追ってこようとした。

 アルバは仕方なく炎に追われるように訓練場内を走り回った。だが、いくら経っても炎の勢いがおさまる気配がないため、アルバは炎を操るアリスに向かい身体の方向を変え突っ込んでいく。

 炎を操っているアリスに守るすべはない。

 生身のアリスの身体に向かい刀を勢いよく振り下ろすが、アリスは剣で対処することなく身体を動かすことでアルバの攻撃をかわした。

 すかざす、後ろから炎がアルバの背中に襲い掛かってくる。

 休む暇なくアルバはすぐにその場から離れ、炎をやり過ごした。

 このまま炎に追われていれば、走り回るのに必死で攻撃に力を入れられない。

 簡単にアリスに避けられてしまう。

 アルバは頭でそう考えると、足をさらに早く動かす。

 徐々にアルバの移動速度が上がって行く。

 だが、アリスだって想定内のこと。

 アルバの動きが速まったのを感じ取ると、すぐに炎を自分の下にまで戻らせ、アルバの攻撃に意識を集中させる。

 そしてアルバがアリスの傍で姿を現した途端、アリスはすかさず剣を地面に突き刺し、炎の障壁を自分の周りに展開させる。

 さらには纏っていた炎で頭上を守ることも忘れない。

 アルバはそんなことに構うことなく、障壁もろ共アリスを切ろうと刀を振る。

 アルバの刀の勢いに負け障壁の一部が吹き飛んだ。

 そしてアルバがそこに立っているであろうアリスに向かい刀を振った瞬間、刀が空を切った。


「すみませんね。弾けなさい!」


 唐突に頭上で響いたアリスの声を合図に、アルバが片足を踏み入れている地面が光り爆発する。

 アルバは咄嗟に腕で身体を守るも、爆発の衝撃をもろに受けてしまった。

 アルバの身体を爆発の衝撃が襲う。

 そんな様子をアリスは地面に着地しながら見ていた。

 しかし、この程度でアルバが倒れることなどないことは重々承知。

 爆発の煙が晴れた所に、身体の所々に傷をつけつつも当たり前のように立っているアルバの姿を見たところで驚きはしない。

 アルバはゆっくりと、腕を顔から離し、アリスを見る。


「まさか、トラップだったとはな」

「あなたは必ず突っ込んでくると分かっていましたからね。爆発する魔法を設置しておいたのですよ」

「なるほどな。そうなると頭の上を炎で覆ったのも守るためじゃなかったと」

「ええ。その通りですわ。あなたの意識を私のいるところに集中させるためです」


 アリスが自分の頭上に炎を纏わせたのは、ただ上からの攻撃を警戒していたわけではない。

 障壁内で爆発の魔法を設置するのを隠すためと、自分がその場から飛んで逃げた時、アルバに自分の姿を見せないようにするためだった。

 案の定、アルバは上からの攻撃を避け、まっすぐに障壁を壊しにかかった。そして、アリスがその場にいないことにも気づかず、爆発魔法圏内に入ってったわけだ。


「魔法にこんな使い方があったとは知らなかった」

「正直あまり爆発魔法は使いたくはなかったのですがね。仕方ありません」

「なぜだ?」

「私があの男にやられた技ですから」


 悔しそうに呟くアリスだったが、すぐに表情を元に戻す。

 そんなアリスにアルバは刀を構えると一言いう。


「戦いで学ぶのに悪いことなんてないさ。それに、それほど俺に勝ちたいって思ってくれてるのは、戦っている身としてもありがたいね」

「戦闘においてあなたに褒められるとは思いませんでしたわ」

「俺は褒めるぞ」

「嘘いいなさい。私達のような学園の生徒、あなたにとってみれば簡単に倒せる存在ではないですか」

「確かにそうかもしれないな。まだまだお前達には戦闘経験が足りなすぎる」

「でしょう。ならば、褒めるところなどあるのですか?」

「あるね。俺は魔法を知らない。そんな魔法をここまで自在に操れるのははっきり言って凄いと思うぞ。得意魔法を囮に使うなんかは特に驚かされた」

「それは……素直に受け取っておきましょう」

「そりゃどうも。それに、俺は少なからずこの決闘を楽しんでるんだぜ」

「あなたの今後もかかっているのにですか?」

「ああ。てっきりお前のことだからな、自警団を解散させるためにわざと負けるんじゃないかと思ってたんだ。だけど、ここまでするってことは勝ちにきてるってことだろ。それが俺には嬉しい」

「ふんっ……言ったではないですか。初めから負ける気などありません。本気でいきますとね!!」


 そうしてアリスは会話を終わらせ、もう一度アルバに炎を向かわせる。

 アルバはそれを避けることはせず、初めと同様刀で切ると、後ろから迫ってくるのを知っていてアリスに切りかかった。

 それを何とかアリスはかわすと、後ろからアルバに迫る炎に意識を向ける。

 しかし、アルバの刀はもう一度アリスに切りかかってきた。

 アリスはそれをかわしながらも、アルバに問いかける。


「あなた、炎が迫っていること分かっているのですか」

「ああもちろんだ」


 それでもアルバの刀は止まらない。

 アリスも避けてばかりではいられなくなり、炎の軌道を左手で操作するようにし、右手の剣でアルバの刀を受け止め始める。

 徐々に二人の下まで、炎が近づいてくる。

 アリスがすぐに魔法の威力を弱めようとする。このままアルバに直撃でもしてみれば、アルバの身体は一たまりもない。そしてアリスの意識が炎へと向かった時、アルバの刀が一瞬アリスから離れ、後ろを切ったように映った。

 それからすぐに、炎が真っ二つになり、二人を避ける様に横を通り過ぎる。驚きの事態にアリスの意識が炎から外れた。そのことにより切られた炎は跡形もなく消える。

 しかし、アリスがそれを十分に確認する暇はなかった。

 アルバの刀はすぐにアリスを切ろうと迫ってくる。


「アリス。一つだけ教えてやる」

「な、なんですか」

「俺に勝ちたいなら本気で殺しに来い。変に気遣うと負けるぞ」

「……そうですね分かりました!!」


 アリスは剣をもつ手に力を入れると、無駄口を叩くことなくアルバの刀に集中した。

 すると、魔法を切られ押され気味だったアリスが、徐々にアルバの攻撃に遅れをとることが無くなっていく。

 そして、アルバの刀を渾身の力で少しだけ弾いたその隙に、アリスは地面に魔力を注ぎ込み、アルバとアリスの絶妙なところに炎の障壁を作り上げた。

 さすがのアルバも突然できたその障壁に対し、刀を振るうことはせずに、かわすようにアリスから少し離れる。

 だがアリスの攻撃はここで終わらない。

 すぐに障壁をなくすと、アルバに向かい光弾を放つ。

 光弾はアルバに向かって早い弾道で放たれたが、すぐにアルバの刀によって簡単に切り落とされた。

 しかし、この時すでにアリスの足は動いていた。光弾は攻撃に使ったわけではない。アルバが刀で光弾を切り落としている隙にアリスはすでに、炎を奔流を作り出していた。

 炎の操作を左手にすべて任せ、右手の剣と共にアルバに向かい走っていく。

 そしてアルバの身体近くまで行くと、もう迷うことなく剣と炎の二つによって攻撃を開始した。

 剣を振ったすぐに、間を開けずに炎でアルバの身体を燃やし尽くそうとする。

 それをアルバは焦ることなく無駄のない動きで捌いていくが、アリスの勢いは止まらない。

 どれだけアルバに攻撃が届かなかろうと、アルバを本気で殺すように剣と炎を振り続ける。


「そうだ。それでいい」


 しかし、それでもアルバの表情に変わりはない。

 逆にアリスの表情からは余裕が消え始めたように映る。

 それでもアリスが攻撃をやめないのは、今やめてしまっては自分の負けが確定してしまうことを分かっていたからだ。

 何か案が思いつくまでは攻撃の手を休めてはいけない。

 すると、アルバの動きが少しだけ変わる。

 今まで剣と炎の両方を刀で捌いてきたが、徐々にアリスの剣を身体で避けるようにしていた。

 そしてアリスの態勢が少し傾いたところに、アルバは見逃すことなく刀を振り下ろそうとする。

 しかし、アリスも負けてはいない。すぐに剣を地面に刺すと炎の障壁をアルバの刀ではなく腕の部分が触れる場所に展開した。

 アルバといえど人間であることに変わりない。いくら刀が炎の影響を受けなくとも、身体に当たったらただでは済まされない。

 アリスが障壁を展開したタイミングは絶妙だった。アルバはすでに腕をアリスに向かって振っている。今の状況で刀を振るのをやめられない。

 このまま炎にアルバの腕が当たる。

 そう思われた瞬間、アルバは腕が当たる寸でのところで動きを変えた。なんと刀を障壁の裏へと投げたのだ。

 地面に刺さった刀を軸にし、アルバの身体が浮き上がる。

 そして、ついには片手を刀の柄に置いたまま、逆立ちをするように障壁を乗り越えてしまった。

 これにはアリスだけでなく見ていた全ての人が目を見開いている。

 ライラだけは何やら楽しそうに二人の戦闘を見ていた。

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