王都の街並み
「もう、シートを外していいぞ」
ライラはおもむろにそう言い、荷台を覆っていたシートを開けた。
「いいのか?」
王都に入る前には、アルバに閉めろと指示していただけに、アルバは少し戸惑う。
「構わん。王都に入れば、もう気にする必要はない」
「そうなのか」
「国の周りに張ってある結界には、モンスターを寄せ付けない効果とともに、外部からの干渉もできないようになっているんだ。国の外からは学園に何かあっても私は探知できない」
国の結界には、外から監視されないために、全ての魔法を防ぐ効果もかけられている。
そのために、どれだけの実力があったとしても、外に出れば中の様子は分からない。
魔法の干渉は受けないが、アルバのように遠くから肉眼では見ることができる。だからとはいえ、すこしでもその視線に魔力が感じられた場合、瞬間に弾かれる。遠くを見れる魔道具を使ったとしても無駄だ。
肉眼で見ようとしていれば、国にそれなりに近づかなければならないために、不信な行動をとっているとして監視に気づかれる。
国を出れば、中の様子が分からなくなるのは不便であるが、国民を外部の危険から守るためには、仕方ないことなのだ。
「一足王都に入ってしまえば、私の魔法探知内だからな。別に姿を隠さなくたっていい」
そう言うと、ライラは指を鳴らした。
するとシートはひとりでに浮かび上がり、空中で綺麗にたたまれ、荷台にゆっくりと降りていった。さらには、シートを支えていた木枠でさえ外れて、シートの隣におかれた。
途端に、荷台に太陽の日差しが差し込む。
アルバは一瞬目を閉じた。
日の明かりに慣れると、ゆっくり目を開ける。
そこには、豪華な景色が広がっていた。
建物はすべてレンガ造りとなっていて、様々な色のものがある。道は石造りとなっていて、継ぎはぎがなくどこまでも平らな道が続いている。
今通っているところがメイン通りということもあってか、アルバたちと同じように馬車や、多くの人が行きかっている。
道の両端には、商店のようなものが並んでいて、果物や食料、衣服などと様々なものは売られていた。
そこの呼び込みの声も止むことなく、良い騒がしさがそこにはあった。
グリードとは全く違う、栄えた様子にアルバは何とも言えぬ気持ちになる。
だが、その中でも特にアルバを驚かせたのが、道行く人々の様子である。
子供たちは、ボールを浮かせて、いろんな変化をつけては友達の方に投げつけている。それをなんなく手を掲げて自分の前に止めると、その子も変化をつけボールを返す。変化も八の字に動いたかと思うと、突然上に上がり、一直線に友達の方に落ちていったりと、不規則な動きを見せている。
さらに、視線をちがう方に動かすと、何か分からない物を売っている店が目に入った。
主婦らしき女性が、手に収まるそれを手に取ると、少したってから、ほのかに光ったと思うと、どこからともなく水が溢れ出していた。
あれが魔道具かとアルバは思った。
「どうだ、これが王都の日常だ」
ライラは驚きの色を隠せないアルバに対して声をかけた。
「ああ。正直想像以上だ」
アルバは素直な感想を述べる。
グリードとはかけ離れているとは思ったが、ここまでとは思わなかった。
「グリードにいると、王都の悪いところしか聞かないからな」
行きかう人の表情は誰もが幸せそうだ。
グリードに来る人は、王都を離れるしかなくなった者や、不当な扱いを受けた者ばかりのために、王都のいい情報というのは入ってきづらい。たとえ、知ったとしても言ってはいけない雰囲気というのはある。
あまり王都に対していい感情を持った者が少なくはない。
「実際、アルバも街に出てみれば、王都がどれだけヴァニタスにとって住みずらい街なのか実感するはずだ。こうして見ている分にはそうは思わないだろうがな」
ライラはそんなことを言って、アルバの意見を否定はしなかった。
そんなライラの態度に、少し落ち着きを取り戻した。
あまりにもかけ離れていたせいか、アルバ本人も気づかぬうちに浮かれていたみたいだ。
表情を戻す。
「街に出てみるのはまた今度にしてくれ。今は、王宮に向かわなければならん。君を王に会わせる約束になっているからな」
「聞いてないぞ」
「言っていないからな」
「大丈夫なのか」
王都は魔法主義国家だ。そんな国の王に会うなど、ヴァニタスのアルバにとっては殺されに行くようなものではないか。
そんな心配をよそに、馬車は王宮に向かって進んでいる。
「会って見れば分かるさ」
ライラは何を思っているのか、それ以降黙ってしまった。




