寂れた街を歩く女性
大陸エルーノス。ここは魔法が日常生活に欠かせないものとなっている世界。
人々は物心ついたときには、すでに魔法を扱えるようになっている。幼い子供達は、お互いに親などに教えてもらった魔法を使い、友達と遊んでいる姿も珍しいものでもない。
また、暮らしに役立つものは魔道具と呼ばれていて、使用者が己の魔力をつぎ込むことにより、動く仕組みとなっている。
魔法が全てにおいて必要になってくる。そんな世界。
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ある街を一人の女性が歩いていた。
女性はどこか学者然とした風貌で、長いつややかな黒髪を後ろで一つに結んでいる。すらっとした体格で、眼鏡の奥に見える目は、自信に満ち溢れた印象を与える。
そんな彼女が歩いているのは、舗装もされていない道。周りにある家屋や商店はすべてが木で作られており、全体的に寂れている。
この街で、女性はある一つの建物を目指して歩いていた。
女性は少し前に立ち寄った場所でもらった、メモ用紙を懐から取り出す。
(ギルド会館を過ぎてすぐを左か……)
目の前に現れたのは、これまで見てきた建物よりも、大きく頑丈なつくりをした建造物。
この街、この国の特徴ともいえるギルド。その大本となる建物だ。
女性の目に中の様子が映った。
屈強な男どもが椅子に座り、酒を飲む姿が見える。カウンターらしきものも見え、そこで何やら話し込んでいる者もいた。特に男が多いが、ちらほらと女性の姿も見て取れる。
共通しているのは、そこにいるすべての人が何かしらの武器を持っていることだ。大剣を背負っている者もいれば、小さな短剣を腰につけている者など様々。
女性はそれを見ると、メモ通りに左に曲がった。
建物と建物の間をすり抜けるように、小さな道となっている。
「本当にこの先にあるのか?」
女性は少し疑いの目で、もう一度もらったメモを見る。
メモにはしっかりとこの道を行くように書かれていた。
(まぁ、身を隠すのにはうってつけの場所ではあるか)
納得するように、女性はその道に入っていった。
果たして、女性の通った道の先には一軒の建物があった。
女性はそれを確認すると不敵に笑う。
そして、迷うことなく扉に手をかける。