その2 狩猟について
狩猟と言いましても、昨今は沢山の猟法がございます。
私はと言いますと、主に魔法銃を用いました銃猟を行っております。
魔法銃と言いますのは狩猟対象に合わせて弾に様々な魔法を込めたものを、銃身から打ち出して獲物を仕留める銃であります。
魔法はからっきしと言っておいて今度は魔法銃とはどういうことかと思われるかも知れませんが、それは後でお話ししましょう。
エルフの猟といえば文献などの挿し絵によくあります、弓での猟を想像されるかと思います。
確かに昔は弓での猟が主流でありましたが、それもまた前述のようにヒトとエルフとの文化交流が盛んに行われるようになった事による狩猟技術の進歩であるのです。
この話を師ウルクドゥラクにすると、少し唸って
「本当は弓での猟がエルフと獣が平等の駆け引きができ、獲物にも無駄に傷がつかぬ。」
と申されます。
それも確かに正しいことかと思いますが、昨今の害獣の異常なまでの増加に新たな猟師を増やしていきたい気持ちもある師は、手軽に猟を始められる魔法銃の普及のために努めておられるようであります。
私も幼い頃は弓による猟を教わっていましたが、徐々に銃の訓練がメインとなり、一人立ちの時には師の魔法銃を一丁譲り受けまして、今もその銃を使って猟をしております。
銃猟に使う魔法銃の種類にも色々ありまして、大きく分けてマジックライフル、魔法散弾銃、魔法空気銃の三種類です。
瞬間に大量の魔法弾を打ち出すマシンガンタイプも開発されましたが、大きく自然の樹木などを傷付けるので、エルフの猟区では厳しく使用が禁止されています。
私の扱う銃はフレイアウル 12番 上下二連式魔法散弾銃 と言います。
フレイアと言うのはエルフ謹製の魔法銃ブランドの名前であり、業界では老舗です。
譲り受けたもの以外の師の持つ銃も全てフレイア製です。
ウルというのはエルフの言葉で弧、弓の弦を意味し魔法銃をウルと呼称するのはエルフの弓猟の名残だとされています。
魔法散弾銃と言うのは弾が射出されてから徐々に魔法が展開され、有効射程距離の約50メートルに達したときに魔法の有効範囲込みで直径40センチ程の範囲の獲物を仕留めることが出来る銃です。
小型~中型の獲物を狩るのに適した銃だと言えます。
また、威力の高い爆発魔法や、スラッグバレットと呼ばれる1発弾を装填する事で、大型の鳥獣や、小型のドラゴン程度なら打つことができるとされています。
狩猟対象の鳥獣の種類についてですが、これも大きく分けると三種類になります。
何らかの自然界の魔力を持つ「幻獣」
何者かに意図的に魔力を与えられた「魔獣」
それ以外のほぼ魔力を持たない「獣」
幻獣の中でもヒトやエルフとは生息域を隔てており、絶滅が危惧されている「麒麟」等は、その種の保存のため狩猟が禁止されております。
そういったもの以外の爪・角・牙や正肉が生活に恩恵を与える獣や家畜作物を荒らすような害獣等は狩猟対象とされており、狩猟した頭数に応じて王国より定期的に褒賞金が貰える場合もあります。
そう、最近よく見るアルミラージという幻獣がおります。
このアルミラージと言うのがよく知られるウサギに似た姿で、頭頂に縞の無い乳白色の角を生やした幻獣であるのですが、ウサギと大きく違うところが獰猛な肉食獣であるということであります。
集団で狩りをすることはあまり無いようですが、ヒトの飼う鶏や鳩、時には馬や牛などにも襲いかかる被害も出ております。
異国の幻獣であったのですが、輸送船の荷物などに紛れて上陸し、大陸で爆発的にその数を増やし始めて今では有害幻獣の筆頭に上がることもしばしばであります。
私の住む森にも数年前から見かけるようになりまして、猟場を荒らしまわるので今は積極的に駆除するようにしています。
角は加工しやすく細かな装飾品を作ることができ、魔力の浸透率も高いらしくタリスマンとしての利用価値もあるそうです。
陽のあるうちに森に出たところ里のすぐ近くで野生のラットを食している1羽のアルミラージがおりました。
警戒心は強いですが好戦的なので、私のような小柄で女のエルフなら見るなり向こうから立ち向かって来ます。
そうなれば私は銃を構え、緑の照準を左目に合わせて引き金を引くだけです。
動きは素早いですが直線的ですので、比較的狩猟しやすい対象と言えるでしょう。
角に血が付着しないよう気を付けて、木に吊るし排血した後に持ち帰ります。
ああ確かに、普通のウサギには無い鋭い犬歯が口角よりのぞいております。上下20対ほど、エルフよりも少し細かいような歯並びになっていますね。
味などは分かりませんが食用にもなると聞いておりますので、本日の晩御飯にするとします。
基本的には狩猟は陽のあるうちに行う決まりになっております。
もちろん猟師の視覚に於ける判断材料が少なくなることによる危険性があることと、幻獣や魔獣の中には夜になると魔力や狂暴性が増す種が多くあることで、安全性を考慮した決まりとなっております。
密猟者は基本的には夜にコソコソ猟場に忍び込んで獲物を探すそうですが、私の猟場に於いては夜中になりますと、ギャールプが泉を中心に徘徊するようになります。
ですので朝方になって泉の回りで魂を抜かれた密猟者の姿をたびたび見つけては深いため息をついているのです。