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異世界の王  作者: 五ノ式 永代
一章『異世界への来訪者』
6/21

アリシアス

これでーー


「なっ!」エレバルは叫んでしまう。


炎の蛇が消えたのだ。一瞬にして。


剣に力を込め、弾き、距離をとる。


(消された?いや、あれは)


「助太刀しますよ」後ろから声がかかった時、スケルトンはもういなかった。


つまり、相手は剣士のみ。


「ありがとう」


互いの顔を見合わせ、頷く。


剣士は片手。つまり、二方からの斬撃。これでーー「勝てる!」二人の声がピタリと揃い。


飛び上がり、剣に全体重を乗せる。


そして、視界がブラックアウトする。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「ーーーというような構成です」


メアが始めた説明はレレバルによって締めくくられた。


「つまり、王国としては大きく分けて七部隊、そして騎士団が二つ存在する……ということですね?」


誰もが頷く。「はい。他に貴族もいますが」


ガァァ、ガァという鳥の声。


「これは……」出口に近いレレバルが外へ出る。


「何ですか?あの声は」ファリアが尋ねる。


「ああ、あれはメッセージ・バードです」メアが説明する。「着く時間がまちまちになってしまうので、あまり使われませんが緊急では使います」


「しかもあれは術符。高価なものです。自分で生み出すこともできますが、かなり高位の魔法になるので珍しいですね」


アレバルが説明を加える。


「私たちの騎士団でも一隊に二枚しか持たせていません。なので魔術師の方に協力して頂いています」と、ミラントレッタ。


「見てもいいですか?」


素直な疑問が投げかけられた。


恐らく見るのは初めてなのだろう。感情を表に出さないダイスケさえも椅子から身を乗り出している。


「もちろんです」


メアは自らテントの入り口を開ける。


「すみません、ありがとうございます」


ファリアとダイスケが立ち上がり、出て行く。走るとまではいかないが、先程よりも歩くのが心なしか早く感じる。


薄暗いテントから出ると、眩い光が出迎えていて。


そこに待っていたのは、肩に黒い鳥を乗せた、レレバルだった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「誰だ!」ワレバルは叫ぶ。


平屋倉庫の焼け跡の上に乗る女。


「あら、こっわーい」


いやらしい笑み。


彼女を一言で言うなら、ピンク、だろうか。と言うかピンクしかない。


髪、薄い唇、鎖帷子、籠手、足甲、剣。


その全てがグレーにピンク。


薄めの色だが強烈。数人の兵士が思った(友達いないな)という正答はワレバルの頭には浮かばず、代わりに、危険だ、という正答が出てくる。


『戦闘態勢』の手話。


皆が腰にさした杖にゆっくりと手を伸ばす。


「あら、もう挨拶は終わりでいいの?」人差し指を顎に当て、挑発してくる。


その指先は赤かった。


「……お前か」


カレンだ。


「え?何か言った?」


「お前が皆を、ナバヤータを、殺したのか!」


心からの叫び。


憤怒。


憎悪。


殺意。


「えぇ、そう。ここにいた盗賊、兵士は私が解体したの。まあ、全部は間に合わなかったけど。幾つか実験にも使うし」


恍惚の表情を浮かべ、快感に声を震わす。


「血、赤い血、その血が流れ出るところ、それを見た本人の恐怖の表情。仲間の絶望の表情。はぁぁ、だから、だからやめられないの」


指についた血をねぶるように舐め、そのままこちらへ向いてくる。


化け物。


しかし彼女は、何か思い出したかのように立ち止まる。


「あーらいけない、自己紹介がまだだったわね。悪魔の鉄鎚、三幹部の一人。アリシアス・バーミンレット。よろしく」


『突撃する、援護しろ』


杖に邪気を纏わせ、飛びかかる。


走りながら、魔力を固めて刃とする。


「楽しませてもらうわね」


彼女はどこからか二本の剣を出す。


二刀流。分散することで、手数を増やし、代わりに威力が減る手法。しかし、ビイインという音。全力の一撃が片手で止められ、二本目が飛んでくる。


「くっ!ダークフォール!」


闇が降って来て、距離を作る。


「うーん、もっと本気で来てくれないと、お姉さんつまらなくて……」


今までの楽しむような目が、冷たいものへと変わる。声も。


「殺しちゃうよ」


ダークフォールは行動阻害と目眩しだが、効いていないようだ。


「六方突貫!」


彼女のまわりを囲んで斬りかかる。


それをバレエのように一回転して跳ね返し、一人は喉を、二人目は目を……と、五人斬るまで三秒。六人目は、「ふふ、どこからにする?」


武器を捨てさせ、押し倒し、右足の先から頭、左足まで、一周なぞる。


「や、やめろ、やめて、くださいっ………」


目から、鼻から、口からめいいっぱい水を出して、ぐちゃぐちゃの顔で言う。


「私のペットになる?それなら助けてあげてもいいかもだけど。お友達もいなくなっちゃったみたいだし」


ワレバルたちは距離を取り、こちらの様子を伺っている。


アリシアスは兵士の鎧を剥がし、馬乗りになる。


肌に冷たい刃が触れ、血が出てくる。


上を見れば、死、前を見ても死。


なら。


「なっ、なります!ならせてください!」


心からの。


「つまらないわね、あなた」


そして右目に、短剣を突きつける。


「最期の色って、何色だと思う?」


腕を振り上げ、何かに気づいたのか、っ!、と男と距離をとる。


「なに?あなた」


彼女の後ろから声がかかる。


「彼は術符さ。そして、この魔法の核」


術符使い、ロレンチカ。「くっ」十二方向からの鎖が、アリシアスに蛇のように飛びかかる。


いつの間にかワレバル達は戻っていて。


「ぐあっ」避けても蛇のようにまた追って来て、腹に刺さる。


「私の……血………」


アリシアスの目が充血し、恐怖を与える。そして叫ぶ。


「眷属たち!」


森からグルルルと言う獣の声。狼の群れ。


百近い狼がワレバルたちを襲う。


あるものは噛まれ、またあるものは長い爪で切り裂かれる。


地獄絵図だった。


狼からの青い血、人の赤い血が混ざり合い、鎧も、毛もどす黒い色に染まってゆく。


ぐあああっ、キャゥオーン。人と獣の叫び声。傷がない時のアリシアスにとってそれは快楽。


麻薬のような快感。しかし、その快感も中途半端に終わる。


狼がいなくなった頃には、生存者が五十名。


「ふふふ、ふ。今日の事、私を傷つけた事。覚えておきなさい」


彼女は狼と共に、突然現れた闇の中に消えていった。


それと同時に集めてあった死体の下に魔法陣が現れ、死体は闇の中に搔き消える。


「助かった、ロレンチカ」


「ったく、なんだよ。やめた兵なんか引っ張り出しやがって」


無精髭、黒髪、くわえ煙草。よく見ると、左腕が無い。また、右目には傷がある。


ロレンチカ。元ワレバル。つまり元闇の賢者。


通常は死ぬまでだが、ある戦闘で左手を失い、ワレバルの証である右目を自分で潰した。


「いや、まだ王都にいてくれてよかった」


数年ぶりの再会に、王都捜査班との合流指揮を執りつつ話してしまう。


「いてくれなかったら、お前の作った術符がなかったら、全滅してた」


真剣な顔。


「だが、あれは誰なんだ?最低でもBランク。それに、何故王城は空なんだ?」


「それはーー」


本来なら彼が聞いた相手は間違っていない。


しかし今回、その質問に答えられるものは一人。そう。王女しか作戦の全体像を把握していない。前代未聞だ。


そのことを言うと、ロレンチカは黙って少し考え込む。


彼は考え事を邪魔されるのを嫌う。


だから、ワレバルは王城に入った。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


エルサート城。


五百年の歴史を誇る、王国のシンボル。


石を組み立てて作ったこの城は、それだけでも結界の役割をしていた。


塀の全長は二キロという長さで、それだけでも大きさを物語る。


階数は五階だが、地下は四階まである。四メートルはあろうかという門をくぐると、階段の左右に兵士の石像があり、荘厳な雰囲気を醸し出す。


階段から視線を上げると、ステンドグラス。


そこで、赤と青のガラスで出来た猫と鳩のような鳥が戯れている。


この二匹はプリベル神が飼っていたとされていて、この国では神聖とされている。


右を見ると応接間と休憩所。それに食堂がある。


左には図書館、武器庫。


図書館といっても、ここには黙示録の原書など、機密事項はない。


あるのは現代魔法のことや、王国の歴史、薬草のことなど、きりがないほど簡単で安全なものばかりだ。


赤い絨毯を登ると会議室。右は五賢者や、その他の寝室。


因みに寝室には全てバスルームがあり、スイートルームのような心地よさだ。左は王族の部屋。


三階は魔法研究室。


苦情が来てから完全防音となった。


四階は王の部屋。


五階は王の間。ここは主に儀式などに使われる。


地下は城で消費される魔力を供給する設備。宝物殿、そしてもう一つの図書館がある。


この図書館にこそ、真の黙示録があるのだ。


ワレバルの目的は、ここだ。

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