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異世界の王  作者: 五ノ式 永代
一章『異世界への来訪者』
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クリプトラの夜

広大な草原がある。そしてその広大な草原に立つ、三つの軍隊。


総勢一万五千。各五千ずつの集団は、ある場所を囲んでいる。何もないところを。


一つ目の集団は、白い鎧の三千の戦士に、二千の魔法使い。


さらに二千が五部隊に分かれる。


三千は十八部隊。その中でも最高の戦力を持つのが、現エリド王国王女、メア・ロ・レッテ・ベルマータの部隊だ。


彼女は年老いた、父である現王の代わりに軍を率いている。


彼女の部隊には王国警護団団長、ジョシフランド・ナラダがいる。


青い目、戦士の多くがそうだが、きっちり切り揃えられた髪。


がっちりとした体格で、鼻が平たい。


肉弾戦では恐らく王国二百六十万人中最強。九年前、突如として現れたフォレストドラゴンを一人で倒した男。


その功績で、この警護団団長の地位を与えられた。


女王の専属騎士、フェクセル・ローズ。元ウイング幹部。


王国一万人近い軍隊の中で六人しかいない女の一人。


燃えるような赤髪にオレンジの鎧。

それに加えた茶色の目。


七年前、強さを求め続け、闇の世界へと堕ちた彼女は、王城を襲い、ナラダに負けた。


その後、メアによって生を許され、今に至る。


だが、最大戦力は『千姫』メア・ロ・レッテ・ベルマータだ。


彼女の二つ名の由来はその剣。


『千の剣』、サウザンブレード。


千の剣を犠牲に作られたと言われる、7つの神器のうちの一つ。


また、その鎧も神器。


『炎の守』フレイムアーマー。


他の神器は三百年前の戦争で失われたとされており、残っている神器を全て装備した彼女はまさに神に等しい存在と思われていた。


他に、シャル、ミラーゼ、レッターなどの戦士長クラスが陣取る。


ここに来てから数時間。しかし、まだ【それ】は来ない。メアは苛立ちと、焦りと、不安に苛まれる。


「まだなのか……預言では……」


そんな彼女の背後には、魔法使い二千人が援護部隊として、王国五賢者、アレバル、エレバル、ミレバル、レレバル、ワレバルを長として陣取る。


二つ目の部隊はヤエラ騎士団。


普段は王国に蔓延る犯罪組織、ウイングの調査や討伐をしているが、メアらの命令でその戦力の多くを駆り出された。


彼らもまた、苛立ちを募らせる。


「まだなのか?」


「ていうか、何と戦うんだ?」


「お前、知らないのか、噂では……」


そんな会話があちこちから。


それを黙らせるのが、騎士団長、フエノーラ・ロレスト。


顎に髭を生やし、鋭い眼をしている。


体躯からは毎日の鍛練が見えるようだ。


彼は平民出身で、農民達からは人気が高い。


彼がこの地位にいるのは、実力に他ならない。ある少女を救ったからだ。


十二年前、ある少女が森に迷い込んだ。しかもそこは入ったら二度と生きては戻れないとされる死の森。


そこには大量のモンスターが住んでいる。


さらに当時は夜だったため、捜索部隊を投入したが彼らの消息は不明。希望は失われた。

そこに現れたのが彼。


当時二十代後半の彼が、親から継いだという剣で少女を助け出したのだ。しかも、オーガと呼ばれる四メートルはあろうかという亜人種を五体、その子供版とも言われるゴブリンを七体も倒して。


これは、メアの証言もある。


そう。この少女こそメア・ロ・レッテ・ベルマータなのだ。その後、メアの推薦で騎士団に入った。そこで多くの功績を残し、ここにいる。


「静かにしないか!作戦に異議でもあるのか!」


もちろん異議はある。しかし、彼に口答えは出来ない。この作戦の発案者が、メアだと知っているから。


しかし。


(しかし分からん。騎士団長である俺にまで作戦の内容が知らされないだと……。何と戦う?それに策はあるのか?)


三つ目の部隊はグロエス騎士団。


主な仕事としては、王国内の警備などをしている。


組織としては五大神の一人、火の神、アレイアレスを軍神として祭っている。


アレイアレスは国教の神である、プリベルと同じ頃の存在で、五百年前の存在らしい。世界の誕生は五百年前と言われているから相当古いのだろう。


彼らを統べるのが、騎士団長、『剣神』コルゴドール・エンバドラー。


彼もまた、作戦を知らない。


(捨て石か……それとも……)


噂には、龍人の血を引くとも言われている謎多き男。濃い青の瞳、長い銀髪。傍目で見ると、戦士には見えないくらい穏やかな顔つきだ。


しかし、戦闘中には豹変する、変わった性格の持ち主だった。


騎士団に伝わる剣、ブーストダガーは、血を吸うことで力を増す魔剣。 騎士団の象徴とも言える武器は、ここには無い。


なぜなら、大人数がいるときは味方の血も吸う可能性があるため、使えないのだ。特に、今回の様な相手が少人数の時は。


そう。今回は相手が一人。


コルゴドールの顔に焦りが見える。


一対一万五千。圧倒的な数的優位。


通常ならば王国最高レベルの魔術師である五賢者の一人を相手にしても、当てる戦力は百人程度。


しかし王女は最精鋭だけでなく戦場での最低レベル、Dランクの者まで求めてきた。つまりは相手が破格の強さを誇るということ。


おそらく、Dランクは捨て駒。


SSランク。過去に一人しか存在しなかったと言われる伝説の存在。


無敵の王子、ラックオード・ラ・ベルマータ。


その天才さゆえ、エリド王国一国を巻き込む巨大な魔法陣によって封印された不遇の王子。


そんなレベルが来たら…そんなことを言う部下はこの場にはいない。


王の病気、二大騎士団の招集、五賢者と実質的な王が王城が離れているという事実。


いい予感がするものはいないだろう。

「捨て石か」団の幹部レベルの会議での一言。


そんなことを思い出しての。


だが、メアは自らも動いた。つまり、本気で戦うということ。


メアや五賢者が助けを求めると言うのは、多少なりとも貸しになる。


王族がそれを望む筈がない。


ということは………。


そんな、疑問、焦り、不安、様々な感情が揺れ動く中。


突然、空が黒く染まり始めた。


一点を中心として、黒雲が青い空を包む。


龍なのか、それとも別の何かか。どちらにせよ、予想以上の強さだろう。


対龍用の魔法陣の準備には一時間はかかる。そこまで持つのか。


黒雲というのは神話の龍レベル。


「戦闘準備!」メアの声。


皆が我に返った様に、剣を抜き、矢をつがえ、杖を構える。


その時間は長いようで短かった。


雲の膨張が止まる。


皆が空を見上げる。が、絶望の目。


プリベルの黙示録、第五十七項五段。


「……クリプトラの……夜」


コルゴドールは、いや、メアも五賢者もヤエラ騎士団長、フエノーラも。

全員が、怯えていた。


当たり前だ。


この世界でクリプトラの夜を知らないものはいない。子供の頃から聞かされて来たのだから。


それは女王でも、平民出の騎士でも同じ。


やがて、雲の中心から真下に向かって眩い光が放たれる。


丁度兵士たちの囲んでいるところに、閃光が落ちてきて。


突然の光に、してはいけないと知りながらも、目を瞑ってしまう。


メアはゆっくりと目を開く。


そのまま、目が大きく見開かれる。

誰もが驚きを隠せない。


後ろの方から、剣の落ちる音が数回。


メアも、誰もがショックで動けない。


勝てない、という絶望に。


ーーその光の下には、二人いた。


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