十四回目の魔法陣
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「……ねむ」
勉強が終わり、参考書やらノートやらを仕舞う。平凡な一軒家の二階で、ダイスケの大学入試は残り1カ月ほどとなった。
広めの机に残った時計は、すでに一時を告げている。
「ふゎぁー」と、長い欠伸を残し、ベッドに入る。
明日もバイトと勉強。少し反省するべきか。
「おやすみなさいっと」
暖かい。疲れがどっと押し寄せてくる。
「冬の羽毛布団は必須だな」
そんな言葉を残して、すぐに深い眠りにつく。
夜空には、いつもより多くの赤い星が躍っている。何かの模様のように。
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「そろそろかな」
少年の姿の者が言う。
「今回は長かったから暇されているだろうし」
山の上の開けたところに彼らはいた。
側から見ると教祖と信者のようだが、この中のトップであるファスタですら信者のひとりだ。
見た目は少年。でも、真実は七百歳くらい。そろそろ人生にも飽きて来たが、そうも言ってはいられない。そんなことよりも大切なことがある。
「それにしても、なんでこんな子なんだろ」
思ったままを口にする。周りには信頼できる部下ばかり。中には、六百年も共に歩んできた者もいる。
ファスタの手のひらには人の姿が浮かぶ。
足元には青い、大きめの三重の円。その中をちょうど星のように線が繋ぐ。ゆらゆらと、呼吸をしているようにも見える。
足元の魔法陣には莫大な魔力を使う。だから今日まで準備してきた。
「ファスタ様、時間です」
「分かってるよ、ザス。じゃあ、始めようか」
彼らは魔法陣を囲む。
それにファスタが手をかざすと、魔法陣は赤く光り始める。
「これで、ハスタ様に……」
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「…ん……ふぁぁ…」
ダイスケは目を開ける。目が覚めたのか。
いや。まだ覚めていないのだろう。ここは夢らしい。
そう思ったのは、自分が寝たはずの部屋ではなかったからだ。
広い部屋だ。もはや部屋と言えるのかというくらい広い。ホールと言うべきだろう。
仰向けに倒れていても広さがわかるのは、天井の広さからだ。
原っぱで星を見るような遠さ。
体が重い。
動かない。
辛うじて頭が動く。
左を向く。
白い世界。
右を向く。
金髪の男。
「こんにちは〜」
優しそうな緑の瞳。後ろで結んだ長い髪が白い服に映えている。しかもイケメン。
二十代くらいに見える。しかし、彼の目からは長い歴史を感じさせる。
しゃがみ込み、こちらを覗き、満面の笑みで話かけてくる。
「はじめましてだね、ダイスケくん」
声が出ない。いや、そもそも口が動かないのだ。
「ああ、説明が終わるまで待っててね。少し長くなるかもだけど」
彼が指を鳴らす。ダイスケの体が浮き、どこからか現れた椅子に座らされる。そして、自らももう一つの椅子に座る。
「僕はファリア。君を導く者で、こう見えて神をやっているんだ」
ファリアはニコニコしながら話し続ける。高価そうな白い服。どこかの王のようだ。
「君は特に死んだ訳でも無く、偶然この世界に来た訳でも無いんだ。ただ単に、必然さ」
いや、神か。
「だから、君は今日から王様になってもらう」
意味がわからない。
「国の名はエリド。王になるんだから当然、王政だね。今ちょっと王が死ぬことになって大変なんだ」
白い世界で二人が、運命の歯車を加速させる。その歯車は重く、しかし着実に回っている。
「それで君を呼んだわけだ。少し危険かもしれないけど、まあ大丈夫でしょ」
……は?と、聞いていてはてながつく台詞をスラスラと言ってのける。
しかも笑顔。夢には最近あったことが関連すると言うが、こんな男にも、冒険に飢えてもいないダイスケには心当たりがない。
「最低限の助力はしてあげるから大丈夫だよ。なんてったって僕は神だからね」
ふふふ、と謎の笑い。
気に入っているのだろうか、ファリアは首から下がった笛の付いているネックレスを弄る。
「いや、ごめん。人間なんてしばらくでね。あ、質問は受け付けないよ。あと、特殊アイテムとかないから」
ファリアが指を鳴らす。
身体中に弱い電流のようなものが走った気がする。
動ける。
王になるなんてご免だ。俺は勉強をして……あれ、どうなるんだ?
俺は何がしたかったんだ?
思い出せない。
でも、夢だ。
夢なら別に構わないだろう。
思わず、
「久しぶりに面白い夢が見れそうだ」
と言ってしまう。
少年の囁きはファリアの笑みに迎えられる。
ファリアの向こうを見ると、いつの間にかそれらしい白い扉がある。
「あ、あんまり長くならなかったね」
彼は笑う。
「さあ行こうか、新しい世界へ」
ファリアが微笑みと共に手を伸ばしてくる。
なぜだろう。頭が揺れる。
ダイスケは少し躊躇って、手を伸ばした。
そして後に思う。
あのとき手を取らなかったら……と。