刑事と新聞記者
天音はそのノートが本物だと証明するために1ページ目を見せてくれた。
確かにあのノートだ。あの時みた字と筆跡が同じだ。
「天音さん……どうしてそのノートを持っているの」
「あなたと同じく本棚で見つけたのよ。
ただあなたはそれを学校の図書室で見つけたけど、私はこれを私立図書館の本棚で見つけたの」
「じゃあ、僕が説明しなくても天音さんは全部分かっているんじゃ……」
「いいえ……。私はあなたと違って最後のページを開いていないのよ。
だからあなたがどんな世界に飛ばされたのか知らない。
ねぇ、答えて!あなたはあのノートを使って、どこに行っていたの!」
「……」
僕が天音から問い詰められていたちょうどその頃、警察署では重要な会議が開かれていた。
「では、市内全域における、市民の連続失踪事件の、対策会議を始めます!」
「船橋くん、もう少し小さな声で話さないか。
ただでさえどっかのアホが、捜査情報をうっかりマスコミに漏らしてしまったのだから」
そう言われ、新米の刑事である榊靖也は項垂れる。
何を隠そう、今ニュースで取り上げられている女子高生失踪事件の情報を、記者の生田目に漏らしてしまったのはこの榊だった。
……
喫煙所で煙草を吸っていたところ、榊は
「いなくなった女子高生の近くに、白紙の大学ノート、か……」と呟いてしまっていた。
「なんですか、その面白そうな話」
「な、生田目!」
「榊さん、もっと詳しく話して下さいよ」
……。
「あぁあ、榊が漏らした情報のせいで警察には問い合わせが殺到している。
うちも白紙の大学ノートがいなくなった場所にあった。
これは事件じゃないのか、ってな」
榊は何も言い返せなかった。
「まぁまぁ、いずれどこかで情報はもれていたでしょう。時間の問題でしたよ。
榊くんはこの失態を取り返すために、より一層の努力をして下さい」
そう優しく言ったのは刑事課長の五十嵐であった。
榊は「はい!」と力強く返事する。
「では早速本題ですが、ここ一週間の短い間で、市内では確認できるだけで、8人の人間が行方不明になっています。
8人の者は年齢や性別は様々ですが、一つの共通点があります。
現場に残された白紙のノートです」
「誘拐事件として扱っていいんじゃないかね?」
「それにしては犯人からの犯行声明や身代金の要求も何もない」
「いなくなった場所も点々としているし、組織的な犯行かも!」
「いずれにしても謎が多すぎる」
事件の資料に目を通しながら榊はこの事件へ並々ならねやる気を湧き上がらせていた。