異世界での生活
魔水晶の魔素鑑定から既に数ヶ月が経った。
由香里が魔水晶でとんでもない結果を出した後は、毎日の食事、ベッド、召使いまでが侘助達それぞれに与えられた。
ただし由香里は日中魔法の訓練をするのが条件である。
そんな強制するような事は、と侘助は反論したが、由香里の魔素の量で魔法に対する知識が無いというのは極めて危険な事で、他人や自分を傷つけるおそれがあると説明をギュスターヴから聞かされ、渋々納得した。
そして侘助の方はと言えば、なんと、ほおって置かれた……。
大した魔素も持っていない侘助は重要視されなかったのだ。
そこで侘助は考えた。今自分が何をすべきか。
①情報収集
②力をつける
この2つが特に重要と侘助は判断した。
そのため侘助は昼間は街に情報収集に行ったり、訓練場で力をつけたり、夜は城の図書室で本を読んだりした。
由香里とは毎日夕方や夕食に顔を合わせたが、元気そうであった。
魔法の訓練も順調らしい。
侘助は今日も王国の訓練場でギュスターヴと模擬戦を行っていた。
力の差が歴然の為、ギュスターヴは大分ハンデをつけている。
利き手を使わない、足技もなしのルール。
とはいえ侘助の方は武器は篭手だけ、素手での戦闘という驚くべきものだ。
ギュスターヴの剣戟を篭手で捌く様は、訓練場の皆の注目を集めていた。
「侘助、結構いい線いってんじゃん。団長大丈夫か?」
そう言ったのは女兵士エリザである。
「はぁー、変われば変わるもんだな、エリザ。最初は、怪しいやつ!縛り上げろ!なんて言ってたのによ」
「う、うるさいぞキルルク!お前だって怪しんでただろ!最初は!」
「いや、俺は団長がめちゃめちゃ言うから一応止めただけで、最初から悪いやつだなんて思ってなかったよ」
「そ、そんな……ずるいぞ!」
二人がそんな言い合いをする中、侘助が一気に勝負をかけたラッシュを放つ。
手数の多さに見ていた兵士は舌を巻くが、それを全て剣で受けるギュスターヴは一枚上手だ。
「なら、こいつはどうだ!」
と侘助は渾身の回し蹴りを放つが、ギュスターヴはそれも詠んでいたようで、あっさり防いでしまう。
余りにも楽々と防がれてしまったため、侘助は驚きを隠せない。
そのスキを見逃す程ギュスターヴは甘くは無い。
訓練用の木剣がいつの間にか侘助の首筋に突きつけられていた。
侘助は心底悔しそうである。
「あーあ!くそ!また負けた!今度こそ利き手を使わせられると思ったのに!」
「はっはっは。短期間でこれだけ動ければ上出来だ。強いて言うなら侘助は動きが直線的で読みやすい。敗因はそこだな」
「同じことを言われたことがある……少し考えてみる、ありがとう」
侘助はあの日から訓練場にちょくちょく顔を出しているのだ。
兵士達も侘助の成長と勤勉ぶりに、一目置き始めている。
「侘助!次は私とやろう」
エリザがそう声をかける。
口には絶対に出さないが、エリザは侘助の事が大分お気に入りのようである。
侘助ともなんども模擬戦をしている。
侘助の方もまんざらではない。女性は苦手な方である侘助もエリザには気さくに話しかけられる。
「オッケーエリザ、じゃあ何かかけるか?」
「おっ、いいのか?お前一度も私に勝ったことないじゃねぇか」
「油断していると足元すくわれるぞ」
「生意気な!よし、やるぞ!」
兵士全体の士気も上がっている。
この光景を見てギュスターヴは満足そうにフフンと1つ笑った。
結局勝負はエリザの勝ちであった。
賭けに負けたせいで次のエリザの休みに買い物につきあわされる羽目になった。
やれやれ、やっぱり賭け事などするものではないと思う侘助。自分は運がないと思っていたその夜の事であった。
侘助は図書室で、空間転移の禁術に関する記述を見つけた。
「これは!!」
侘助はすぐにメモを取り、由香里の部屋に走った。
これは日本に帰るための重要な手がかりになるかもしれない!
きっと由香里にも希望を与えられる!
そう思っていたが、由香里の部屋の前で兵士たちに足止めされた。
「申し訳ありません。由香里様は本日体調を崩していらっしゃいます。明日にしていただけますか」
「そ、そうですか……。大丈夫なんですか?由香里は」
「ええ、医者の話では2、3日安静にすれば問題ないとの事でした」
侘助は、体調が悪い時に無理やり話すこともない
とその日は引き下がった。
しかし、その後侘助と由香里が2度と会うことはなかったのである。
間もなく過去編終わり。
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