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覚醒の始まり

「あえて口にしたくはないですけど、これ、地球の生き物ではないですよね」

と由香里が言った。

「えっ、地球じゃないって?い、いや待て、もしかしたらここは南米じゃないか?南米にならこんな……」

「南米にもこんなのいませんって!ていうかこれ、絶対あれでしょ!」

「あれって?知っているのか、こいつらの事を」

「いや、知っているというか、見た目の特徴的にこれ絶対ゴブリンでしょ」

「ご、ご、ごごぶ、りん?」

「マジですか!?ゴブリン知らない人ってこの世にいるんですか?」

「いや、聞いたことはあるんだ、聞いたことは。でも詳しくは……」

「はぁー……いいですか、ゴブリンっていうのは空想上の生き物で、分かりやすく例えると、人を襲う緑の小鬼みたいな感じですね」

「空想上!?今目の前にいるんだが?」

「うーん、そうなんですよね」

そう言うと由香里はおもむろに侘助に近寄り、さっとその頬をつねってきた。

「いたっ!何するんだ!」

「やっぱり、夢ではないと……」

「嘘だろ?二度目だぞ?」

「うーん……まぁ考えていても仕方ありませんよね」

「……確かに、今はこの耳長緑小男の正体よりも、安全の確保の方が大事かな」

侘助がそう言うと、由香里が顔をポリポリとかきながら言いにくそうに言った。

「えーっと実はその安全の確保の事なんですけど、もしかしたら何とかなるかもしれないんですよね」

「どういうことだ?」

由香里は言うのを何かためらっているようだったが、ついには思い切ってという風に話を始めた。

「じ、実はですね、信じてもらえないかもしれないんですが、さっきから私何かおかしいんですよ。えっと、おかしいって言うのは調子が悪いとかそういうのじゃなくて、むしろ調子がいいというかなんというか……」

「そのおかしいって言うのはどういう風に?」

「うーん……信じられないかもしれないですけど、今私この森のかなり奥の方の音まで、細かく聞き取れているんです。この小川の上流のほうに向かって歩くと、これと同じゴブリンがあと5匹います。あ、でもだいぶ距離は離れているし、そいつら動く気配もないのでとりあえず大丈夫そう。そんでもって向こう側には野生の動物、たぶん猪かなんかが一頭います」

「ちょ、ちょっと待ってくれ!音?確かにさっきかなり離れた所からこの小川の音を聞き分けていたけれど、いくらなんでもそれは……」

「わ、私だって信じられないですよ!でもなんでか分かるんですもん!そして一番大事なのはここからです。たぶん間もなくこちらに5人、馬に乗った人たちが向かってきます」

にわかには信じられない侘助であったが、一蹴してしまうには由香里の表情が真に迫っていた。

「……その5人は危険か、そうでないか、分かったりしないのか?」

「さ、さすがにそこまでは……今なら隠れてやり過ごすこともできますけど……」

侘助はちょっと考えたがすぐに答える。

「いや、馬に乗っているならこの緑の小男とは違うだろうし、確かに人間の可能性が高い。このまま森を彷徨うよりは、その5人と接触を試みる事に賭けてみた方が生き残れる可能性は高いと思う」

「……分かった」

侘助と由香里が数分待っていると、今度は侘助の耳にも馬の足音らしきものが聞こえた。。

「本当だ!」

思わず感嘆の声をあげてしまう侘助。

音が聞こえて間もなくして、由香里の言った通り馬に乗った5人の者たちが現れた。

その姿を見て侘助たちは思わずあっ!と声を上げそうになった。

全身を西洋風の鎧に身を包んだおよそ現代では考えられないような容姿の5人、彼らは侘助たちを見ると、

「どおどお!」

と言って馬の脚を止めた。

5人の内、一番立派な馬に乗っていた者が口を開く。

「奇妙な恰好……お前たち、何ものだ!」

強く力強いけん制するようなその声であったが、恐怖や奇怪さ以上に、侘助たちは人と会えたこと、そして相手が日本語でこちらに話しかけてきたことにまず安堵してしまった。

「怪しい者ではありません!敵意もありません!私たちはこの森で道に迷ってしまっただけです」

5人は侘助たちを値踏みするように観察していた。

5人の内一番小柄な者が言った。

「団長あれを見てください」

兜をつけていたため、顔が見えなかったが、どうやら小柄な兵士は女性の様だった。

女性の兵士があれと言ったのは、侘助が倒した2匹のゴブリンの事らしかった。

団長と呼ばれたのは立派な馬に乗っていた一番最初に侘助たちに声をかけた者らしい。

「ふむ、一匹は死んでいるが一匹は生け捕り。見た所武器を持っている感じでもないのにな」

「こ、これは……襲ってきたので仕方なく」

侘助がそう言うと女性の兵士が言った。

「怪しいです、この者たち。即刻捉えるべきかと」

「ま、待ってください!本当に怪しい者ではないんです!それにこっちの彼女はまだ学生ですよ!」

そう言って弁明する侘助を、女性の兵士は怒鳴りつける。

「ええい!黙れ!そんな格好の学徒がいるものか!」

由香里の言った通り、ここは地球ではないのかもしれない。常識が一切通用しない。

侘助は冷や汗が流れ出る。

そんな侘助の姿を見て、団長と呼ばれた男はなぜか心底おかしそうに笑いだした。

「はっはっは!!エリザ、そう熱くなるな」

そう言われると女性兵士は面白くなさそうに黙り込んだ。

代わりに長身の兵士が団長に尋ねる。

「ではこの者たちの処遇はどうしますか?」

「城に連れていく」

「それは罪人としてでしょうか」

「キルルク、お前までそんな事を言うのか!こいつらは民間人だ!見ればわかる」

「ですが、ゴブリンを2匹やっているのも事実です。何らかの武器を隠し持っているのは間違いありません」

武器の所持!?そんな嫌疑をかけられるなんてごめんである。

侘助は会話に割って入った。

「待ってください!武器なんて持っていません!あれは素手で倒したんです!」

それを聞いた途端、エリザはかっとなって怒鳴りつけた。

「やはりこいつ!素手でゴブリンをだと?ふざけているのか!!団長やはり縛り上げましょう」

しかし団長は一層おかしそうにしている。

「素手で!なんて面白そうなやつらだ!縛りあげるなんてとんでもない。客として丁寧にお連れするんだ。すまんね、二人とも、私の名はギュスターヴという。アルマナ国の騎士団長を務めている。二人さえよければうちの城に来ないか?もちろん乗せていくぞ」

「団長!」

よく分からないが、この者たちのリーダーには気に入られたようであった。

侘助はもちろん誘いを受ける。

「ありがとうございます、ぜひお願いします」

「そうか、じゃあ後ろに乗ってくれ」

そう言ってギュスターヴは自分の馬の後ろに乗れという。

当然のように女性兵士のエリザが反論する。

「団長!せめてその者たちの手だけでも縛りましょう」

「必要ない」

長身の兵士キルルクもエリザ寄りの意見なようで口を出す。

「団長、流石にこれはエリザが正しいです。武器を隠しているかもしれない者を縛りもせず後ろになど……」

「必要ない。それとも何か?私が万が一にもこの者らに殺されるとでも?」

ギュスターヴそう言った途端、侘助の背中にゾクリと悪寒が走った。

キルルクやエリザも同じようで、ごくりと唾を飲んでいる。

キルルクがはぁーとため息をつき言う。

「わ、分かりましたよ!でも馬は私の馬です男は私の馬に乗せます」

「おお!では私がこの女の子の方か!喜べ、この馬、(カエデ)は速いだけでなく走りがしなやかだぞ」

「女は私が乗せます」

エリザがそう言った。

「ふむ、仕方ない。では頼むぞ」

キルルクが侘助に、

「ほら、乗りな」

と声をかける。口では厳しい事を言っていたキルルクであるが、その実侘助たちを大して脅威とは思っていないようであった。

しかしエリザのほうは相変わらず侘助をにらみつけている。

侘助が心配そうに由香里を見ると、女同士のせいか由香里には少し優しい気がする。

侘助のみが敵だと言わんばかりに殺気を向けてきている。

それに気づいているのか気づいていないのか、やはり楽しそうにギュスターヴは言う。

「さぁ、すぐに戻るぞ!馬を飛ばせ!!」


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