出会い
警察を辞めた侘助はその後の時間の殆どを有働の捜索にあてた。
しかし侘助がいくら足を動かしても、有働の行方が分かるような情報は一つもあがらない。
一向に進展はなかったが、事態は思わぬ所から動き出す。
今日も侘助は有働の捜索のため、地道な聞き込みを行なっていた。
その時だった、
「いなくなった警察官を探しているおじさんってあんた?」
突然侘助に声をかけてきたのはどうやら地元の女子高校生のようだ。制服姿にショートヘアのその女の子は何が気に入らないのか、心底不機嫌といった様子で侘助を睨みつけている。
「確かに、それは私だと思う。けど君は……」
そう言った瞬間女子高校生は思いっきり侘助の脛を蹴り飛ばした。
空手の有力者である侘助も、まさか出会い頭の高校生に蹴りを貰うとは思っていなかったので避けることもできなかった。
「な、何するんだ、いきなり」
「もうお兄ちゃんの事はほっといて!あんたみたいのが引っ掻き回すせいで、私たち家族は本当に迷惑してるの!」
「お兄ちゃん!?って事は君はもしかして……」
「そうよ、私は……」
「井筒純也の妹よ!」
「有働晴彦の妹!」
「「へ……!?」」
2人は顔を見合わせる。
「お兄ちゃんを探してるんじゃないの?」
「有働の妹じゃないのか?」
「うどう?誰よそれ?」
侘助は彼女が有働と一緒に失踪している井筒純也の妹であると分かった。
「そうか、君は井筒巡査の……」
「ほら、やっぱりおじさんお兄ちゃんの事知ってるんじゃない!探してたんでしょ、お兄ちゃんの事!」
「探してるのは君のお兄さんではなくて有働晴彦という男だよ。それとおじさんおじさん言ってるが、一応私は君のお兄さんと同い年だからね」
侘助がそう言うと井筒の妹は自分が酷い思い違いをしていた事に気がつきみるみるうちに顔を真っ赤に染めた。
「あ、あの、その……ごめん、なさい……」
うつむきながら井筒の妹は勘違いしてしまった事といきなり蹴りつけてしまった事を謝る。
「……いいよ、別に。でもいきなり人を蹴飛ばすのは良くない」
「は、はい、ごもっともです。
あの、私、井筒由香里って言います。
私蹴っちゃったんで、あの、被害届出してもらっても仕方ないし……。あっ、それより、足、怪我、病院とか!」
「大丈夫だよ。ずっと空手やってるから、こんなの日常茶飯事だから。
高雲侘助、君が名乗ったからね、高雲でも侘助でも好きに呼んでくれ」
「は、はい!高雲さん、本当にすいませんでした!」
そう言って井筒由香里は深々と頭を下げた。
「本当に大丈夫だから。それよりも、家族が迷惑しているって話、できたら詳しく教えてくれないかな?ひょっとしたら力になれるかもしれない」
井筒の妹を助けてやれるかもと侘助が考えたのは事実であった。しかしそれだけでなく、彼女が有働を探す上で重要な手がかりを持っているのではないかと、なんとなく予感したのであった。




