陰謀
有働と井筒の捜索は、あくまで通常の行方不明として扱われた。
幸い2人は拳銃や手帳等の警察の備品を持ち出していなかったので、指名手配まではされなかったのだ。
捜索開始から一週間。
2人は見つからないどころか、手がかりさえ出てこない。
捜索開始から1ヶ月。
依然として見つからない2人。捜索はほとんど打ち切りに近い状況だった。
そんな所、侘助の元に警部への昇進、そして情報管理課課の部長への転任の辞令書が届く。
辞令を受けると同時に、侘助はあらかじめ用意していた辞表を提出した。
そして辞表を出した日の夜の事。
侘助の携帯に一本の着信が入る。
「はい、高雲です」
「……君が辞表を出したと聞いた。本当か?」
侘助に電話をかけてきたのは天音警視であった。
「……」
「考え直せ」
「申し訳ありませんが……もう決めた事です……」
「私は来年度、警視正への昇進が決まっている。君をもっと引き上げてやる事もできる。
前にも言ったが私は君には期待しているのだ」
何を言われても、侘助には一つ譲れないものがあった。
「……天音警視、正義とはいったいなんなのでしょう?」
いきなりの質問に天音警視はちょっと戸惑ったが、すぐに侘助の質問に答える。
「正義?それはもちろん、警察組織として悪を挫く事だ。高雲君、その為にも君は警察に残るべきだと言っているのだよ」
「……私も、警察こそが正義なのだと信じていました。しかし今回の一件で分からなくなったのです」
「今回の件とは有働巡査の事か?彼については残念だったが仕方がないのだよ」
「天音警視、私は有働が犯人だと聞いてから今まで、一度も彼の身の潔白を疑った事はありません。
つまりは警察組織の方を疑ってしまっているのですよ。
大丈夫です。自分がおかしい事は分かっています。
だから考えました、悩みました、この一ヶ月。
しかしそれでも私の考えは変わりませんでした。
私の中の唯一信じられるもの……これが正義なのかどうかはわかりませんが、その唯一の信じられるものこそが、有働春彦という男だったのです」
「……残念だが、考えを変える気はなさそうだな……」
「……天音警視には色々とお世話になりましたのに、こんな結果になって申し訳ありません」
「いや、いいんだよ。それより君は、これからどうするつもりなんだい?」
「多少の貯えはあります。独自に有働の居場所を探してみたいと思います」
「そうか……。邪魔をして悪かったな。辞職前の準備や手続きで色々と大変だろう。
では、辞職後も元気でやってくれ」
「ありがとうございます。警視も、お元気で」
電話を切った侘助は深いため息をついた。
警察が一ヶ月も探して見つからない有働を、一個人が見つけ出すなどというのは現実的ではない。
もしかしたら有働は既に死んでいる可能性だってある、などという考えが一瞬侘助の頭をよぎったが、すぐにこれではまずいとネガティブな考えを吹き飛ばすため頬をパンパンと叩き気合いを入れた。
警察を辞職した今、どの道引き返す事などできないのだ。
電話を切った後、天音警視は思わず渋い顔をし独り言をつぶやく。
「あれが見えたのは高雲が初めてだったんで期待してたんだがな」
天音はタバコに火をつけ、ゆっくりとソファに腰を下ろす。
「仕方ない。彼にはノートが本当に使えるか、実験台になってもらう事にするか」




