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暗雲

「どうした?大丈夫か、高雲君?」

天音警視の電話口からの言葉にはっとし、侘助は我に帰る。

「すみません。実は先程天音警視がおっしゃっていた有働巡査とは同じ空手道場に通っていて、私が不正アクセスについて調べていたのも有働から怪しい者がいると聞いて調べていたのです。

それもあって、有働が犯人だと聞いても、私にはとても信じられないのです」

「ふむ、私も詳しい話を聞いたわけではない。有働巡査が潔白か否かはなんとも言えん。

高雲君さえ良ければ、今から本庁の方に来られるかな?そこでなら本件の詳細が分かると思うが」

「はい、すぐに行きます」

夜中走り回っていたため、侘助の身体は疲れきっていたがそんな泣き言は言っていられない。


侘助が本庁に着くと既に天音警視が待っていた。庁舎内で検証作業をするのかと思ったが、天音警視以外に人がいる様子もないため、そういう訳では無いらしい。

「遅れてすみません。他には誰かいないのですか?」

「他の警官は有働巡査と井筒巡査の身柄を抑えに行っている」

「えっ、どういう事ですか?」

「どうやら今回の件有働巡査1人ではなくもう1人、井筒巡査という者も関わっていたらしい。

幸いこの不正アクセスの問題は本庁でも極一部の人間しか知らない。だから内々に事を納めることになった。

2人には依願退職という形で職を辞してもらい、その代わり不正アクセスの件に関しては不問にする。もちろん2人には退職後も監視が付くがね」

「大変恐縮ですが、その方法は間違っていると思います。

いくら今回の事実が警察にとって不都合な事実でも、それを明らかにしていくのが警察の務めであり、義務ではないでしょうか。

それにまだ、有働が犯人と決まった訳ではありませんし……」

「高雲君、もしもこの件が公になればどうなると思う?」

「それは……」

「警察の個人情報の管理の是非が問われる事になる。警察のデータベースは今や我々最大の武器だ。これを元に数々の犯罪者達を検挙してきたと言っても過言ではない。

その最大の武器が制限される事になれば、犯罪者達の思う壺だ。

高雲警部補、これは我々が感情論だけで判断してはならない問題なんだ」

「データベースの有用性、今回の件の重大性については重々承知しています。しかし!」

「高雲君、私は君には色々と期待しているのだ。これ以上失望させないでほしい。

それと有働という男。彼と親交があったという点については隠しておくべきだ。君の進退に関わってくるぞ」

「……。何故、有働が不正アクセスに関わっている事になっているのですか?」

「直接不正なアクセスを行なっていたのは井筒巡査だ。しかしその隠蔽工作を行なっていたのが有働巡査と判明したのだ」

「隠蔽工作?それこそ有働には不可能です。

情報管理課で他人のアクセス情報に介入できるのは警部補以上の者です。

刑事課の巡査である有働にアクセス情報の隠蔽は不可能です」

「それなんだが、情報管理課の現部長である原田警部は数日前に自分のIDとパスワードをメモしていた手帳を紛失している事が明らかになってね。その原田警部の手帳が有働巡査のデスクから見つかったのだよ」

「そんな!とってつけた様な都合のいい話」

「事実なのだから仕方ない。原田警部には残念だがこの先情報管理課の部長としてはやっていけまい。IDとパスワードをそんなずさんに管理するとは。彼は左遷だ。

情報管理課の様な課には若い部長がつくべきだ。高雲君、君の様な優秀な者が部長をやってくれれば都合が良い」

天音警視の話が嘘や冗談でなければ、侘助にとっては異例の出世だ。しかしそんな事は侘助はどうでも良かった。侘助が望むのはただ一つ、有働の潔白だ。

「それだけで有働が犯人とは、誰かが有働をはめようとしている可能性だってあります」

「有働巡査のパソコンから井筒巡査のアクセスを改竄する操作が行われていた。

これで疑わないという方が難しい。それにもちろん2人の身柄を確保したらしっかりと聞き取りも行う。そこで弁明や弁解があるならちゃんと考慮はされるだろう」

天音警視はそう言っているが、どう考えても有働に不利な状況だ。なんとかして有働を助けたいと思った侘助は頭を必死に働かせるが妙案は浮かばない。


侘助と天音警視は庁舎の休憩室で有働と井筒の確保の知らせを待った。

30分程して天音警視の携帯に着信があった。

「もしもし。……そうか……うむ、……ああ……分かった」

電話を切った天音警視は侘助の方を見つめ静かに言った。

「有働巡査と井筒巡査、どちらも自宅には帰っていない事が判明した。携帯も電源を落としている。本庁は2人が意図的に行方をくらましたものとして捜査を開始する事になった」

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