予感
2日後、侘助は原田警部補と昼休みに庁舎内で会う約束をしていた。
本当は仕事終わりの方がいいのかもしれないが、夜は有働と会って調査の結果を話し合う予定がある。
侘助が情報管理課に赴くと、原田警部補は既に侘助を待っていた。
「高雲警部補だね。天音警視から話は聞いているよ」
原田警部補は歳は天音警視と同じくらいだろうか。後輩と言っていたのでもしかしたら1つ2つ年下なのかもしれない。
「お忙しい所時間を作っていただいてすいません」
「いや、気にしないでくれ。それに来年には警部に出世して情報管理課に来る予定らしいじゃないか。
未来の上司には良くしておかないとね」
それを聞いて侘助は苦笑した。天音警視が上手く言うと言っていたがこういう事だったのかと納得がいった。
「まぁあくまで予定ですがね。何しろこの職場の予定というのは急に変わるものです」
「確かに、高雲君の言う通りだ。私もずっと刑事一本でやっていくつもりが、今や情報管理課なんて言う、一般人じゃ誰も知らないようなマイナーな部署で警察官をやっているんだからな」
そう言って原田警部補は自嘲気味に笑ってみせた。
「さぁ、入ってくれ。情報管理課と聞くと畏まったイメージがあるかもしれないが、一部の場所を除いて何処の課員でも入れるようにはなっているんだ」
侘助が中を覗くと、中には2人ほどデスクに向かい作業をしているが、他の者は飯を食べているようだ。
情報管理課の課員は侘助を見てぺこりと軽く会釈した。
「昼は交代で取る。仕事の性質上24時間誰かしらがデスクにいなくてはならない。
夜中も交代で勤務している。つまりこの部屋が空になる事はない。誰かしらがいるはずだ」
「パソコンは1人一台ずつあるが共用のものも二台ある。
データベース紹介や署員が不正なアクセスをしていないか調べたりもする」
早速原田警部補の話は核心をついてきた。
侘助はなるべく自然な感じに質問してみる。
「不正なアクセスなんて、わかるものなんですか?」
「普通は分からないね。アクセス自体は違法でもなんでもない。その情報を何に使うかが問題な訳であって、そんな事までは分からないからね」
「ではどうやって、不正かそうでないかを見極めのですか?」
「通常はアクセスの回数や量をチェックする。データベースへのアクセスは日に何回もするものではないし、大量のデータも例外を除いては必要無い。
後は調べているデータの種類だな。刑事が少年のデータにアクセスするのは稀だし、逆に少年課が成人を調べる機会は少ない。
そう言ったアクセス情報を一つ一つチェックして、問題がある者を発見するんだ」
「随分原始的な方法ですね。不正アクセスっていうのはどのくらいの頻度であるんですか?」
「ここではもう6年も不正なアクセスは発見されていないし、この記録はまだまだ更新していけそうだ。
高雲君が来る日まで大丈夫だろうから心配しなくてもいいよ」
つまり、今不正なアクセスをしていると思われる者はいないという事。
しかし原田警部補が嘘を付いている可能性や課員の誰かが隠蔽を行っている可能性もある。
「不正アクセスのチェックは誰が行うんですか?」
「通常警部補以上しか行えない。警部補以上のIDとパスワードが無ければ他の者のアクセス状況を閲覧できない。
つまり私と情報管理課もう1人いる警部補と大田原警部だけがチェックできる。
3人で分担してチェックしているよ」
「……成る程」
つまり不正アクセスの協力者は3人に絞られる。
侘助はその後10分程続いた原田警部補の情報管理課についての説明を聞くと、礼を言ってその場を離れた。
侘助は割に有益な情報を得られたと満足していた。有働が調べた情報と合わせれば、この不正アクセスの問題の輪郭が見えてくるかもしれない。
侘助は仕事を早めに片付け、有働と約束している店に行った。
有働はまだ着いておらず、先に個室に入る。しかし約束の時間になっても有働は現れなかった。
仕事が長引いているのかもしれないと電話をかけてみるが電源が入っていないようで通じない。
侘助は胸がざわつくのを感じた。
何かとてつもなく悪い事が起こっているのではないかという、漠然とした予感が頭をよぎったのだ。




