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帰還

その先の道のりも、旅慣れない僕にとってはなかなか大変なものであったが、スライムと遭遇した時の様な大きなトラブルは起こらなかった。


途中、コボルトなどの小型の魔物に出くわしもしたが、ローガンは僕の事を守りながら、危なげなく魔物を倒した。


コボルトは顔は犬の様な見た目だが二足歩行。

背は小学生くらいだが、体は筋肉がついていて不気味な見た目をしている。


初めに見たとき僕はスライムが出た時より驚いた。


ローガンはコボルトと向き合い、僕にコボルトとの戦い方を教えてくれた。


「コボルトは素早いが知能は低い。一体ずつなら目を離さなければ恐る敵ではない」


ローガンは槍を構え一歩も動かない。


「ギン、動くなよ。動いたら飛びかかってくるぞ」


僕は黙ってうなづいた。


しばらくローガンとコボルトは睨み合っていたが、ついに痺れを切らしたのか、コボルトはローガンに飛びかかった。

しかしローガンは待ってましたとばかりに、飛び上がったコボルトに無数の突きをお見舞いする。


もちろんコボルト一瞬で絶命した。


ローガンはコボルトの牙を抜き取った。


「コボルトは牙がそこそこの値で売れる。使い道が色々とある」


僕はコボルトの解体をするローガンから思わず目を背けた。


「死体が恐いか?」


ローガンの言う通りだった。

ローガンは気を紛らわそうとしたのかコボルトの話を続けた。


「コボルトには銀を腐食させる。銀の武器はタブーだ。逆にアンデットには銀の武器。魔物に合わせて武器を変えるのは冒険者の基本だ」


こんな風にローガンは僕に魔物の事や、冒険者の事を丁寧に話してくれた。

そのおかげで旅は一つも辛くなかった。


僕たちの旅は2日間続いた。


旅の最終日の夕刻、ローガンと僕は草原を抜け、大きな岩がいくつもある寂しい岩場にたどり着いた。


一見何もない岩場を、ローガンは迷うことなく奥へ奥へ進んだ。


岩場を歩ききると、次に僕達は高い高い崖の前に出た。流石にこれは登れはしないだろう。


道を間違えたのかと思ったが、ローガンは崖にある、人が一人ちょうど通れるくらいの裂け目を指さし、


「ここだ」


と言った。


裂け目は洞窟の様になっていて真っ暗だったが、奥にかすかに光が見えた。


「この奥?」


「そう、そこが目的地だ」


背の高いローガンにはちょっと窮屈そうな洞窟だ。


洞窟は足場が悪かったが、ローガンが松明で足下を照らしてくれたので、20分くらいで歩ききってしまった。


進むにつれ、段々と光の正体が分かっていく。それは緑色の不思議な光だ。


僕達は洞窟を抜けた。


洞窟を抜けた先は周囲を高い崖で覆われた行き止まりだが、空だけがぽっかり吹き抜けになっている。


不思議な場所だ。

その場所は小さな民家くらいの広さしかなかったが、植物が青々と育っており、小さな森みたいだ。


空中には緑色の光がいくつもふよふよと飛び回り、幻想的だ。なんとなく分かった。


「これは……魔素……」


「そうだ、ここは肉眼でも捉えられるくらい魔素の濃度が高いんだ」


美しいその光景に、僕はしばらく息を飲んでいた。


「ローガン、どうして僕をここへ?」


ローガンは答えた。


「……ギン、お前はここから、元の世界に帰るんだ」




「帰る?元の世界に?」


僕は急にそんな事を言われ戸惑っていた。


「そうだ。この場所はオズワルドの文に書かれていた場所だ。あいつは旅をしながら、元の世界に帰る方法を探っていたんだ」


「本当に、この場所から……元の世界に帰れるの?」


「魔法の中でも禁術とされる最上級魔法、空間転移。

この魔法は通常人間の体内にある魔素のおよそ100倍の魔素を必要とする。

しかし魔素の濃度が濃いこの場所なら、禁術を使うことが出来る」


「オズワルドさんは……元の世界に帰ったことがあったの?」


「いや、あいつには魔法の才能が無かった。魔素は足りても呪文は唱えられなかった。

どうにか魔法を使えなくても帰れるような方法を考えていたみたいだが、無理だったみたいだな」


「で、でも、僕だって、さっき魔法を初めて使ったばかりだし……」


「魔素が足りているなら、この魔法の使い方は簡単だ。行きたい場所を強く念じればいい、難しい魔法ではない」


帰れる、元の世界に……。

学校のやつらから、いじめられたりもしたが、元の世界には父さんも母さんもいる。帰りたい気持ちはある。

でも……。


「元の世界に帰ったら、ローガンとはもう会えないの?」


「……あぁ、そうだ。お別れだ」


僕は下を向いて黙りこんでしまった。


この世界は元の世界より数段危険だ。


ローガンが僕に帰るように言う気持ちはよく分かるし、こんな態度をとれば彼を困らせてしまうことは分かっていた。

でも、やっぱり僕は簡単に帰るなんて言えない。


「たった数日だったが、お前と行動を共に出来て良かった。俺にはずっと、家族がいなかったが……家族ってのはこんなものかって思えたよ」


僕は涙が溢れてきた。



「いいもんだな、家族ってのも。だから、やはりお前は帰るべきだ、ギン。お前の……家族のためにも……」


僕はロザリオを首から外し、ローガンに返す。


「いい、持っていけ……」


ローガンは僕の頭を優しく撫でてくれた。


僕は無理矢理笑顔を作ってみせる。


「さよならローガン!ありがとう!」


僕は元の世界を強く念じた。

周囲の魔素が体に集まり、体中が光に包まれる。


僕の体は光と一つになり、一瞬にして空高く飛び上がっていった。






「ギン……行っちまったか……。


あの炎、やっぱり予言の通り……。

だが、1人の少年にこの世界の運命を背負わす訳にはいかない……。


代償は老いゆく者が払えばいい……。そうだろ、オズワルド……」


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