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戦いは終わり……

戦いはヒナの完全勝利であった。

しかしヒナも相当の魔素を使用した上に、脳や筋肉に膨大な負担をかけている。


ヒナは一瞬ふらりとよろめいた。


「ひ、ヒナ!」


慌ててヒナの元へ駆け寄り彼女を抱きとめる。


「ヒナ、大丈夫?」


「えっ?うそ?銀一郎が……私を……」


抱きとめたヒナは顔色が見る見るうちに真っ赤に染まっていく。


「きゅーーー」


と言う変わった悲鳴を上げて、ヒナはそのまま意識を失ってしまった。


「ひ、ヒナ?」


慌てて脈を確認した所、激しいがちゃんと動いている。

きっと戦いの疲れから意識を失ってしまったのだろう。


「あの、ネコミミさん?」


「ネコミミってにゃんだ!私はレイナだ!」


「いや、名前、分からなくて。あの、すいませんが、ヒナの事見ていてくれませんか?」


「私が?あんたはどうすんの?」


「僕は、まだやらなきゃならない事があるから」


「それはすぐ片付くことにゃのか?」


「時間はそうかからないけど……」


レイナは僕の顔を見て「ふーん」と不思議そうに声を上げた。


「私は顔を見ればその人の事割と分かっちゃうんだけど、あんたは不思議だね。

弱そうにゃのに力を感じるし、悲しそうにゃのに光を感じる。

きっと占っても何にもみえにゃいんだろうね。たまにいるんだ、そう言うやつ」


「えっと……」


「こっちばっか話しちゃってるね。

けどもう一つだけ言わせてくれ。ローガンっていう爺さん、あんたの知り合いだろ?

今あの爺さんがピンチだ。

お前の助けがいる。

だから……だからその用事ってのをちゃちゃっと済ませて、爺さんを助けるのを手伝って欲しい!」


ローガンがピンチ?

ローガンは僕の恩人だ。すぐにでも助けに行きたい?

詳しく話を聞きたかったが、そうは言ってもテロを起こそうとしているキングの事も放ってはおけない。


「分かった。

すぐにケリをつける!」


最善の策は素早くキングを倒し、異世界に戻りローガンを救う。

僕はビルに向かって歩みを進める。


ビルの入り口付近にはクイーンが泣きながらゴブリンキングのゴロタの傷口を必死で抑えていた。


「ゴロタ、ゴロタ!

イヤ!死んじゃイヤだ!」


クイーンは必死で自分の魔素を送り傷口を塞ごうとするが、魔素を殆ど使い切っているのに加え、傷の手当てという繊細なコントロールが必要な複雑な作業。

ゴロタの命が助からない事は明白だった。


ゴロタは大きな手で器用に彼女の涙を救いニヤリと笑ってみせる。

その仕草から、クイーンとゴロタは使役するものとされる者の関係以前に、強い信頼と友情で結ばれている事が見て取れた。


もちろん、魔物なんて嫌いだ。


それに相手はゴブリンキング。僕を殺しかけた魔物……。


そう思っていた僕は冷淡に彼女達の横を通り過ぎた。


…筈だった。しかし僕は全く真逆の行動を取っていたのだ。


「……僕も傷の手当ては得意じゃない。

だから応急処置程度。傷を塞ぐだけだ」


クイーンに向かいそう言い、僕はゴロタの傷口を塞いでいった。


「にゃ、にゃにやってんだバカ!

そいつ敵だぞ?」


レイナの言う事はもっともだったが、僕には彼女らを放っておく事は出来なかった。


「大丈夫だよ。

治ったって、暴れる体力なんかもう残ってないよ」


「そういう問題じゃにゃいんだけど……」


クイーンは僕がゴロタを治療するのを見て、最初はポカンとしていたが、やがて幼子のような声でこう言った。


「ご、ゴロタ……助かる?」


「分からない。ゴロタ次第だ。

君は召喚した魔物を強化したりできるんだろ?

もしも魔素が残っているなら一時的にでもいい。ゴロタの体力の回復に努めて」


「う、うん!

ま、魔装四式、不撓不屈!」


クイーンがそう唱えると、ゴロタの体内の魔素がほんの少しだが回復しているのが分かった。

だがやはりなんとも言えない。傷口は間もなく塞がるがゴロタが助かるかは半々のところだ。

魔素を注ぎ続けながらクイーンは僕に言った。


「どうして……助けてくれるの?」


「……分かんない……敵だし、助ける義理なんて無いんだと思う。ただ、あなたがゴロタのこと大事に思ってるのが分かったから。

大事な人がいなくなるのは、悲しいことだから……」


「……あ、ありがと……」


「……勘違いしないで……キングの仲間の君とはやっぱり敵同士だし、ゴロタが人間に危害を加えたら容赦なく倒す!」


僕の言葉を聞き、クイーンはボソリと呟いた。


「……じゃあ、約束する……。例えキングに命令されても、ゴロタに悪さはさせない……」


僕は黙って頷く。


やっと傷口が塞がった。これ以上の治療は僕にはできないだろう。


「私の魔素ももう限界。ゴロタは向こうに帰るし、しばらく呼べない……」


クイーンは不安そうにゴロタを見送る。

ゴロタは親指をぐっと立て、まるで心配するなという風に表情を作ると、ゆっくりと姿を消していった。

そんな姿を見ると、本当に魔物なのかと疑ってしまう程だ。


「……じゃあ、僕は行くから」


ゴロタが消えるのを見届け、僕はクイーンに背を向けた。


「……やめた方がいいよ。

あなたはゴロタの恩人。貴方にも死んでほしくない……」


クイーンは駆け引きではなく、本当に僕を止めたいようだ。


「キングのテロを止めさせる。

僕が止めなきゃ、町がめちゃくちゃになるんだ」


「たぶん、キングの魔素の量は今の貴方の倍くらいある。

それだけじゃない。キングは私達にも秘密の能力を何か持ってる」


今の僕の魔素はマックスの半分程度。つまりキングは僕と同等程度の魔素を持っている事になる。

魔素の量は勝敗を決める一つの要因に過ぎないが、倍違うというのはかなり厳しい。


それはボクシングで言えばヘビー級とライト級が戦うようなものである。

その差を技術で埋めようと思っても、厳しいものがある。


「何を言われても、僕は行くから」


クイーンは何か言いたそうだったが、僕は構わずビルに入っていった。

これ以上足踏みしている時間は無い。


僕がビルに入るのを見送りながら、レイナがため息をつき何か言ったようだったが、僕には何を言ったのか聞き取れなかった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーー



「はぁー。バカにゃやつだにゃー。

人の大事にゃモノを守って自分の大事にゃモノを守れにゃくにゃるにゃんて、本末転倒にゃのに」


実際に銀一郎は大事な魔素をかなり消費してしまったし、一刻を争う事態であるのに時間を使ってしまった。


「でもあいつが、自分の大切なモノも、人の大切なモノも、両方守れるようにゃやつじゃにゃければ……きっと運命にゃんて変えられにゃい……」

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