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シボーラの巫女

天音たちはローガンに事の次第を話した。

ローガンは天音達の話を聞くと、まるで苦虫を潰した様に苦々しい表情になる。



「お前達の話は分かった。

俺にもギンを探す手助けをさせてくれ。

あぁ……ただ俺は困り果てている。

どうやらあてが外れた様だ。


今の巫女のアーグニャは、どうやら貴族や富豪達だけにしか予言を行っていないらしい。


先代の巫女の時はこんな事は無かったと聞いたんだが……。

すまない……。


あぁボヤいていても仕方ないな」




おそらくローガンは何度も巫女に会おうと試みたのだろう。

その口ぶりから察するに、巫女に頼る事はほとんど不可能と思っていい。



しかしそう簡単に諦め切れるものでもないはずだ。銀一郎の件は早急に動くべき事態である。


ただ銀一郎の件は何の手がかりもないし、予言者の力に頼れないとなると、どうにもする術がない。



仕方なく三人は、肩を落としたままあてもなくシボーラを彷徨った。

歩いている内にもしかしたら現状を打破するだけの良い案が浮かぶかとも思ったのだが、もちろんそんな事で妙案が浮かぶ訳もなし。



浮かない様子の三人を、先程からずっと後をみすぼらしいマントで全身を包んだ者が追ってきていた。

その者は体躯からして子供だろう。

マントの子供は人通りが少なくなるタイミングを見計らい、トテトテ三人の元へと近づき、いきなり声をかけた。


「ねぇねぇ」


甘ったるく、柔らかい声。


背格好といい、声といい、どうやらマントの者の正体は幼い女の子のようだ。



その風変わりな格好のせいで、声をかけられた瞬間は多少気味悪く感じたが、相手は子供であるし、こちらへの殺気も感じられない。警戒はしなかった。


「おじさん達、予言者に会いたいんだよね?」


女の子は不躾に三人に質問を投げかけてきた。


「その通りだけど、何故分かったの?」


天音が逆に尋ね返すと、彼女は可笑しそうに笑った。


「だって、ずっとそのおじさんの事みてたんだもん。

無理に決まってるのに!あんなに番兵に食い下がってる人、初めてみたよ」



ケタケタと笑っている所為でマントが揺れ、女の子の口元が見える

口からニョキッと牙が二本覗いた。おそらく獣人であると、ローガンは察した。



シボーラは10数年前から獣人の繁華街への出入りを禁じている。

なんでも当時、獣人が巫女に無礼を働いたとか……。

それでこの子はフードを被っていたのだと、変わった姿についての合点はいった。



女の子はひとしきり笑うとなぜか自慢げに話し出す。


「いいよ、予言者に会わせてあげる」


「!?」


突然の申し出に三人は驚いた。


「それは本当か?」


願ってもない話だが、いくらなんでも胡散臭すぎる。


余程疑っていたのだが、女の子はそんな事には構いもしない。


「ついて来て!」


トントン拍子で進む展開に、これが罠なのかなんなのか三人は測りかねていたが、今の所他に良い案も出ていない訳だ。

三人は黙ってマントの女の子について行く事にした。



女の子は三人の前を小走りで進んだ。

彼女はシボーラの町の中でも一際貧しく、みすぼらしい道を選び出し、街の外れへ外れへと向かって行く。


10分くらいは歩いただろうか、いつの間にか、周りの雰囲気がガラリと変わっていた。



おそらくここはスラム街なのだろう。

ガリガリに痩せ細った子供達、ガラの悪い若者、昼間から呑んだくれ怒鳴り散らしている酔っ払いに、繁華街では見かけなかった獣人達も大勢いる。



豊かな大都市であるシボーラの中にこの様な場所があった事に、三人は少なからず驚いていた。


こんな所に連れて来られるのだ。

いよいよ罠の線が強くなってきたが、ここまできたら最後まで行ってやるという、好奇心と期待の方が不安に勝った。



結局女の子はなんの変哲もない、今にも崩れそうなあばら家に三人を案内する。

中に入るとき一応警戒はしたが、特に待ち伏せも罠もない。


部屋にはどこからか拾ってきたのであろう、不揃いの椅子やソファが乱雑に置かれている。


「適当に座ってよ」


そう言って女の子は一番先に、近くのソファに腰掛け、フードを取った。

ローガンの思ったとおり、彼女の頭にはひょっこりと2つの猫耳が生えていた。

しかし女の子は、一般的な獣人と違い体毛も薄く、獣としての要素は少ない。

たぶん、獣人とヒトとのハーフなのだろう。



結局罠では無いようだが、同時に巫女に会えそうな雰囲気もない。


銀一郎の事を最も心配しているヒナは痺れを切らし女の子に聞いた。


「巫女にはいつ合わせてくれるんだ?」


すると女の子はあっけらかんとヒナの言葉を否定する。


「巫女?巫女に合わせるにゃんて私言ってないよ?」


どうやらこのネコミミは、少し言葉の発音がおかしいところがあるらしい。


「どういうことだ?話が違うぞ」


ただで巫女に会えるなんて事は思っていなかったが、流石にこれは想定外の返答だ。

ローガンは異論を唱える。


「違くにゃいよ、私は予言者に会わせるって言ったんだよ、巫女に会わせるにゃんて一言も言ってにゃい」


ローガンは幼子の言葉にさらに口を挟む。


「予言の力を受け継げる者はシボーラの巫女だけだ。


巫女の一族は代々その長女にのみ予言の力が備わっており、1000年も昔からそれは変わっていない。


つまり予言者とは巫女のこと。

それ以外の予言者などまがい物のペテン師だ」


ローガンの説明を聞いても女の子は全く動じていない。


「詳しいね、おじさん。

だったらこれも知ってるかにゃ?巫女だけにある不思議な痣のこと」


女の子はローガンを煽り、さらに話をさせようとする。

ローガンはちょっと眉をあげ女の子を見たが、ふぅーっとため息をつき、話を続けた。


「確か……力を受け継いだ巫女の体にはには、蒼く光る痣が浮かび上がる。


歴代の巫女には例外無くこの痣があり、多くは星や月、太陽等の天体の形をしている。


痣について詳しくは解明されていないが、天体の形をしているのは巫女が私達の道を示してくれる星であったり、夜道を照らしてくれる月であったりするため、天体の形をしているのではと言われている。


そしてその痣の中でも、太陽を模した痣を持つ巫女は長い歴史においてもたった1人を除いておらず、その巫女は歴代で最も予言の力が強かった。

その事から、痣がその巫女の能力を示しているのではないか?とも考えられているが、これについても定かではない」


ローガンはおそらく本を読み学んだのであろうその知識を、一息で話してみせた。


「ふふーん」


ローガンの話を聞き、何故か女の子は得意げだ。


そんな女の子の様子を怪訝な目で見つめる三人。


そんな三人とは裏腹に、女の子はご機嫌な様子で鼻唄を歌いながら、着ていたマントを下からぺろりめくりあげ、三人にヘソの辺りを見せつけた。


女の子が見せたかったのであろうそれはすぐに分かった。


ヘソのすぐ上に浮かび上がっている蒼い痣。

実物を見てしまった三人は、その痣が刺青などで偽装などできようもない代物であることを瞬時に理解した。


痣の神秘的な蒼は美しく、おおよそ人の手で生み出せる様なものではない。


間違いない!巫女の痣である。


さらに驚くべき事は、その痣の形が他でもない、太陽の形を模している事だ。



三人は思わず顔を見合わせた。


女の子はもう一度「ふふーん」と鼻を鳴らしこう言った。


「私の名前はレイナ!

あんた達が会いたがってた、予言者だよ」



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