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天音とヒナ

ヒナがざっと辺りを見回すと、初めに意識を失って倒れている中年男性の姿が目に入った。


腹から大量に血を流している。

体に触れて魔素を操り回復しようと思ったのだが既に手遅れのようだ。


傷は臓器まで達している上に、グールの爪に含まれる多量の有毒な細菌が血液に混じってしまっている。


これでは魔素のコントロールを得意とするヒナであっても回復は無理だ。


傷だけならまだしも細菌が厄介である。

細菌を取り除くには魔素をコントロールし、体中から少しずつ取り除く必要がある。

しかしそれは砂漠の砂の中から砂金を見つけ出していくような、そんな途方も無い作業なのである。


ヒナは落胆したが、そう長々と沈んでもいられない。

それよりもまだ助かる命があるかもしれないと希望を持ち、他に怪我人がいないか尋ねると。恐らく馬車の御者であろう男が、


「同じ様に腹を切り裂かれた者がもう1人います」


と発言した。


同じ様に腹を……では助かる見込みは低い。そう思った時であった。


「私は大丈夫です。それよりその方の傷を見せて下さい」


天音がそう言って立ち上がった。

ヒナは天音の腹の辺りを眺めるが、なるほど、服が破れ血が飛び散っている。

しかし、どういうことだ?

傷が影も形もないぞ?


天音は商人の近くに膝立ちになり、傷口に手をかざした。

そう、これが天音が隠していた『とっておき』の力である。


「ば、馬鹿な!?」


ヒナが驚くのも無理は無い。一瞬とはいかないが、商人の腹に空いていた大きな傷が見る見るうちに塞がっていく。


「これは……回復魔法!!」


ヒナの回復魔法と言う言葉を聞き、周りの者も驚いた。


「回復魔法!?それも媒介なしの無詠唱で?」


この世界には様々な種類の魔法が存在しているが、回復の魔法が使える者は極端に少ないのだ。

それに回復とは言っても、天音が今使っている様な、傷を超スピードで癒す魔法は他に例を見ない。

回復とはあくまで補助的な役割を果たすものであり、それ以外に薬草や医者の力が不可欠なのである。


10分程かけて商人の傷を完全に治すと、天音はふらりとその場に倒れた。


慌ててヒナはその体を支える。


「大丈夫。ちょっと疲れただけですから。でも、ちょっと……ちょっと……眠ります……」


天音はそう言うと一瞬で意識を失った。

すぐさま心音を確かめたが正常である。本当に眠っただけのようだ。


ヒナは天音の体を支えつつ、商人の体の魔素を確かめた。


治っている……完全に……。

無理だと思っていた血中の細菌さえも浄化されている。


ヒナは天音の力を目の当たりにし、一つの考えに至った。

眠っている天音をおぶり、御者に声をかける。


「どこに行くつもりだったのだ?」


御者は恭しく答える。


「はい、シボーラに向かう途中でした」


「ならば歩いて行けない距離ではない。その男の傷は癒えている。起こしてさっさと町にいくぞ」


シボーラに向かう一向にとっては、ヒナが同行してくれる事は願ってもない幸運であった。


馬車が無ければ魔物に襲われる可能性は高くなるが、ヒナ程の腕利きがいればまず問題はないだろう。


御者は大急ぎで商人を揺すり起こした。



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