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戦いの結末

まず幼子が走り出す。もちろんグール達はそれを見逃さない。

すぐに追いかけようとするグール達に向かって商人は隠し持っていた癇癪玉を投げつける。


バチバチ


っと激しい音を鳴らして弾け飛ぶが、もちろんダメージは0である。

だが少なくとも奴らの注意はこちらに向いた。


次に御者が鞭を鳴らし威嚇する。御者が使う長鞭は細く長く、実は殆ど攻撃力は無い。


しかし以外にもその威嚇は効果があった。

グール達はピタリと動きを止める。


実際に鞭を振った御者は全く気づいていなかったが、その長鞭の形状が魔物の目には、先ほど同胞二体の命を奪ったレイピアにそっくりに映ったのである。


その間にも天音はズルズルと引きづられ、グール達からどんどん離れていった。


「こ、ここで、大丈夫。もう、運ばなくて大丈夫」


そうは言っても、まだ安全な距離とは言えない。


「もう少し先まで行った方が……」


幼子の母は心配そうに天音を見るが天音は自分の身体の心配など全くしていない様だった。


「これ以上離れると……助けに行けなくなっちゃう……」


この人は、自分の体がこんな状態なのに、まだ人の心配をするの?なぜ?どうして?


母親が困惑していると、天音は悔しそうに呟いた。


「武器を……置いてきちゃった……。これじゃあ厳しいかも……」


天音が投げ捨てた武器は、グール達のすぐ近くにある。それを拾ってくるというのは容易ではない。


「……私が……あなたの武器を取ってきます……」


「!?や……やめて……無茶よ!」


彼女は深呼吸して一度目をつむった。


「私も何故こんな事を言い出しているのか分かりません。

でも、やらなければならないと、私の心が言っているのです」


女は走り出した。天音は唖然として女を見送るしかなかった。



戦いの方はちょうどグールが攻めあぐねている所であり、武器を拾うには絶好のチャンスであった。


彼女は武器に向かい走りながら考えた。

レイピアはダガーよりも遠くにある。それに重いし、私が届けられるとしたらダガーの方だ。


態勢を低くしダガーの方に滑り込むが、もちろんグールもそれには気がついている。グール達は彼女目掛け襲いかかる。


驚いたのは商人と御者の方だった。慌てて商人はグールの内の一体に体当たりし、御者は飛びかかるグールの足に鞭を当て、態勢を崩させた。


何とか二体のグールを止める事は出来たが、あと一体が止まらない。

グールは母親に向かい爪を振りかぶる。


女は時間が止まった様に感じた。ああ、これが死ぬ前に見る走馬灯というものなのか。


自分はグールの餌食になるだろう。しかしその前に、なんとかこれだけは……。


彼女は決死の覚悟でダガーを拾い上げ、天音に向けて放り投げた。


ダガーは綺麗な弧を描き飛んでいき、しっかりと天音の右手に届いたのだ。


「……良かった」


彼女はそう言って笑った。


今まさに彼女の首がはね落とされる瞬間であった。

腕を振り上げたグールの頭に、コツンと何かが当たった。


「お母さんを、いじめるな!」


逃げたはずの幼子は母親の事が気にかかり、戻って来ていた。幼子は石を放り、グールに投げつけたのだ。



ほんの一瞬、グールに隙ができた。

この機を逃すわけにはいかない!

ダガーを受け取った天音の体は、ほとんど反射的に動いていた。


右腕にありったけの魔素を込め、グールに向かいダガーを投げ込む。

投擲なんて練習した事は無かったが、そのダガーは真っ直ぐに飛び、グールの脳天に突き刺さる。


グールの体が崩れ落ちた。


あと……二体。


だがこちらも無事では済まなかった。グールに体当たりを食らわせた商人だったが、もみ合いの末、腹部に重傷を負っていた。

商人の方も短剣を必死に振るったのだが、与えられたのは擦り傷程度。


商人はぐおぉぉぉと痛みに転げ回っている。

もう戦えないどころか命すら危うい。


天音の方も傷は癒えていないし、投擲にかなりの魔素を使ってしまい、仮に奇跡的に復活した所で戦力になるかどうか。


実質二体のグールを御者1人で相手にしなければならないという事なのだ。


すでに御者の鞭に攻撃力が無いという事は、先程の一撃を受けたグールにはばれてしまっている。


グールにとっても三体やられたのは痛手なはずだ。残った二体はもう相手を侮るはずもない。


唯一戦える状態の御者に向かい、ジリジリとにじり寄る。

御者は脂汗をかき、どうすればいいか必死に思案するが妙案は生まれない。


その時、突然一体のグールの動きが止まった。

それを見て重傷の商人が苦痛を顔に浮かべながらも話し出す。


「やっと効いてきやがったか……この化物……」


商人が使っていた短剣は魔道具。相手が魔物であろうと麻痺させる力がある超高級品だったのだ。


「……じいさん、あと少し耐えろ……必ずなんとかなる……」


そう言うと商人の意識はプツンと途切れた。


御者は奇跡を信じ鞭を構えた。しかし、無情にもグールの爪の一振りで鞭は真っ二つになった。


それだけでは無い。麻痺している筈のグールが、ゆっくりとではあるが動きはじめたのだ。

このままでは完全回復するのも時間の問題だろう。


もう十分に奇跡は起きた。後は運命を受け入れるしかない。

誰もがそう思ったその時、一本の矢が物凄いスピードでグールの頭を貫いた。


何が起こったのか誰も事態を把握出来なかった。


麻痺が半分以上解けたグールの背後に、風よりも速く忍び寄ったのは、美しい女性であった。


グールにうめき声を上げさせる暇も与えずに、その女性は冷淡にナイフで首を切り落としこう言った。


「怪我人は?」


シボーラに向かう途中であったヒナは、偶然にも天音達を見つけ、一瞬で戦いに決着をつけたのであった。


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