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逃げるという選択肢

致命傷を受けた天音は、立っていられるはずもなく地面にドシャリと崩れ落ちる。


天音は地面に叩きつけられ、やっと自分の置かれている状況を理解した。


自分以外に戦える者はいない。

一貫の終わり。


すぐに襲われるかと思いきや、グール達はニタニタと笑いこちらの様子を伺っている。


グールは獲物を獲ってもすぐに食べない。

奴らは食い物で『遊ぶ』のだ。


グール達が勝利を確信し侮っているのだとしたら、まだ希みはある。


身体の魔素を操作し、なんとか動ける位まで体を回復させるのだ。

グール達を倒す事は出来なくても、他の乗客が逃げる隙くらいは作れるかもしれない。


天音は器用に魔素を操り、止血や治療を行いながら乗客達に声をかけた。


「グール達は……私がもう動けないと思っているけど……あと少しで何とか動けるようにするから。

私が隙を作る……みんなは逃げて……」


天音がそう言うと、乗客達が動きだす。

一番最初に動いたのは中年の商人の男だ。男は自分の荷物なのだろう布の袋から短剣を取り出すと、天音を守るようにしてグール達の前に立った。


「な、何を!」


意外な行動に天音は驚きを隠せない。


「すまなかったお嬢ちゃん。グールを見て助かるはずは無いと諦めていた。

……俺はお嬢ちゃんの強さに甘えていたよ。

なぁに、商人をやっていれば盗賊に襲われたりすることもある。これでも三人の盗賊を1人で追っ払った事もあるんだ。

心配するな」


商人がそう言うと、年老いた御者も鞭を手に取り同じように天音を守ろうとする。


「長い事御者を続けていますが、馬以外にこの鞭を使うのは初めてです」


そう言った老人の足は小刻みに震えている。

どう足掻いても、2人に勝ち目はないだろう。それは2人にもよく分かっているはずだ。


「私にも、何かできませんか!」


幼子の母親が言ったその言葉を、商人が遮る。


「あんたはその子を守ってあげな」


「いえ、どちらにせよ私達が逃げても奴らに追いつかれてしまいます。

この子は逃しますが、私は戦えなくても足止めくらい」


御者は提案する。


「あなたはこの勇敢な騎士の女性をどうにか離れた場所に運んで欲しい。

おそらく私達には彼女を庇って戦うほどの技量はないでしょう」


「そうだ。それがいい。だが無茶はするな!」


勝手に話しが進んでいく。こんなはずじゃなかった。みんなをカッコよく助けて、異世界での新しい生活を始めるって……。


「勝手なこと……言うな!

みんな…死ぬぞ!」


そんな天音の言葉に、怯むものなどいるはずもない。


「お嬢ちゃんはおとなしく休んでな」


彼等は覚悟を決めたのだ。

そして覚悟を決めた者は、強い。


グール達は獲物に絶望の表情がいつまでたっても現れない事に苛立ちを見せ始めた。


「そろそろでしょう。

1、2、3で始めるというのでどうでしょうか」


「問題ない。そっちはどうだ?」


「はい、合図と同時に娘は走らせて、私はこの方をなるべく遠くに運びます」


それを聞くと商人は大きく深呼吸した。


「行くぞ。1、2、3!」


4人はそれぞれの思いを胸に、一斉に動き出した。

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