榊と生田目2
生田目は榊の言葉に耳を疑った。
「聞き間違いじゃなけりゃ、今、『俺たちで』さがしに行こう、って言ったよな?」
証拠としてそのノートを持ってくるというのは分かる。だがなんで俺まで探すのかと、生田目は意味が分からなかった。
「言ったけど?どうかしたか?」
榊はそれがどうしたといった風だ。
生田目は信じられないという表情で榊に強く説明する。
「俺に話を信じさせるためにノートを探すんだよな?
そのためのノートを俺は自分で探すのか?
透明のノートを?
信じてないこの俺が?
あるはずないのに?」
「ごめん、ちょっと何言ってるか分からない」
「分かれよ!
はぁー……お前に付き合ってたら。言っている俺も何が何だか分からなくなってきたよ」
榊は悪意のない笑顔で言う。
「まぁまぁ。二人の方が早く見つかるだろうよ」
生田目は今日1日こいつに無理矢理潰されてしまうだろうと、がっくり肩を落とした。
「はぁー、お前に声をかけた俺が馬鹿だったよ……」
生田目と榊は飯を食ってから学校に向かうことにした。
銀一郎と天音が通うのは高田高等学校と言う学校だ。
宇田川緋那乃がの通っていたのは第一高等学校。
榊と銀一郎、天音がこの前図書室を捜索したのは第二高等学校。
榊と生田目が昼飯後に向かうのは、市内にもう一つ残っている高校、第三高等学校だ。
昼飯は生田目のたっての希望で、鰻の店に入った。
「鰻重の特上ね」
生田目は迷わず一番高価な品を選ぶ。
4500円、その価格に榊は驚いている。
「僕は並で」
榊の給料では並でもきつい。
注文が終わり榊は感心して生田目に言う。
「やっぱりマスコミ関係者は儲かってるんだな」
生田目はタバコを吸いながらクエスチョンを浮かべた。
「は?なんでだ?」
「いや、だって鰻重特上って……」
ふぅーと煙を吐き出し、さらりと答える。
「馬鹿言うな、お前が払うんだよ」
「えぇ!なんで?」
「迷惑料だよ!なんで俺が無償でお前の仕事手伝わなきゃならないんだよ」
確かに、言われればそうだと榊は思ったが、素直にはいとは言えない。
「いや、ちょっと4500円は……給料日前だし……」
「心配するな。4500円にさらに8パーセント消費税がつく」
「余計心配が増えたよ!」
榊は諦めて会計をする。
食事を終え意気消沈した榊と、ちょっとすっきりした生田目は三校に向かった。
話をするとすぐに図書室に入れてくれた。
今の時間、生徒は授業中なのでゆっくりと探すことができる。
「さぁて、やるか。ないと思うが」
生田目はぐっと体を伸ばし準備を始めた。
「ノートは見えないから本一冊一冊、慎重に手で触れて確かめていくんだ。
何かあったら教えてくれ」
「分かったよ」
それから榊と生田目は一時間近く本を撫で回していた。
榊はもちろん真剣にノートを捜索したが、生田目の方も、そんなノートは無いと信じていたが、元々頼まれた仕事はきっちりこなすという自分なりのポリシーがあったので、真剣に作業はしていた。
ほとんどの本棚を調べつくし、やっぱりそんな物は無いと思った時だった。
何も無いはずの空間で、生田目の指に何かが触れた。
 




