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決着


冒険者達は決して力がないわけでは無かった。しかし、フードの男の実力は計り知れず、彼等がただ闇雲に飛び込んでも。無駄死にするだけだという事は分かりきっていた。


時間を稼ぐには策が必要だ。


フォッグは冒険者の中で力が一番弱い、その代わり魔法の腕はなかなかのものだ。

他の冒険者よりちょっと年上の憎めない親父で、頭もよく、冒険者達の兄貴分的存在だった。


フォッグは攻撃魔法よりも補助の魔法を得意とした。


フォッグはすぐさま、まだ動けそうな冒険者達の意識を繋ぎ合せる。戦闘中において、会話なしで意思疎通をとれることは非常に有利だ。この魔法はフォッグの得意魔法で、テレパシーのようなものだと思ってくれればいい。


しかしいくら得意魔法といえ、この時はフォッグ自身も含め5人もの意識を繋ぎ合せた。いつ頭の血管がはち切れて、死んでもおかしくないような状況だった。


フォッグは魔法で時間を稼ぐ作戦を速やかに伝えた。フォッグの作戦に異論を挟む者はいなかった。いや、異論なんて挟む暇は無かったよ。


フォッグが全員に作戦を告げると、通信はすぐさま途絶えた。冒険者達は唇をぐっと噛み締める。


そう、作戦を告げたフォッグは既に事切れていたのだ。


フォッグの作戦は黒い砂の塊を一時的に破壊するというものだった。


足止めなら単純に考えればフードの男を狙えばいいはずだが、冒険者たちの攻撃はフードの男にかすり傷一つ負わせることができないし、攻撃したところで1秒ももたずに返り討ちにあい、殺されてしまうだろう。そうなると、男への攻撃ではなく、まず武器の破壊を優先するべきだ。


だからと言ってあの砂の塊を破壊するのは一筋縄ではいかない。

あの砂には相当の魔力が練りこまれており、固められている。


しかしフォッグは魔力の観察を行い、あの四角形の塊の上面だけ魔力が薄くなっていることに気がついた。砂の塊は浮遊しているため上面は地上からは見ることができず、まして攻撃などは容易にできない。そのため魔力を節約するためにもわざと上面には魔力をあまり注いでいないのだろう。


上面を集中的に攻めれば一時的に武器を破壊できる。外部から破壊された魔力武器の再生成には時間がかかる。武器がなくなれば隙ができるはずだ。


しかし上部を攻撃すると言っても、あの武器の上まで飛び上がり攻撃することができる冒険者はそういない。


さらに言えば、武器の破壊には相当の破壊力のある一撃が必要だが、冒険者達の中で一番高い攻撃力を持っているのはドンという冒険者だ。

ドンの武器はバカでかいハンマー。残念ながらハンマーのような広範囲に力を加える武器ではあの砂に効力は薄い。

一点に集中して力を加えなければ破壊は無理だろう。


仮に武器が破壊できたとしても、次はやはりフードの男を止めなくてはならない。しかしやつは武器の再生成で魔力を使うはず。

魔力量の少ない攻撃。オークキングの金棒の一撃を耐えたこともあるカーティスなら受けきれるかもしれない。


初めに動いたのはコリンという名の冒険者だった。コリンは盗賊上がりの冒険者で、素早い身のこなしと投擲が自慢だ。コリンは猿のように町の家の屋根をピョンピョンと飛び交い、あっという間に砂の塊の真上に飛び上がった。


コリンは懐から良く研がれた鋭いナイフを取り出し、浮遊する塊の上面のちょうど真ん中目がけ、投擲した。


「セイッ!」


フォッグの予想した通りだ!

普通ならこの程度の投擲攻撃ははじかれてしまうはずだが、塊の上面にはぷすりとナイフが見事に突き刺さった。



ナイフが突き刺さるほんの少し前、ドンはハンマーを握りしめ、走り始めた。パワー系のドンはスピードが足りないと思われがちだが決してそうではない。確かに彼のスタートダッシュはドッス、ドッスと不格好な音を立てており、褒められたものではないが、彼は徐々にスピードに乗っていき、その姿はまるで重馬車のようだった。


フードの男は上面にナイフが突き刺さっていることに気が付かないまま、砂の塊を地面に叩き落とす。


「ソロソロ、死ンデネ」

「やなこった!」

あいつは何とかそれをかわす。


またもや「ズドォォォォォン」と地面が揺れる。


さぁ、ドンの出番だ。地面に落ちた塊なら、上面は丸見えだ。待ってましたと言わんばかりにドンは塊の上に飛び上がり、突き刺さっているナイフめがけ、まるで釘打ちのようにハンマーで叩きつけた。


「ギィィィィィン」


激しい音。


するとどうだろう、今までびくともしなかったはずの砂の塊が、シャンと一瞬で崩れ落ち、そこに砂の山ができあがったのだ。


やった、成功だ!俺たちはぐっと拳を握りしめた。


さすがにこれはフードの男も予想外だったようだ。


「ゴミカス共ノクセニ!殺ス!」


男は砂の塊の再生成を行いながらも、一撃を終えたドンを殺そうと手刀を繰り出した。

ドンと男の間に、素早くカーティスが入る。

カーティスはその手刀を両腕で受け止めるが、自慢のウーツ鋼の鎧が無残に砕け散り、腕の骨が折れた。


いや、カーティスでなければ腕どころから体まで真っ二つにされていたはずだ。

フードの男はすかさず二撃目を、今度はカーティスの心臓目がけて放つ。

コリンが素早く飛び上がった。


「うぉぉぉぉぉ!」


カーティスを助けるため、雄たけびと共にコリンが蹴りを顔面に叩きこもうとした。しかし無残にもコリンは男に足を切り落とされる。


「喰らえ!」


ドンはハンマーを振りかぶるが瞬時に腕を切り落とされる。


このままじゃ皆……殺される。


あと他に動ける者……。皆を助けられる者……。フォッグが意識を繋いで作戦を告げた、最後の一人……。


そう、それは俺だったんだ。


フォッグが命を懸けて作戦を伝えた最後の一人は冒険者ではなく、ただの武器屋のこの俺だった。


そして俺だけが何も役目を言い渡されなかった。

だから何をしろと言うわけでもなかったはずだ。


なんで俺に?

戦ったこともない俺になにができる?

動ける者が他にいなかったから?

俺は……何をすればいいんだ?


答えが出る前に、俺は槍を持ち、走り出していた。


無我夢中だった。

気が付けばカーティスの心臓を貫こうとしている男の腕に、俺は槍を突き入れていた。


信じられないことが起こった。あれだけ冒険者たちが切り付けてもびくともしなかった奴の体だったが、俺の放った槍は、やつの手刀を貫いたんだ。


「ア……レ……?」


そう言ってフードの男は自分の腕から流れ落ちる黒い血液を不思議そうに眺めた。


何を考えているのか、男は動かないまま、ポタン、ポタンと血を滴らせる。


「い、今だ、逃げるぞ!」


俺はそうカーティスとドンに言い、足が斬られてしまったコリンをおぶり、全力で走った。


俺たちは物陰に滑り込む。時間はこれで、十分に稼げているはずだ。


コリン達はどうなったかって?


勇敢な街医者近くまで来ていてくれたので、命は助かった。


でももう冒険者の仕事はできなかったよ。


医者に彼らをたくし、俺はフードの男に目をやった。


すると男はぶつぶつと何かつぶやきながら体をだらんとしており、その周りを黒い砂が嵐のように飛び交っていた。


あれでは男に近づくことすらできない。


あいつの方はと思って見てみると。なんということだ、あいつはこの戦闘の中、目をつぶって座っていたんだ!


初めて見る座り方だった。


膝を折りたたみ、脛を地面につける。


後で真似して俺もやってみたが、足が痺れちまって耐えられない。


あいつはそのままスーッと息を大きく吸うとゆっくりと立ち上がった。


いや、ゆっくりってのは違うかもしれない。あいつの一連の動きは一瞬だったんだ。だがなんと言うか、やつの動きがスローモーションみたいに……美しく、落ち着いた、ゆったりとしたものに見えたんだよ。


あいつのロングソードは何故か鞘に収まっており。左手で鞘を、右手で柄を握り前傾姿勢で構えている。


俺も冒険者の構えをいくつか見たことがあるが、あいつと同じ構え方をする奴は後にも先に見たことはない。


フードの男も異様な構えをするあいつに気が付いたようだ。


「何シヨウト無駄ダヨ。モウ誰モチカヨラセナイ」


小さな竜巻みたいに、黒い砂は轟音をたて男の周りをグルグルと廻っている。近寄れるはずがない。


攻撃力だって、半端じゃない。男が通った場所にあったブロックが、砂の竜巻に巻き込まれ一瞬で粉々になる。


「バイバイ、継グモノ」


フードの男はそう言うと、そのままもの凄いスピードであいつに向かっていた。


アイツはカッと目を見開き、その一太刀を放った!


勝負が決した瞬間は一秒もなかった。他の奴は何も見えなかったと言っていたが、俺にはしっかりとその瞬間が見えていた。


「シィィィィィィィン」


と甲高い音を立てて、あいつのロングソードが鞘を高速で走った。


剣は美しい扇の光を生み出し、黒い砂嵐を切り裂いた。


「ザンッ」


と言う音はもう全てが終わった後に聞こえた。間違いない、あいつの剣は音を置き去りにしたんだ。


フードの男は剣戟を受け、よろよろと力なく数歩歩いた後、ぐしゃりと崩れ落ちた。


剣の方にも相当の負担がかかったのだろう。ロングソードはその一撃で砕けてしまった。


突然の結末に、そこにいた者はすぐには事態を飲み込めなかった。


だが誰かがポツリと言った。


「や、や、やった……」


それを皮切りに戦った者達は皆歓声を上げた。


「やった!やったんだ!」


「うぅうぉぉぉぉぉぉぉ!」


冒険者たちは勝利したのだ。


あいつはというと、俺の方を見て笑っていたよ。


俺もあいつに向かって、ふっと、笑った。


その時だった……。


あいつの後ろから突如現れた黒い砂の刃が、無防備な背中から心臓を貫いた……。


……あいつは口から血を吐いてドシャリと地面に倒れこんだ。


「オズワルドォォォォォ!」


俺はその時初めて、あいつの名前を叫んだ。


あいつの下に駆け寄った。

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