結末
ヒナは力なく崩れ落ちたギンに必死に駆け寄った。
ギンの体はすぐに何らかの処置を施さなければならないことは明らかだった。
ヒナはすぐにギンを担ぎ町へと走る。
「(走って30分、いや、それじゃあ間に合わない。15分で行く!)」
走りながらも、ヒナはギンの体の中に僅かに残る魔素を操作し、応急措置をする。
ヒナは触れている者の体内の魔素さえも操れる。簡単な回復くらいならこれでなんとかなる。
これはいくら魔素のコントロールが上手いヒナであっても、手を焼く高等技術なのだが、今のヒナはその技を、走りながらやってのけていた。
ギン同様、ヒナもこの戦い、否。
ギンを助けたいという想いにより、覚醒していたのだ。
ヒナは魔素でスピードを上げても30分かかる道を、僅か10分で走り抜けた。
そのまま病院へ飛び込む。
「誰か!」
ヒナはベストを尽くした。
しかし、ギンの傷はそれ以上に酷かったのだ。
ヒナは病院に駆け込み、狂ったように助けを求めた。
「誰でもいい!
ギンを助けてくれ!酷い怪我なんだ!
早く!」
いきなりの事に戸惑う院内の看護士達をかき分け、1人の中年男性が早足で近づいて来る。
「すぐにその子を手術室に運べ!」
この病院の医師であるリチャードは理由も聞かずにすぐさまギンを受け入れ緊急手術を行うことを決意した。
「頼む!ギンを!」
リチャードは黙って頷き、手術室へと消えていった。
まだヒナに出来ることが残っているとすれば、それは祈ることくらいだった。
手術が始まる。長い長い手術だ。
手術を担当する医師のリチャードは、この町でも一番の医師であり、人格者である。
手術に手を抜くなんてことあり得ないし、もちろんギンの手術も最善を尽くしたのであった。
だが、それでも、全ての者が助かるわけではない!
長い手術を終え、やっと手術室から出てきたリチャードはやつれた顔でヒナに言った。
「なんとか命は繫ぎとめた。
だが彼が目を覚ます保証はない」
ヒナはその言葉を聞き、一瞬何を言っているのか分からないという感じで、ぽかんと脱力した。
しかし次の瞬間大きな声を上げ泣き崩れた。
リチャードも周りの看護士達も、何も声をかけてやれなかった。
ヒナは長い間泣いていた。
だがいつしか涙を拭き、すくっと立ち上がる。
「ここに金がある。
治療代の残りは後で払う。
すまない」
涙に枯れた声でそう言うと、ヒナは今までギルドで稼いできた有り金を全てテーブルに置いた。
リチャードはヒナの様子を見て心配して声をかける。
「どこに行くんだ?」
ヒナは悲痛な面持ちで言う。
「復讐に意味が無いことは分かっている。
だが、この怒りを、悲しみを、虚しさを……どうする事も出来ないんだ……」
そう言ってヒナはもうすっかり暗くなってしまった町へと消えていった。




