諦め
相手の攻撃の軌道は見えているんだ!
そのスピードも、威力も、ほぼ正確に測れる。
だからこそ、ゴブリンキングの剣撃が僕の身体能力では避けられない事がはっきり分かる。
そして、それを喰らった僕が死ぬであろうことも……。
「これ、死んだ……」
全てを諦めた僕の口をついたのはこんな間抜けな言葉だった。
だが実際僕はそこで剣撃を喰らうこともなく、もちろん死ぬこともなかった。
ヒナが咄嗟に放った矢がゴブリンキングの右腕にヒットしたのだ。
そのおかげで上手く剣撃はそれ、僕は間一髪生き延びた。
ゴブリンキングは腕から血を流していた。
やつは僕の命はいつでも奪えるし、僕など取るに足らないと判断したようで、先にヒナを殺そうと動きだした。
僕はこの瞬間何をすべきなんだろう。
たぶん戦うべきなんだろう……。
しかし、僕は完全に戦う気力を無くしてしまっていた。
やつはスピード、パワー、体力、どれを取っても僕より上。どうやったって勝てない事が分かってしまったのだ。
ヒナだって勝てない。あいつは明らかに僕達より格上の相手だ。
絶望した僕は膝をつき、生気のない目でヒナの方を見た。
ヒナは精神を研ぎ澄まし、紙一重の所でゴブリンキングの攻撃を避けている。
さらに隙を見て弓で攻撃をしているが、やつに殆どダメージはない。
やっぱり、抵抗するだけ無駄なのだ。
そんなヒナが戦いの最中、僕に向かって叫ぶ。
「逃げろ、ギン!私がこいつを引き付ける!」
「!?」
嘘だろ?引き付ける?僕を逃す?
ヒナだって、やつの強さは分かっているはずだ!
勝てないって分かるはずだ!
それなのに……。
そうだ、ローガンを助けるためにスライムに立ち向かった時に僕は思ったはずだ。僕は弱虫だし、力もない。けど、大切なものを守るために戦うときだけは逃げちゃいけない。
僕は……逃げない!
僕に出来ることだって、あるはずだ!
火球を作りゴブリンキングに向かって飛ばす。
火球はやつの後頭部にヒットするが殆どダメージを与えられていないようだ。
僕は続けてもう1発火球をぶつける。
「ギン、やめろ!そんなことすれば!」
何度ぶつけたって同じ、ダメージは微々たるもの。
だが次は二発同時だ。
ゴブリンキングはヒナの方を向いていたため、二発同時に放った火球も見事にヒットする。しかし、やはりダメージは無い。
だが……やつを怒らせるには十分だったようだ。
ゴブリンキングは格下の僕に何度も火球をぶつけられた事に激昂し、ターゲットを僕に代えた。
「やめろ、ギン!お前じゃゴブリンキングの攻撃は避けられない!」
そんなこと、分かっている。
僕はヒナみたいなスピードでは動けない。
でも安心して、刺し違えてでも、ヒナを守るから!
作戦……開始だ!




