ヒナの想い
ヒナさんもう帰りますよ
僕はテーブルに突っ伏し酔っぱらっているヒナに声をかける
「いやらー!わらしはもっろ飲みたいのー!」
いつものキリッとしたヒナからは想像できない姿だ。
ヒナは白の半袖ブラウスに、下は茶色のショートパンツという格好であった。
動きやすいその服装がいかにも冒険者という感じだったのだが、酔っ払った今はその服装も180度違った印象になる。
はっきり言って……エロい!
足を何度も組み替えているの見ないようにずっと気を使っていた。
「酔っ払いすぎだよ!ほら、もう帰ろ」
ヒナはテーブルの上でコロコロ氷を弄びいじけている。
「やらー、さみしいよー……」
オリヴァーはやれやれと笑っている。
「こりゃ駄目だな。仕方ない、おぶっていけ、ギン」
「えっ!?」
いや、こんな可愛い子を宿までおぶって行くとか!
今まで冴えない人生を送ってきた僕にとってはハードすぎる!
「オリヴァーさん、力あるんですから、オリヴァーさんが運んでくださいよ」
僕がそう言うと、オリヴァーはちょっぴり寂しそうに答える。
「すまんな。俺はもうそろそろ出発しようと思っているんだ。巨人用の宿はこの街にいないし、それに昼間出発すると、俺の体は人目につきやすい」
オリヴァーのその言葉に僕もしょんぼりしてしまう。
「せっかく仲良くなれたのに……」
「オリヴァーはもうわらしたちと仲間れしょ!いなくなっちゃやらー!」
ヒナは酔っ払っているせいでめちゃくちゃ言っている。
「ああ、俺はお前たちの仲間になれて嬉しい!」
そう言ってオリヴァーは僕とヒナの頭を大きな手でくしゃくしゃと優しく撫でた。
「また会おう、友よ!」
僕たちとオリヴァーはそう言ってお別れをした。
オリヴァーがいなくなり、他のものもポツリポツリと店を出て行き とうとう残っているのは僕とヒナだけになった。
「もう店じまいだよ」
店のおばちゃんは困った顔で言う。
ですよねー。
僕の悩みの種になっている当の本人は、可愛らしい寝息を立て、気持ち良さそうにしている。
「はぁー。人の気もしらないで……」
この際ヒナを運んでいくのは仕方ない。
しかし、紳士として極力ヒナの体に触る訳にはいかない!
そうなるとおんぶは良くないな。
まず背中に胸が当たる!というか体が密着する!
そして太ももをさわる事になるぞ!
あれ、なんか真剣にヒナに触らないように考えてる僕って、逆に変態っぽくないか?
いや、そんなはずはない!
僕は紳士だ!!
そうだ、もう結論は出ているじゃないか……ここはお姫様抱っこだ!
一見ロマンチックに見えるが、これなら背中と膝の裏をさわるだけ。
触れる面積は一番少ない。
おんぶより力を使うが、魔素をコントロールすれば細身のヒナくらい抱っこできるだろう。
「本当に、ごめんなさい」
女の子の憧れであるお姫様抱っこを、僕みたいな者がやってしまうことをしっかりと謝罪し、ヒナを抱き上げる。
ヒナの体は驚く程に軽く、ひょいと持ち上がってしまう。
変な気持ちにならないように無心で宿まで運ぼうとするが、ヒナが目を覚ましてしまう。
「うー」
そう言って目を擦るヒナ。
「ごめん、起こしちゃった?」
そう聞くとヒナは僕の首筋に抱きついてきた。
やばい!これじゃあ本当のお姫様抱っこになってしまうじゃないか!
「ぎんいちろーは、いなくならないよね?」
「えっ?」
僕はもしかしたら勘違いしていたのかもしれない。
ヒナは自分一人でこの世界での生き方を見つけ、凄い能力まで身につけた。
だからヒナは強い子だと思っていた。
でも考えてみれば見知らぬ世界で、高校生の女の子が一週間も一人だったのだ。
僕にはローガンがいた。でも彼女には頼る人もいなかった。
心細かったに違いない。
「大丈夫、いなくならないよ」
それを聞いたヒナは安心したのか、またすぐ眠りについた。
……僕の首筋に抱きついたまま……。
宿までは結構距離があった。
「すいません。
空いている部屋はありますか?」
やっとのことで宿についた僕達を見て、夜の店番をしていた宿の従業員はチッと舌打ちをした。
「一部屋だけ空いてるよ!どいつもこいつもイチャつきやがって」
そう言って苛立ちながら部屋の鍵を僕に渡した。
違うのに……そう言うんじゃないのに……なんて言っても信じてくれませんよね。
もう限界だ!ヒナからはずっといい匂いがするし!精神が持たない!
だが、弱った僕を完全に打ちのめす事態が起こる。
「ベッドが……一つしかない……だと?」
僕は諦めてヒナを起こさないようベッドに寝かせた。
僕はもちろん、床だ!
ヘタレじゃない!紳士だ!
朝はおろおろと動き回る、ヒナの足音で目が覚めた。
「ああ、おはようヒナさん」
僕が起きたのを知り、ヒナは頭をさげる。
「すまない!
昨日は迷惑をかけたみたいだ!」
いつものヒナに戻っている。
確かに昨日は大変だったけど、ヒナはやっぱり少し無理をしているんだと思う。ちょっとでもいいから、昨日みたいに素直になってくれたらいいのに。
僕は思い切って、リア充みたいなことを言ってみる。
「き、昨日のヒナさん、か、可愛かったですよ!」
顔を真っ赤にしたヒナは、ぼそりと言う。
「ごめん……何も覚えてないんだ」
僕はあんなに緊張したのに……もう二度と、ヒナにお酒は、飲ませまい。




