オリヴァー
「乾杯!自由に!!」
その一言を皮切りに、飲めや歌えの大騒ぎが始まった。
僕も食事は楽しかったが、それ以上に宇田川さんの事が気にかかった。
「宇田川さんは、ノートの事ってわかる?」
彼女は僕のテーブルの向かいに座り、何か飲み物を飲んでいる。
「ああ、知っている。それでこの世界に来た。君もそうなのだな。それと、私の事はヒナと呼んでくれるか?この世界ではそう名乗っている」
僕は女の子をあだ名で呼ぶことにだいぶ抵抗があったが、そんな事で照れている場合ではないのは分かる。
「ヒナはどうして僕が異世界から来たって分かったの?」
ヒナはその質問に逆に驚いている。
「君が来ているのは学生服だろ?」
そ、そうだった!またこの格好のまま異世界に来てしまった!
「ところで、君の名前も教えてくれるかな?」
「あっ、そうですね、すみません。僕は桐島銀一郎といいます」
「桐島君か、君はこの世界にきたばかりかい?」
「そうですね、でも僕はこの世界に来るのは2回目なんです」
「本当か?では帰れるのだな、元の世界に!」
「はい、方法はあります!すぐにという訳にはいきませんが……あと僕は知り合いがこの世界に来てしまっていて、その子を連れ戻さなければいけないので、それで」
「ふむ、いろいろ後でゆっくり聞く必要がありそうだな。今は人の目もあるし少々騒がしい。この話は後でにしよう」
「ヒナさんはなんであいつらに捕まっていたんですか?」
ヒナの不思議な力の事を考えれば捕まるのも不思議だし、仮に捕まってもすぐに逃げ出せたはずだ。
「わざと捕まったんだ。ギルドであいつらの悪行を聞いて、我慢できなくなった」
凄い!自らあんな危険な所に飛び込んでいったんだ!
「ヒナさんはギルドに入っているんですか?」
「他に仕事がなかったからな。ギルドに厄介になることを決めた」
ヒナは驚くほど達観している。
「ヒナさんの能力の事を聞いてもいいですか?」
「あぁあれか。あれなら君も使っていたぞ」
「えっ?」
そう言われても僕にはピンと来ない。
「あれは魔素をコントロールしていたんだ。すべてのモノには魔素がある。君はさっきは体の中にある魔素をコントロールしていたんだ。目に魔素を集めて相手の動きを捉えたり、足に魔素を集め跳躍力を高めたり」
「じゃあカギを開けていたあれは?」
「あれは物質にある魔素をコントロールしていたんだ。ただ体の魔素と物体の魔素を操るのでは難易度が全然違う。鍵開けの方は体と違いすぐに使うのは難しいかもしれない。だから魔素をコントロールできるからといって、また檻に入ったりはするなよ」
「もうこりごりですよ!」
「だろうな」
僕とヒナは二人して笑った。
そこへ、
「いい感じの所じゃまして悪いな」
そう言って巨人のおじさんが酒を持って登場した。
「見たところ酒を飲んでいないようだが?」
「私たちの国では酒は20歳を超えてからとなっているから、それに従っているまでだ」
「ふむ、なるほどな。だがなこの国では酒は飲みたい奴が飲みたいときに飲むものだ。ここはお前たちの国ではない。お前らもこの国にいる以上この国のルールに従えばいいのさ」
そう言われて、ヒナは少し考え込んだ。
「ふむ、郷に入っては郷に従えという事か。一理あるな」
おじさんはそれ以上は無理に酒を勧めてくることはなかった。
「俺はオリヴァーという。見ての通り巨人族だ」
「私はヒナだ、こちらは……」
僕は桐島銀一郎と名乗るのはちょっと変かと思い、
「ギンと言います」
そう名乗った。
「お前たちはこれからどうするんだ?」
「私はわけあって国に帰れない状況なのだ。だから旅をしながら国に帰る方法を探す。ギンも同郷だ。彼のおかげでなんとかその目的も達成できそうだ」
「ぼ、僕もいずれは帰りますが、実は探している人がいて」
「何て名前だ?知っているかもしれない」
「天音深鈴という僕と同い年の女の子です」
「アマネミズズ?変わった名前だな。俺はこの後巨人族の村に帰るつもりだが、アマネミズズという者の事を気にかけておくぞ。もし機会があれば俺たちの村も訪ねてきてくれ。基本的によそ者は村に入れないのだが、お前たちなら歓迎だ」
「ありがとうございます」
僕がオリヴァーに礼を言ったその時、突然ヒナが僕にしな垂れかかってきた。
「うわ!?えっ?ヒナ?」
驚いて声をかけるとヒナは呂律の回らない声で言った。
「なんだよ、うわって!わたしがくっつくといやなのかーー?」
これはヒナさん!完全に酔っぱらっています。
見るとオリヴァーが持ってきた酒のグラスが空っぽになっている。
オリヴァーは僕たちの様子を見て楽しそうにしている。
「いい飲みっぷりだ!ヒナ!」
おい!無責任だぞ、オリヴァー!!
 




