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スペンサーさん

携帯のライトではやっぱり明るさが足りない。


魔法を使ってみよう。

僕はあの時みたいに右手の指先炎をイメージした。

あまり大きくはないが、すんなり炎が姿を現す。


「やった!」


どうやらこの世界なら問題なく魔法が使えるようだ。


しばらく歩いていると、やっと何か光らしき物が見えた。遠いせいか光は小さかったが、とりあえず僕は光を目指し歩いた。


するとどうだろう、むしろ光の方が僕の方に近づいて来ている。


分かったぞ、あれは馬車の光だ。


僕の予想通り、それは大型の馬車だった。

馬を引いていた無精髭のひょろっとした男は僕を見つけて大きな声を出した。


「手から炎?魔法だって!


魔法を使える子供だ!


スペンサーさん、すぐ出てきて下さい!」


すると馬車の中から高そうな服に身を包んだ、長身の男が現れた。


男は僕を見るとほほぉ、と声をあげ、僕に話しかけてきた。


「お前は魔法が使えるのだな。

炎以外には何か使えないのか?」


偉そうな話し方だ。実際偉いのかもしれない。髪もポマードか何かで撫でつけているし、貴族とか?


「魔法はまだ使える様になって一週間くらいなので、これしか使えません。


……あの、馬車に乗せて頂けませんか?近くの町まで連れて行っていただきたいんです」


貴族の様な男は何かぶつくさ考えている。


「魔法……一週間……これは都合がいい……」


「あ、あの……」


「分かった。馬車に乗るがいい」


助かった!もしかしたらこっちの世界は良い人が多いのかもしれない。


案内されるまま馬車に乗ろうとしてふと気がついた。


「あの……僕、お金持っていなくて……」


男は笑いながら答える。


「金など気にするな。

私はスペンサーと言う者だが、後ろの積荷は次の町で売る商品でな。


今回は高値で売れそうな物が手に入ったし、困っている子供相手に商売しようなんて思うほど、私も落ちぶれてはいないよ。


さぁ、中に入りなさい。一人で夜道を……大変だったろ。

こっちにスープとパンがある、遠慮せず食べなさい」


このスペンサーという人、最初は嫌な感じの人かと思ったが懐が深いな。やっぱりお金を持っている人は違う。


僕は御言葉に甘え、パンやスープに手をつけると、いつの間にか眠くなり、その場で眠りこけてしまった。


目を覚ますと、僕は檻の中にいた。


目が覚めたらいきなり檻の中だなんて。


まだ寝ぼけているのかと思ったが、冷たい鉄格子の感触は現実のものである。




僕の入れられている檻はステージの様にちょっと盛り上がった場所に置かれている。


よく見ると他にも檻に入れられた人が何人もいる。


僕たちの檻の周囲には何十人もの人が集まっており、集まっている人々は笑いながら檻に入っている者達を見ている。


これじゃあまるで見世物だ。




いつの間にか、僕の前にはあの馬車の中にいたスペンサーという男がいた。


これはどういうことだ、と叫ぼうとしたが、その前にスペンサーが集まっている人々に大きな声で言う。


「皆さまよくぞお越しくださいました。これより奴隷オークションを始めます!」


「ど、奴隷?」


思わず声を上げると、すかさずスペンサーが囃し立てる。


「聞きましたかみなさん!檻の中に入ってまだ、自分が奴隷だということにすら気が付いていない間抜けですよ!」


スペンサーがそう言うと観客たちがどっと笑った。


「しかし、驚くなかれ!この奴隷、子供ながら魔法を使います!」


観客たちは魔法と聞いてどよめきだす。


「魔法使いなら500出す!」


「650!」


「俺は800だ!」


なんだかえらい事になっている。なんとか脱出しなくては。僕は腕から激しい炎を出す。


観客は魔法を使った僕を見て興奮を最高潮にする。


別に見せるためにやってるんじゃない。檻を焼き切るんだ!


観客たちは凄まじい炎の勢いを見て、歓声ではなく悲鳴を上げる。


檻の扉に向かい炎をぶつける。


しかし炎は扉にぶつかる寸前のところでかき消されてしまう。


観客は炎が消えたのを見て驚いている。


「ご安心下さい皆さま!この檻は魔法除けの呪術を施してあります」


余りの出来事に観客は一瞬シーンと静まり返ったが、またすぐに騒がしくなる。


「すげぇー魔法だ!1000出す!」


「俺は1500だ!」


スペンサーは観客の食いつきを見てにんまりしている。


魔法が効かない檻なんて、これは本気でまずい!


「皆さまそう焦らずに。今回は他にも素晴らしい奴隷を用意しております。ささ、ごゆっくりと、オークションを楽しんでいって下さい。ではまず最初の出品、巨人族の奴隷です」


ついにオークションが始まってしまった。僕は頭を抱え必死に考えを巡らすが何も思いつかない。


呆然としている僕に、後ろの檻の中にいた者が声をかけてきた。


「かなり魔法が使えるみたいだな」


声をかけてきたのは僕と同じくらいの年の女の子だった。


女の子は背が高くて足が長い、モデルみたいな体系をしていた。髪を後ろで一つに縛っており、顔はちょっぴり猫目なのが特徴だ。


「君は?」


「自己紹介はここを出てからゆっくりやろうじゃないか」


「ここを出てからって……」


そんな無茶なことをと思ったが、その女の子は平然と言った。


「今から君の檻を開ける。だから君はその魔法で、思いっきり暴れまわってほしい」



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