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忘却

「ちょうどこの辺りは静かだし人もいない。ノートを開くなら今ね!


はい、こっちはあなたの分」


そう言って僕にノートを渡す。


「今って、それはさすがに。きっと父さんも母さんも心配するし」


僕のその言葉を聞いて、天音はあからさまに苛立った。


「心配してくれる人がいるなら、貴方はこのままこの世界にいればいい!」


彼女がそこまて苛立つ理由がよく分からない僕は、何とか説得を試みようとした。


「まぁ待ってよ。

あの世界は危険も多いし、武器とか服とか用意した方がいい。


ノートの事だって謎が増えたし、もっと調べないと」


天音は僕の言葉になんか耳を貸さない。そっぽを向いて拗ねてしまっている。


「どうしてそんなにまで異世界に行きたがるのさ!」


うんざりして僕がそう言うと、天音は耳を澄まして辛うじて聞き取れる様な小さな声で、


「異世界に行きたいんじゃない……この世界にいたくないの……」


そう呟いた瞬間天音は突然持っていた魔法のノートの最終ページを開いた。

ノートから光がほとばしり天音を包む。


「あ、天音!」


余りの光に目を開けていられなかった。


しかし光が溢れていたのはほんの一瞬。

僕が目を開くともうそこに天音の姿はなくなっていた。


まずい……これはまずい!


天音が一人で異世界に行ってしまった。


僕はローガンに出会えたおかげでなんとか運良く、生き延びて元の世界に戻ってこれたが、天音も同じ様に幸運に恵まれるとは限らない。


「そ、そうだ!」


僕はついさっき教えてもらった榊さんの連絡先に電話をした。


警察の人、大人!何かいいアイディアを出してくれるかもしれない。


だが榊には、何回かけても繋がらない。


「あぁ!くそぉ!」


こうしてる間にも、異世界に行った天音が魔物に襲われているかもしれないのだ。


天音が異世界に行ってからまだ5分くらい。


「今行けば、まだ間に合う」


僕は魔法のノートに手をつける。ノートの1ページ目、


「おや?君は二回目だね」


あれ?前と書いてある事が違う!


「元の世界に戻れたなら、君には素質があるってことだろう」


素質……それは買い被りだ。

ローガンと魔素の多いあの場所のおかげでなんとか帰ってこれたのだ。


「君は僕の所に来るといい。

こっちに来たら僕を探すんだ。」


探すもなにも、君は誰なんだい?

何がしたいんだい?


「僕が誰か、それは君がその資質を持っていればいずれきっと分かる。その時まで、君は二つの世界を行き来して、楽しんでくれればいい。さぁ、次のページが世界への扉だ」


資質?世界を行き来する?


気になることはいくつもあったが、今はとりあえず天音を追うしかない。


僕はまたあの時の様に眩い光に包まれたが、それは一瞬の事。


僕は見慣れない高野に飛ばされていた。

前回飛ばされた場所とは明らかに違う様だ。


そして今回は、前回より遅い時間なので辺りは真っ暗である。


「天音!」


そう呼ぶが返事は無い。

携帯のライトを使い、周囲を見渡すが、人がいた痕跡もない。


「くそぉ!」


もしかすると天音は僕とは別の場所に飛ばされたのかもしれない。

良く考えれば、ノートがいつも同じ場所に僕を飛ばしてくれる保証なんて何もなかったのである。

これでは天音を助けるどころか自分も元の世界に帰れない。


とりあえずこのままここにいるのは危険だ。何処か安全な所を目指そう。


そう思って前回の様に町の灯はないか見渡すが、あるのは暗闇ばかりである。


僕は闇雲に歩みを進めるしかなかった。





榊靖也は帰宅するため鼻歌交じりに車を飛ばしていた。

すると、突然の着信。

警察署からかと思い、車内中央の携帯ホルダーに目をやると、


「桐島銀一郎」


と名前が出ていた。


「……誰だっけ、これ?」


全く思い出せない。というか今日はどんな捜査をしていたんだっけ?あれ、そう言えば今日は夕方からの出来事を殆ど思い出せない。何故だ?


「この歳でもの忘れはまずいなー」


そんな独り言をつぶやくが、思い出せないなら大したことは無いと思い気にしない事にする。


いつの間にか着信は切れてしまった。


「切れちゃった。まぁいいか、知らない人だし」


榊は何もかも忘れ、車を飛ばし続けた。

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