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出会い

「ところで、ノートを探すって言っても、具体的にどこを探すつもり?」


天音は即答する。


「たぶん、ノートがあるとしたら、あの場所だと思うんだけど、どうやって入るかが問題なのよね……」


「え?それ、どこなの?」


「学校よ」


「学校?」


「きっと行方不明になった宇田川さんも、学校でノートを見つけたんだと思うの。

そしてあなたも学校の図書室でノートを見つけた。

そうなると他の学校にもノートがある可能性は高い気がするの」


「なるほど」


「でも、どうやって学校に入るかよねー、他校の生徒を入れてくれるかしら」


「ちょっと難しいかもね」


「ここから一番近いのは宇田川さんが通っていた学校ね。

宇田川さんが学校でノートを見つけたのなら、ノートはもうないかもしれないけど、何か手がかりになるような物があるかもしれないし、少し寄ってみましょう」


天音の意外に冷静な推理を聞いて、本当にノートを見つけてしまうんじゃないかと思えてきた。


宇田川さんの通っていた学校に着くと、僕たちは学校前をうろつく不審者を見つけた。


不審者は20代くらいの天然パーマのかかった男で、腕を組みながら校門前を行ったり来たりしている。


「なんだろう、あの人」


「気持ち悪い奴ね」


天音は男をじっと観察していたが、急にはっとして、ニヤリとした。

これは、また何か悪い事考えてるよ。


「桐島君、ついてきなさい」


天音は怪しい男にどんどん近づいていった。


「うわっ、ちょっと待ってよ」


天音は男に声をかける。


「おじさん」


「えっ?俺?いやだなぁ、俺はこう見えてもまだにじゅ……」


「どうでもいい、そんなこと!」


男は女子高生に一蹴されてしゅんとしている。


「おじさん、刑事でしょ?」


「えっ?なんで分かったの?」


「やっぱり」


「えぇぇぇ、誘導尋問?」


このおじさん、大人のくせに天音にやり込められてるぞ!


「あなたは、宇田川さんの行方不明の件で捜査に来た刑事さん、そうでしょ」


「うっ、そうです……」


天音は考えさせる間を与えず畳み掛ける。


「白紙の大学ノート……それが今回の行方不明事件の鍵なんでしょう」


「ど、どうしてそのことを!」


この刑事さん、ちょっと口が軽すぎやしないだろうか……。


「私たち、宇田川さんの行方不明について情報を持っているわ」


「ほ、本当かい?」


「ええ」


いや、待ってくれ天音さん!そんな情報あったっけ?


「お、教えてくれ!その情報を!」


「焦らないで!ここでは教えられない。話は私たちと、この近くの別の高校に行ってからさせてもらうわ」


「わ、分かった」


「分かったならさっさと車回してきなさい」


「は、はい!」


そう言って男は駆け出していった。

恐ろしい女だ、こいつは……。初対面の刑事をまるでパシリの様につかっている。


「凄い……よく刑事さんだって分かったね、それにあの交渉」


天音はつまらなそうに答える。


「簡単よ、あの人首から黒い紐かけてたでしょ、あれは警察手帳。私服の刑事はポケットじゃなくて首から手帳を下げていることが多いの。


それと、ただの行方不明じゃ刑事は捜査を始めない。まして、私服の刑事が学校に行ったりする事はあり得ない。


つまりこの行方不明は事件になっている。その理由はちょっと推理すれば分かるでしょ」


「……白紙のノート?」


「そう。おそらく彼女以外にも白紙のノートを残していなくなった人がいるのよ。それも何人も。


だから警察は事件と見て捜査している。


これは宇田川さんが異世界に行った可能性、高くなってきたわね」


そんなことを話していると、男が車を回してきた。


「後ろに乗ってくれ」


天音は僕に耳打ちする。


「これで学校に入れそうね」


確かに、刑事と一緒なら他の学校にも自由に入れそうだ。


後ろに乗り込むと男は明るい声で言った。


「僕は榊靖也、この行方不明事件を担当している刑事なんだ」


相手が名乗ったので僕も名乗る事にした。


「桐島銀一郎、高校生です」


「山田花子です。よろしく」


天音はサラリと嘘をついた。思わずぶっ、と吹き出してしまう。


「どうしたの、桐島君、むせたの?」


「いや、ちょっと、あまね……」


僕がそう言うと天音は僕の頭をグッと掴み言った。


「そう、昨日あまり寝てない、のね。

駄目じゃない、体調管理はしっかりしなきゃ!」


これは……。

天音の目は、ばらしたら殺すと言っているぞ!


「そ、そうなんだよ、山田さん!昨日はずっとテレビを見ちゃってて」


そんな光景をバックミラー越しに見ていた榊さんは笑いながら言う。


「ははは、2人とも仲がいいんだね」


天音はにっこり笑って見せる。

僕も天音に脇腹をつままれ、無理矢理笑顔を作る。


「それにしても、銀一郎、花子……。うーん」


やばい、やっぱり山田花子なんて安易な嘘、ばれてしまう!


「古風でいい名前だね!

それにしても花子ちゃん、美人だよねー」


「名前で呼ばないで下さい。気持ち悪い。

警察呼びますよ」


「えぇぇぇぇぇ!僕も警察なんだけど」


そうこうしている内に車は学校へ到着した。


「この学校では、行方不明の話は聞いていないけど、ここにどんな情報があるって言うんだい?」


榊に聞かれ天音が答える。


「あれと同じ大学ノートが、ここにもあるのよ」



「えぇ!」


榊は目を見開いて驚いていた。



学校に着いてすぐに、天音は榊に提案する。


「まぁ、あくまで推測ですけど。図書室辺りが怪しいですね」


「わ、分かった!すぐに学校に入れる様に掛け合ってくるよ!」


そう言って校舎に向かおうとする榊さんを、僕はつい呼び止めてしまった。


「あ、あの……」


「ん?どうしたんだい、銀一郎君?」


「いや、あの、えっと……どうして榊さんは初対面の僕らの話を信じてくれるのかなって」


余計な事を言うなと睨みつけてくる天音の鋭い視線を感じる。榊さんはそんな事には全然気がつかない様子で、あっけらかんと答えた。


「そりゃ、僕は刑事だからね!


その人が嘘を付いてるかどうかなんてすぐ分かるよ!」


僕は呆れて何も言えなくなってしまう。


いや、この山田花子、元へ、天音深鈴はとんでもない嘘つきですよ!と大声で叫びたい気分だった。


榊さんは僕がポカンとしているのをどう好意的に捉えたのか、意気揚々と校舎に向かっていった。



榊さんは10分程で帰ってきた。

その10分の間ずっと天音から無言で睨みつけられてしまった。もう余計な事はしませんよ。


「校内自由に見ていいって!」


そう言って、来客者様のバッジを僕らに差し出してくれた。


僕達はまずは図書室に向かう事にする。


もう5時を回っていたので、生徒達は疎らだったが、僕達3人を見て不思議そうな顔をしていた。


僕は恥ずかしかったが、2人は全く気にしていない。


図書室には数人の生徒がいたが、


「よーし、張り切って探すぞー!」


と言う榊さんの声に驚いて、殆どの人が出て行ってしまった。


僕達は場所を決めて10分くらい本棚と睨めっこしたが、ノートは見つからなかった。


「無いみたいだね」


「そうですね」


僕と榊さんがそう話していると、天音が怒りの声を上げた。


「ちょっと!ここにあるじゃない。どこ探してるのよ」


それは榊さんの担当した場所だった。

確かに天音が指差す場所に一冊のノートが置かれている。


榊さんはそれを見てもピンと来ていない。


「ど、どこ?ないよ?」


「え?」


「ふざけてるの?ここにあるでしょ?」


榊さんはゴシゴシと目を擦ってもう一度本棚を見るが、やっぱり首を傾げている。


天音がノートを本棚から取り出すが、榊さんはまだ変な事を言っている。


「そこに……本当にノートがあるんだね?」


僕は驚いて榊さんに逆に尋ね返してしまう。


「本当に、見えてないんですか?」


榊さんは力なく答える。


「やっぱり銀一郎くんにも見えているんだね。


残念ながら僕にはこれっぽっちも見えやしない。


いったいそのノートは何なんだい?」


天音はその言葉を聞くと、ノートを榊の手に当てた。


「あれ?何かある?


確かに、これはノートみたいなものだ!」


「信じられないかもしれないけど、これは魔法のノート。


これを開くと何処か別の場所に飛ばされるみたいなの。


私も今初めて知ったけど、どうやら見える人と見えない人がいるみたいね」


榊さんはノートを触ったことで、かなり驚いていた。


「信じられない話だが……確かに僕の手にはノートが触れた。


じゃあいなくなった人はみんなそのノートを開いたのか!」


「だいたいあってるわ。


詳しくはまた明日。


このノートは明日まで私達が保管するわ」


「えっ?それは駄目だよ!


だってそれは事件の重要な証拠品……」


「目に見えない様な物を、証拠なんて言って警察署に持っていけるの?


それに見えないあなだがどうやって保管するのよ」


「確かに……」


榊さんは諦めて、明日また放課後会う事を約束し、僕とアドレスを交換した。

天音は個人情報と言って榊さんにはアドレスを教えようとしなかったが、僕のだけで大丈夫と言ってくれた。


榊さんと別れ、天音と2人きりになった。

すると当たり前の様に天音が言う。


「さぁ!今から異世界に行くわよ!」

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