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ローズリーフは盗まれる。

滑り込み参戦!

タワプリ部門の存在を今頃気が付きました。



 いばらの塔から一番近い位置に存在する教会の村アルトグレンツェでは、いばらの塔に挑む人のほぼ全員が立ち寄る。

 いばらの塔から離れた都市から挑戦するために来た騎士は、アルトグレンツェで休憩し一度疲労を取ってからいばらの塔に挑戦するのが一般的である。

 休憩以外にも、アルトグレンツェに来るまでに行った戦闘で消費したアイテムや、装備の手入れ等、アルトグレンツェはいばらの塔に挑む騎士にとって重要な拠点である。


 そしてアルトグレンツェには、稀少な治療士の少女が治療所を開いている。

 いばらの塔に挑み、魔物との戦闘で負傷した騎士は治療所で怪我を治してもらってから自身の都市へ帰っていく。



 アルトグレンツェの北側にこじんまりとした建物が建っており、建物内は血の匂いが漂っている。 


「はい、これで大丈夫です」


 白色を基調とした衣装を纏い、所々赤く染まったエプロンを身にまとった少女――カグヤは、男の手を離し、額の汗を腕で拭った。

 男はカグヤから手を開放されると、様々な角度で動かし確認する。


「違和感もない。今日も助かったよ、カグヤさん」


 男は笑顔で礼を言い、腰に下げたポーチから硬貨を数枚取り出しカグヤに渡した。


「あれ、一枚多くないですか?」


 受け取ったカグヤは硬貨の枚数を確認し、いつもよりも枚数が多いことに気が付いた。

 カグヤは稼ぐためというよりも騎士をサポートするために治療所を開いているため、最初の頃は、ほぼ無料と言っても良いような料金で治療を行っていた。

 しかし、ある時から感謝の気持ちとして騎士自ら多めに料金を払うようになり、今ではカグヤに治療してもらう殆どの騎士は、カグヤの指定した料金の三倍程のお金を支払って帰る。

 今治療してもらった男もその一人であり、いつもは硬貨六枚のところを、今日だけは何故か一枚多く七枚あった。


「いや、いつもお世話になっているからね。感謝の気持ちさ」


 今度ちゃんとしたお礼として何か持ってくるよ、と男は言った。


「え、いや……。あ、ありがとうございます」


 目の前の男のこれは始めてのことではない。既に数回程、お礼として果物等を持ってきてくれており、その度に遠慮したのだが、男の頑固さに根負けしていた。

 一瞬、そこまでしてもらうのは悪いですよとカグヤは言いそうになるが、その事を思い出したカグヤは、素直に礼を言うことにした。


「じゃあ、次は来月くらいにまた挑戦しに来るよ」

「お礼だけ楽しみにしてますね」

 

 それは暗に次は怪我をしないでくださいね、というものだった。

 男はカグヤの言葉に笑いながら返事を返し、床に置いていたバッグと壁に立てかけておいた剣を手にとって帰っていった。

 

「たたたた大変です!! カグヤさん!!」


 男と入れ違いに入ってきたのは緑色の衣服を纏い、七色のグラデーション模様の羽を持った小さな妖精で手には魔法がかけられた小さなランタンを持っている。

 その顔には焦りの表情が浮かんでおり、彼女の言葉からも焦っていることが読み取れた。


「エインセール、どうしたの?」

 

 カグヤは妖精――エインセールの言葉には落ち着いて聞き返した。

 エインセールは良く治療所に遊びに来ており、その際にも今のような状況があり、詳しく話を聞いてみると、人気のローズパンを村の中央にある池に落とした等大したことだったのは一度もない。

 しかし、今回は違った。


「え、えっと、ローズリーフが!! と、とにかく付いて来てください!」


 言い終わるや否やエインセールは治療所を飛び出して行き、カグヤは急いでその後を追う。

 エインセールの話に出てきたローズリーフは、呪いを退ける力を持っている。見た目はバラの花びらのような赤く透き通った石である。

 いばらの塔は強力な呪いに覆われており、ローズリーフ無しでは進むことが出来ず、騎士に取って必需品の一つだ。

 カグヤは、そのローズリーフが大変なことになっているのならば、大事だと判断したのだ。


 治療所を飛び出したカグヤは元から小さい体が、遠くに居ることで更に小さくなっているエインセールの後ろ姿を走って追いかける。


 そしてクエスト教会と呼ばれる建物の前にたどり着く。

 そこには既に数人の兵士と赤い髪でメガネを掛け、人や世界を観察し、記録をし続けて、賢者と呼ばれているオズヴァルトの姿があった。


「オズヴァルトさん、何があったんですか?」


 見知った仲であることや、その場にいる人物の中で一番状況を把握できているであろう人物にカグヤは尋ねた。


「君か。保管していたローズリーフを全て盗まれたみたいなんだ」


 何故ローズリーフを、とカグヤは疑問に思う。

 ローズリーフはいばらの塔に挑む騎士以外には需要はない。そして騎士もいばらの塔に挑む時にクエスト教会へ申請を出せば、ローズリーフを必要数支給してもらえる。

 そのため態々盗む必要が思いつかなかった。


「ローズリーフは、騎士以外にも需要はあるんですか?」


 カグヤ自身は思いつかなかったが、目の前の賢者ならば知っているかもしれないと思ったのだ。

 オズヴァルトは自分の持つ知識を思い返し、関連するものを探していく。


「騎士以外には……、いや、まさかッ!?」


 突然大きな声を上げるオズヴァルトにカグヤは二重の意味で驚いた。

 単純に大きな声に驚いたのもあるが、オズヴァルトが声を荒げる所を見るのは初めてだったというのが大きい。


「カグヤ、このままでは『聖女』ルクレティアの身が危ない」


 『聖女』ルクレティア。彼女は騎士たちが挑むいばらの塔のどこかで眠っているとされ、この世界の統率者だ。


「オズヴァルト様ッ! 緊急事態です! 城塞都市シュネーケンで保管されているローズリーフが全て盗まれたそうです!」


 クエスト教会前に集まったカグヤ達の所へ一人の兵士が走ってくるや否や、息を整える間もなくオズヴァルトへ報告する。

 

「なんだって!? ……これは不味いね。これ以上、犯人の手にローズリーフを集めさせてはいけない、急いで他の都市にあるローズリーフを守らなければ大変なことになる」

「では、私はノンノピルツに向かいます。あそこには友人もいるので」

「あぁ、お願いしてもいいかい? 何としても最悪の事態だけは避けなければならないんだ」


 ノンノピルツ。そこは魔法都市と呼ばれており、赤の女王の治める街である。魔法学の研究が盛んであり、住人も学者肌も多く、変わり者も多い。

 カグヤの友人はその中でもかなりの変わり者だが、騎士の主である姫の一人だ。

 この件は友人にとって非常に関係のあるもののため、早く伝える必要があるとカグヤは考えた。

 それならば、ノンノピルツへの道を知っており、道中に現れる魔物に襲われても対処できる力を持った自分が向かおうと。


 オズヴァルトのから任されたカグヤは、オズヴァルトへ一つお願いをする。


「オズヴァルト様、エインセールを連れて行ってもいいですか?」

「あぁ、エインセール。カグヤに同行して手伝ってあげなさい。カグヤ、気をつけて行動するように」

「このエインセールにお任せください!!」


 カグヤはオズヴァルトから頼まれ、張り切って答えるエインセールの名前を呼ぶ。


「エインセール」

「はいです!」


 エインセールは魔法のランタンからカグヤが愛用する杖を取り出し、カグヤはそれを受け取る。

 そのランタンは正式には導きのランタンと言い、行きたい場所を指し示してくれるだけでなく、ランタンの中には特別な空間が広がっており、物を入れることが出来る優れものである。

 ただ、行きたい場所と言っても、いくらか制限はあるのだが。


 

 二人は名前を呼ぶだけで、相手が何を求めているのか理解できる程度には二人の仲は深かった。

 それは長年連れ添った夫婦が、「あれ」といえば「はい」と求めたものを渡してくれるような、あうんの呼吸だった。


「ランタンにこの前入れた食料は残っているかしら?」

「ち、ちょっと減っていますが、ノンノピルツに行って帰って来る程度には残っています!!」

「またこっそり食べたのね。はぁ……、まぁいいわ、行くわよ」



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