表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/21

 ……、……、…ピッ、ピピッ、ピピッ、ピピッ、


ピピピピピピピピッ!!


バンッ!!


「あぁ……起きなきゃ……」


 目覚まし時計を叩き止めた格好のまま布団に突っ伏してるのは、今代の封印の巫女。

 

 ノロノロと起き上がり、半分閉じた目で出勤の用意にとりかかる。いつもの朝のいつもの行動。


 彼女の名前は、サチ・コーソン。二十四歳、女性。

中堅の広告代理店で事務職につく、ごく普通の社会人。住まいは実家で、両親と四つ下の弟との四人家族。


 サチは、二階の自室から階段を降りて洗面台にむかい、歯みがきをしながら昨日の出来事を思い出してみた。


 ***


 昨日、日曜の午後。家族は全員外出しており、久しぶりに一人のゆっくりとした時間を、リビングのソファーに寝転びながら読書して過ごしていた。

リビング南側の大き目の窓の外には、ゴーヤの緑のカーテンが見事に育ち、真夏の午後にも関わらず涼しい風が室内に入ってきていた。

サチにとって至福の時間だった。


 やがて、うとうとしだしたが、サチはそれに逆らわず、読みかけの本を傍のテーブルの上に置くと、ゆっくり目を閉じた。


 すると、まだ眠りの浅い微睡みのなか、ミコ……ミコ……ミコ……と言う声が聞こえてきた。サチは、一瞬目を開けようと思ったが、眠たさに負けて寝ることにした。するとまた、声が聞こえる。「ミコミコうるさい……」

と寝言のようにつぶやきながら、近所で、猫でも呼んでいるのかと思った。


 だが、なんと、目を閉じた真っ黒な空間から淡い光に包まれて、だんだん人の形が現れたのだ。現れた人は、見覚えのある、白く長い異国の服を着た、白く長い口髭が立派な老人だった。老人はサチを見るやいなや、「巫女! 」と大きな声で呼ぶと、抱きつかんほどの勢いで、ズンズンとせまってきたのだった。


 そこからが、怒涛の展開。

老人に、「巫女」とはっきり呼ばれた瞬間から、サチの脳内に、歴代の封印の巫女達の記憶、自身が三百年毎に覚醒する巫女の今代であること、これからなすべき役割、次から次へと情報が湧き、溢れ出てきたのだ。


 サチは吐きそうな気分に立っていられなくなり、膝を付いた。その様子を見て、老人はあわててサチの側に駆け寄り、背中を優しくさすった。


「巫女!! どうされた?!」


サチは、きちんと説明できないまま、踞っていることしかできなかった。

しばらくそうしていたが、少し気分が良くなったところで顔を上げ、老人に礼を言った。


「ありがとうございます。もう大丈夫です。」


サチの顔色を見て老人も安心したようで、背中から手を離した。

そして、老人はサチの正面に膝を進めて姿勢をあらためると、問うてきた。


「『封印の巫女』ですね。」


サチは、老人の目を見てしっかりと頷き、老人の服に付く意匠をさっと確認し、返した。


「あなたは、神官長ですね。」


老人は、あぁ! と感激したように声をだした。



 老人は、神官長ユンベルグと名乗った。

ユンベルグは、巫女の覚醒が二年遅れており、ずっとずっと捜し続けていたことを切々と話した。


 覚醒した巫女を世界の中から捜すのは神官長の務め。覚醒した巫女とは夢を使って繋がることができる。それが、この神官長は二年間も夢で呼びかけ続けていたのだ。


 サチは意図的に隠れていたわけではないが、老いた神官長に重荷を背負わせたことが可哀想になり、素直に何度か謝罪した。

ユンベルグは捜し出せなかった理由を聞きたがったが、「いまは詳しく話せません。ごめんなさい。」としか言いようがなかった。

サチの中では、理由となる記憶があったが、いま話すとこの老人をひどく驚かすことになり、夢を使った心話中は、精神的ショックをひかえたかった。


 ユンベルグは「――そうですか。」と引き下がったが、目には、知りたい! という思いが溢れていた。

その目をみて、サチは、いつかちゃんと話しますからと、ユンベルグの肩に手を置き、子供に言うように優しくなだめた。








評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ