「Ⅺ.俺が最後に勇者を倒して、ハッピーエンドにできない訳がない!」の没案
「どういうつもりだ?」
「どういうつもりも何も、今言った通りなのだ。君はうちの家来になる。そうすればうちの願いが叶うのだ」
「願い?」
「ああ、言い忘れてたのだ。うちの正体は君も知っての通り世界勇者。でも、正確に言うなら十人目の世界勇者なのだ」
「は? 十人目?」
「そうなのだ。ちなみに君も十人目の魔王なのだ」
「……いったいどういう」
そこでまたニャモリンが口を挟む。
「ララ! それは言わない約束にゅー!」
「黙れ……黙らないと、殺すのだ」
そしてララは右拳で思い切りニャモリンを殴った。
「ぐー!」
その衝撃で奇妙な悲鳴を上げながら吹き飛んでいくニャモリン。
ララはだるそうに肩を回しながら、ふてぶてしく言い放つ。
「まったく、うっとうしい畜生なのだ」
「……説明してくれ」
俺はそう言った。言いながら、それを後悔している自分もいた。何か、とてつもないことに巻き込まれている。そう感じて。だが、不思議と言葉に詰まらない。たぶん俺も知りたかったのだろう。自分の知らない真実を。
「……最初からおかしいと思っていたのだ」
そしてゆっくりと記憶を辿るように慎重に彼女は語り始める。
「うちはよく分からないけど、小さい頃から知らない思い出を覚えていたのだ」
「知らない思い出?」
「そうなのだ。剣で戦ったり、誰かを助けたり。でも、そんなことうちはした覚えがないのだ。周りの人はそれをただの気のせいだろうって言うけれど、そう思えないほど鮮明にうちの頭の中にそれは残っていたのだ」
「……」
「そしていつしかうちは大きくなり、君も知るように魔王を討伐する勇者として旅に出たのだ。その途中でニャモリンやアドラーにも出会って、仲間も増えたのだ。でも、それでも記憶にない思い出はうちの頭から離れなかったのだ。ずっと、ずっとおかしいなと思ってたのだ」
そうしてララは一度ゆっくりと目を閉じた。それが彼女にとって何を意味するかは分からない。しかし、そこから彼女の持つ雰囲気が全く別のものへと変わっていく。
「いつだったか偶然聞こえたのだ。ニャモリンとアドラーの話し声が。そのときの二人は、私が寝ていると思い込んでて割と大きな声で話していたのだ。『また世界勇者のおもり』がどうとか、『十人目』がどうとか。うちは何となくその話が気になって、次の日二人に問いただしたのだ。そしたらこいつら白状しやがったのだ」
「……何を、だ?」
「……うち達がただのゲームの駒に過ぎないってことを、なのだ」
ララは大きく溜息をついた。
「この世界はよく分からない『神』とかいう存在に支配されているのだ。そして、その『神』は人間と魔族を戦わせて遊ぶのが好きなのだ。その筋書きの中では世界勇者と魔王はとても重要な登場人物らしくて、世界を滅ぼしたり創ったりしながら何度も戦わせているのだ。ニャモリンとアドラーはその『神』の奴隷みたいな奴らで、うちらをずっと戦わせるようし向けていたのだ。ちなみにこれまで滅んだ世界は九個あって、今うちらがいる世界が十個目。つまり、うちらは十人目の世界勇者と魔王なのだ」
「……訳分からねえ」
「訳が分からなくてもいいのだ。うちだって本当は分かりたくないのだ。普通に世界勇者やって、魔王倒してハッピーエンドにしたかったのだ。でも、うちは知ってしまったのだ、世界の在り方を」
「……」
「あ、だからこの戦争が人間の侵略から始まったとか、魔族がどう生まれたかとか実はどうでもいいのだ。そんなこと考えなくても、全ては『神』の掌の上の出来事なのだ」
「じゃあ、何でさっきそのこと喋ったんだよ?」
「それはうちが本当に話したい話に少しでも真実味を持たせるためなのだ。いきなりうちが『神』がどうとか言い出しても、ボルケイノ君はきっと引いちゃうのだ。でも、この世界の歴史をちゃんとうちが知っていて、それを話したあとならどう思うか。たぶん、普通に聞くより受け入れやすくなったはずなのだ」
「……」
ララのその発言は妙に説得力があった。というか意味不明なことを立て続けに言われて、信じる信じないというよりも圧倒されたというか。