傷ついた騎士
そろそろ俺の命運もここまでか。
獣人の総大将が居る洞窟。俺は数名の騎士と共に中へ入り、獣人共と戦っていた。
突入時からの戦いは犠牲を出さずに進めたものの、俺達は洞窟の奥に行くに連れて様々な罠や暗闇を利用した獣人の奇襲によって、徐々に仲間を失っていく。
俺達は撤退をしようにも出入り口を防がれてしまい、引き返すことも出来なかった。
そして、この洞窟に入ってから一時間も経たずに俺と残った三人の仲間達以外は皆死んだ。
「ぐぅ……らぁ!」
俺は敵の攻撃を盾で防ぐと、敵に隙が生じる。
すぐに俺は剣で奴の身体を貫いた。
自分の身体が返り血で濡れるが、今の俺にはその事を気にする暇が無い。
何故なら、ほんの少しでも無駄な動きをしようものならまた仲間を死なせてしまうからだ。
俺は敵を倒した直後にすぐ別の相手に向かって斬りかかり、骸をもう一体増やした。
だが、それでも相手はこちらの倍近い数が居る。
時間が経てば、それだけ俺達が不利になるのは目に見えていた。
「ぎゃぁぁ」
仲間の一人が悲鳴を上げた。
俺は声のした方向へ視線を向けると、そこには背中からパックリと切られて血の海に沈んでいる仲間の姿があった。
「くそ!」
また仲間を失ってしまった!
俺は心の中で悪態を吐きながら、仲間を殺した敵に襲いかかる。
敵と俺は何合か打ち合い、俺は一瞬の隙を突いて獣人を盾で殴る。
獣人がよろめいた所で、俺は剣を振って相手の首を切り落とした。
「隊長、俺ともう一人で脱出する為の突破口を作ります!」
この絶望の状況の中、仲間の一人、アストラが叫んだ。
「やめろ、死ぬときは皆一緒だ!」
「貴方が死んだら一体誰が国に仲間達や自分の死を伝えるのですか! お願いします、自分達は無駄死にしたくないのですよ!」
アストラは涙を流しながら俺に説得した。
俺は彼の思いを汲んで頷く。
「分かった、お前達の意思は必ず無駄には」
「隊長危ない!」
アストラが敵に気づいて、俺に叫ぶ。
油断した……
ほんの少しアストラと俺が会話をしていた内に、獣人が近づいてきていたのだろう、俺は反応して避けようとするも敵から一撃を貰った。
背中を切りつけられて、俺は痛みでよろめきながらも斬ってきた獣人に反撃して逆に打ち倒す。
俺はよろめきながらも、剣を構える。
深く斬りつけられたのだろう、正直意識が朦朧としてきた。
「大丈夫ですか!?」
「俺はもう無理だ……俺が何とか切り開いてやる。もう一人を連れてサッサと出ろ」
「し、しかし……」
「お前は自分の言った事を忘れたのか、お前が死んだら一体誰が国に仲間達や自分の死を伝える? 躊躇するんじゃない」
「……了解!」
アストラは頷くと、すぐにまだ戦っている仲間と一緒に動いた。
俺は彼らの為にすぐさま二人に立ちふさがっている敵の所まで走って向かい、そして、俺は一人で複数の敵と戦いを始めた。
仲間達は俺が敵を惹きつけるように戦っている隙に飛び出すと、出口に向かって突っ走る。
正直、彼らが生き残る確率は非情に低いだろう。
それでも、俺は彼らが無事であることを心の中で祈りながら、剣を振り続けた。
一人で奮戦してしばらく……
俺は傷つきボロボロになって壁を背に座っていた。
周りには獣人の死体と仲間の死体があるだけ。
どうやら、敵は俺が死んだと思って、奥の方へ戻っていったみたいだ。
俺は身体を動かそうとするも全く動けない。
それもそうだ、何故なら盾を持っていた左手は切り落とされて目の前に転がっている、右足も切り取られると何処かへと消えた。
自分でも分かるが、これは助からないほどの重傷だ。
彼らは一体どうしたのだろうか? 生き残っているだろうか、それとも敵に殺されたのだろうか……
俺は朦朧とする意識の中、それだけを考えていたその時……
近くで剣戟と怒号、それと叫び声等が聞こえて、俺は顔を上げた。
すると、俺の目の前には四人組の人影が獣人達をいとも簡単に蹴散らしていく姿があり、俺は夢か?っと内心思いながら視界にある光景に驚愕する。
彼らの内の一人の少女が俺に気づいて、駆け寄ってきてくれた。
「騎士様、だ、大丈夫ですか!?」
「お前……達は援軍か?」
「えーっと……援軍ではありませんけど、国から依頼を受けた冒険者です」
「そうか……すまないが……出入り口の方で二人ぐらい……仲間を見なかったか?」
俺はアストラの事を質問すると、彼女は憂いな表情を見せた。
「お仲間は……お亡くなりになっていました」
「そうか……」
俺は表情から予期できた答えにそれだけ言う。
そして、もしかしたらと思い、彼女達に頼み事をした。
「見知らぬお前達にすまないが……死ぬ前に頼み事がある」
「はい、何でしょう?」
「俺達がこの場所で勇敢に戦い、そして死んでいった事を国に伝えて欲しい……」
「……分かりました」
「それと……これを」
俺は右手に持っている剣を彼女に差し出す。
「この剣を使って……奴らのボスを倒して……くれ……俺達の敵を……」
「分かりました……敵は必ず取ります……ですから、安心して眠ってください……」
俺は彼女に持っていた剣を渡し、少女の慈愛に満ちた優しい言葉に安心すると、そのまま二度と目覚めることは無いだろう心地よい闇に身体を委ねた。