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夢屋 2



「やっぱり、まだ昼過ぎだから空いてますね~」


「本当だ……あっ富田、日陰に停めろよ」


「はいはぃわかってますよっ…」


昼過ぎの人気がない街だからか、誰か人が来るのをを待っているような日陰があちらこちらにある。


男達は一番乗りで一番大きな日影に車を停めた


「あっつ~」

「あついっすね~」


わかっているが何度も口に出てしまうのが人というものである。


男達は雑談をしながら、目の前にある店へ入ると店主を呼んだ


「こんにちは~」


「………はーーい!!」


その声を合図に甲高い元気な声と満面の笑みの女性が現れる。


「 いらっしゃいませ!!あっこんにちは!また来てくれたんですね!」


「あはは、はい…すいません…また来ちゃいました…」


男が一人、顔を赤らめる


「別にいいんですよ!飯田さん。毎日来てくれたって!!ねぇ富田さん?」


「はい…まぁ最終的には僕がお邪魔になるんだと思いますけど。」


「そっそんなことないさ!」


男は顔を赤くしまま、自分を冷めた目で見つめてくるもう一人の男に言い訳をする。


「あっぁあ、夢屋のかき氷がうまくてさ…あはは…なぁ?」


「はい。かき氷が美味しくて。まぁただかき氷食いにきただけじゃないと思いますけど…」


「まぁまぁ、二人とも座ってください!」


「あははは…」


男達は店主に連れられ一番奥の涼しいテーブルに腰掛けた


店主は二人分の水を運びながらにやにやしている


「うふふふ」


「何笑ってるんです?」


「いやぁあのね、今バイト雇ってて!いや雇ってるっていうか、タダ働きなんですけど、仕事がすごい楽になっちゃって!」


「へぇ~そうなんだ。今どこにいるの?」


「今、掃除が終わった所だから店の奥で休んでると思います。

ちょっと呼んできますから、ゆっくりしてて下さい。

ちょっと~! 影!! 休憩終了~!」



男は店主の背中を見つめながら、顔の赤みを抑えるようにテーブルに置かれた水を口に運んだ。


「なぁ富田。」

「ん?」


「俺、顔おかしくないか?」

「はい?」

「俺の顔…なんか変な感じになってないか?」


男は不自然な笑顔を浮かべ共に座る男に問う


「……本当だ…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………… 鼻毛出てる」



「っつ……鼻毛…!?」


ーー

ーーー


「ちょっと~?お客様が来てるよ~」


「ああ~~あ~~」


つい先刻、重労働を終え休憩中の影は扇風機とにらめっこしている


「ねぇ影」


「ん?」


「お客様が来てる。休憩終わり」


「えぇ!?今休んだところなのに!?」


「お客様は待ってくれないよ。早くして」


「うっそぉーん!はぁ…ちょっと待ってよ、水飲まして」


「水飲んだら、早く来てね」


うそだろと影が嘆けば、しっかり働いてねとりつ子の甲高い声が返ってくるばかり


「はぁ…疲れた…おい、光も手伝ってくれよ」


目の前で熱心にラケットをぶんぶん振っている光に影は助けを求めた。


「いやだねっ」


「なっ!…なんだよお前~つれないなっ! 手伝ってくれたっていーじゃん!!」


光はゆっくりと眼中を影に向けると


「だってバミトントンするって言ったのにしてないもん」


ラケットを素振りしながらわざとらしく顔を膨らませて影を睨んだ。


光のその言葉に影ははっとする。

今朝、彼と交わした約束をすっかり忘れていたのだ。


「あっぁあ…そうだったな……りっちゃんに頼めば?」


「頼んだけど、今からは無理って言われた!」


約束を破られたようないらつきからか、光は不自然に眉を寄せ男を見つめたまま全力で素振りをしている。


「はぁ……」


影は辺りを見渡す。

目の前にいる少年の機嫌をとれるような物はないか。

たとえば甘いものとか。



特にない



しかたなく立ち上がり、再度見渡すと影の目にはテーブルで店主と雑談している男達が写る。



「……なぁ、光」


「なに?」


「あのオッサン達に頼めば?」


「えっ?」


「あそこにいる二人に話しかけてみろ」


「えっ……どこ…?」


光は背伸びをして店を見渡す


「あの二人?」


「うん」


「……恥ずかしいよ…」


「大丈夫さ。いい機会じゃないか。話せばバミトントンしてくれるかもよ?」


影はたたんであったエプロンを手に取り体に巻き付けながら続ける。


「ほら! 俺今から仕事だし」


「……でもだって、お客さんには声かけちゃいけないんじゃないの?」


「なに言ってんだお前、絶対そんなこと思ってないだろ。ほら、あそこのオッサンたぶらかしてバミトントンすりゃいいんだよ」


「ぅう…」


光はこの店を支えている大きな柱の所に行き、柱で体を隠しながらりつ子と楽しげに話している男達を丁寧に観察した。



「………言ったら…バミトントンできるかな…?」


「多分…それはお前の運できまる。今日の光ははずれか?あたりか?それできまるよ」


「今日のおれっちは……



あたり……かな…?」



「そうか…なら心配はなしだ。大丈夫さ」


影は男達のいる方向にあごをしゃくる。

そして光の頭を軽く撫でると、りつ子のいる所へと小走りで向かった。


「はいはーい!! いらっしゃいませ~」




先程まで近くにいたのに、なぜかすごく離れているように感じる影の後ろ姿を見つめたまま光は少しばかりの深呼吸した。


「すー……はーー……あたり……大丈夫かな…」


光は心臓の高ぶっていく音と引き換えに、店と自分の心を支える大きな柱から体を離すと足を一歩前に出した。

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