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恋をして

作者: 雅弌

私は好きな人がいる。

高校2年生の先輩で、野球部で。


きっかけは野球のボールが飛んで来た事だった。

私は野球に詳しくないから、なんという練習か分からないけども。

バットを持った人が自分でボールを持って、打ち上げて。


それをいろんな人達が一生懸命ボールを追いかけてボールを取って。


それでも、たまに変な所に飛んで行くものだから帰宅途中の私の元へボールがたまたま転がってきた。



その時先輩が『すまん!ボール取ってくれるか?』そして私が『あ、はい』と言う。

あまりにも変な場所。帰宅途中の生徒が通るような場所に飛んでいったのでわざわざ取りにきたらしい。


私はボールを拾って投げるが、先輩には届かない。それどころか変な場所に向かってしまったけど取りに行ってくれて『ありがとな!』と、爽やかな笑顔を返してくれたのだ。


そこまでなら私もすぐには好きにならない。

ただ、頑張ってるなぁと思って何気なく練習を覗いたらさっきの先輩が…。




『ばっちこーいっっっ!!!』




お腹にまで響くのではないかと思うくらい大きな声。

そしてさっきの爽やかな笑顔と同一人物なのかと疑いたくなるほどに引き締まった表情。


私は、先輩の表情に見惚れてしまった。


先輩は部員と話す時には爽やかな笑顔で。けれどボールを追いかける時は凄く引き締まった顔で。


多分、他の部員たちも同じように表情の変化はしていたと思う。

だけど私は先輩だけを何故か追いかけてしまい、胸が。子供っぽくて小さい女性らしくない胸が。


モヤモヤと。けれど熱く。そしてドキドキと鼓動するのを感じた。



こんな感覚ははじめてだった。けれど分かってしまった。


私は、恋をしたんだ。恋をしてしまったんだと。



それからは野球部の練習を離れた所から観察する事が増えた。

正確には先輩を見ようとする事が増えた。


告白は…したいようなしたくないような。

気持ちを伝えたい、けれど伝えるのが怖い。


そう思うと一歩を踏み出せない。


この一歩が踏み出せない。踏み出せないのに。




『好きだ、星織』




クラスメイトの、綾瀬くんが私に告白してきた。

え…?と思考が固まって頭が真っ白になった。

さっきまでは普通に会話をしていただけのはずなのに、突然告白されたのだ。




『突然で、突拍子もないのは分かっている。だけど…好きなんだ』




………。


……………今でも、頭が真っ白なんだと思う。


私は、返事を返す事もなくその場から走って逃げた。


なんで、どうして。

私は、私を…?


家に帰るとお母さんが晩御は~?とのんびり聞いてきたけどいらない!と答えて自分の部屋に入りベッドに飛び込んだ。


抱き枕を抱えて、ゴロゴロと悶える。



部屋に戻ってまず最初に考えたのが…。


綾瀬くん、凄いな。だった。



私は、未だに告白という一歩が踏み出せなくて先輩に名前も憶えてもらっていない。顔も覚えてもらっていないかもしれない。


けれど綾瀬くんは確かに一歩を踏み出し、私に告白したのだ。



しかも私は…クラスで文化祭の準備をしながら友達に好きな人いる?と聞かれて先輩と答えている。

直接話していたワケではないけど、その場には綾瀬くんもいたはずだ。


もし、私が先輩に好きな人がいると知ったら告白どころじゃないだろう。

泣いて、だけど何もできない自分が嫌になって。部屋から出る事も出来ずに学校も休んでしまうだろう。



だけど、綾瀬くんは私に告白した。

どうして?なんでそんな事ができるの?


私は綾瀬くんの事を一生懸命考える。

けど、思い出す事は特にない。


普通にクラスメイトで。普通にハサミを貸してくれて。普通におはようと挨拶をしたりしなかったり。…それだけだ。


けれど、今思い出すのは綾瀬くんの表情だった。

笑顔でもなく、引き締まった顔でもなく…。ただただ、静かな表情で私に好きと告白してきた。


無感情だったワケではない。引き締まっていなかったのでもない。

なんだろう。言葉が見つからない。


確かに私が好き、と伝わってくる表情だった。

そう思ったら私の胸がドクン!と動いて苦しくなる。


え、何で?ドクンドクンドクン。

ま、待って。何で?


先輩をはじめて見た時のように。いやそれ以上にココロが動く。


そしたらふと、綾瀬くんの笑顔が頭に浮かんだ。

待って。私はこんな表情を見た事が無い。


そうだ、綾瀬くんが友達と話している時の笑顔だ



その次に浮かんだのは怒った顔。

何が起こったのかは覚えてないけど、友達の首に腕を回して怒っていたのを覚えている。



ドクン。再び私のココロが動く。



…ダメ、待って。私は、先輩がスキ。

スキなの。スキだから。スキなのに。


なのに、先輩の顔が思い出せない。

思い出しても何故か綾瀬くんで上塗りされていく。


だけど、その綾瀬くんの顔はどれも私に向けられた物ではなかった。



ギュッ。今までとは違う胸の動きだった。

凄く、苦しい。




…あぁ。そうか。私は恋をしてしまったのかもしれない。

先輩が好きなはずなのに、綾瀬くんの事を。


先輩の事も『好きなはず』になっている。



…どうして?どうして綾瀬くんを好きになっちゃったの?


ううん。簡単だ。好きになってしまったから好きなんだ。

強いてあげるなら、私は綾瀬くんの顔が見たい。


私に向けた、私だけの顔を。

そう思ったら…綾瀬くんが告白してきた時の顔を思い出した。



あれは私に向けられた、私だけの顔。私だけの表情。



また、胸が動く。今度はドクン!やギュッ!とした苦しく動く物じゃない。

暖かく。体中に染み渡るような優しい鼓動だった。


顔が、にへら~と変な顔をしているんじゃないかと思う。


さっきまで苦しんで、悶えて、戸惑っていたのに。

綾瀬くんの事を考えるだけで幸せな気分になってきた。



そう思ったら、動かずにいられなかった。

私は部屋を飛び出して玄関に向かう。


途中でお母さんが晩飯は~?とのんびり聞いてきて、いる!と大きく答えた。その後どっちよ~?と聞いてきたが、返事をする時間はない。


急いで靴を履いた私は、さっき告白された場所に走る。

走って、気が付く。どうしよう、汗をかいたらキモチワルイって思われちゃうかも。汗臭いのものイヤだよね?


だけど、足を止められない。さっきまでいた場所に、綾瀬くんはもういないかもしれないけど、それでも走る。




…いた!綾瀬くんは自転車を降りて壁に背中を預けている。

表情は…見えない。うつむいている。

私は…綾瀬くんの顔が見たいのに!



「綾瀬くん!」




私は大きな声で綾瀬くんを呼ぶ。

そしたら綾瀬くんの身体がビクッ!としたけれど顔をあげて私の顔を見てくれて。


私も、綾瀬くんの顔を見る事ができた。

それだけで幸せで、もっと見たくなって。



私は、心から綾瀬くんに恋をしている。




えー…どうも、雅弌です。

『恋をした』を書いてそのまま勢いだけで次は『恋をして』を書いてしまいました。


特に何も考えず、お題みたいに『恋をした』という単語だけから始まって書いたんですがね。

『恋をした』の綾瀬が暴走しまくりなのは、何も考えてなかったからとにかく単語をれて書いたのが原因かと思われ。


『恋をした』と『恋をして』は視点が違うのは勿論、お互いが好きになった部分はほとんど同じなのに受け取り方が違うのも感じていただけたら幸いです。


綾瀬はとにかく星織のいろんな顔が見たい。見られればそれでイイ。見られるのならなんでもするといった感じの尽くすタイプ。暴走してますしね。


星織も綾瀬の顔が見たい。けれど、いろんな顔が見たいというより自分に向けてほしい。自分にだけ向けてほしいという独占的な気持ち。

…ちょっと足りなかったかな?多分足りていない。


ともあれ、この2人の違いを楽しんでいただければ幸いです。


それでは、読んでくださりありがとうございました!



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