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第二章 力の有無1

 警視庁すぐ近くの交差点。先ほどまで数え切れないほどの人間が通過していたが、それが一変。現在は警察が交差点ごと閉鎖してしまい、一般人の影はない。

 周りには拳銃を構えた紺色軍団。軽く百人はいるだろう。今から彼らの相手をしなければならないのだから、憂鬱だ。

 神術師と偉そうな名前はついているけれど、決して無敵ではない。器が人間なのだから、銃弾を食らえば血も出るし、もちろん痛い。神術によってそれを防ぐことはできるけど、実際どこまで耐えられることやら……。

 自分の生死は置いておいて、少なくともこの力があれば、現実という命題に一矢報いることは可能だ。その後の行く末については、運任せということにしよう。

 さあ、始めるよ。風の力、その身に受けるがいい!



 やっぱりそうか……。話の流れからして、そう言うことなのだろうとは思っていた。

 そう言うことというのは、神術師なる者である、今僕の目の前にいる二人が、わざわざ僕を尋ねてきた理由のことだ。もし僕が何の変哲もない一般の子供なら、彼らがここにくる理由がない。両親が彼らと同類だったとか、彼らを支持していたとか、その辺の理由がない限り、今ここに神術師がいると言う事実の説明がつかないのである。

 結局のところ、正解は前者の方。つまり僕の両親も、彼らと同類だったと言うことだ。

 彼らの力については今見せてもらったばかりだから、ある程度わかっている。彼らと同じような力を、父さんや母さんが使える人だったなんて……ショックというか、何と言うか……。

「それで……僕もその力を使えるの?」

「まだわかりません。親が神術師であっても、それが子に継承されるケースは、極めて稀ですから」

 さっきからこんな感じで話しているのだけど、返答するのはフィルと言う少女ばかりで、隣にいるいかつい男は、ずっと黙ったままだ。それどころか、僕と目を合わせようともしない。何か他に気になることがあるみたいだ。

 だからって、そんなに無愛想にしなくてもいいじゃないか……。

「もし使えたとして、その場合僕はどうすればいいの?」

 わざわざ訪ねてくるくらいだ。ただ話をしにきたと言うわけではないだろう。何か目的があって、それを果たすためにここに来ているのだ。その目的と言うのは多分、僕の力だろう。けど、それは神術が使えた場合の話である。もし使えない場合はどうするつもりなのか……。

「その場合は、私たちに協力してもらいます。具体的には、この国の警察や軍事的戦力と、戦ってもらうことになります」

 思ったとおりだ。男女が互いの趣味を聞いた時に、どちらかが『国家と喧嘩を少々……』と答えるようなものである。要するに、国家と言う巨大組織を相手に戦争をするつもりなのだ。

 僕が神術を使える場合、戦争の最前線に繰り出されることになる。そして……。

「もし……使えない場合は?」

「それが判明し次第、この世から抹消……と言うことになるだろうな」

 フィルとは違う、太い声。このとき初めて、男の方が口を開いた。気にしていたことは解決したのだろうか……。

 などと呑気な事を思っている場合ではない。この世から抹消とは……とんでもなく危ない人達に出会っちゃったみたいだ。とは言えもはや逃げられない。大人しく、力が使えることを祈るしかないのか……。

「ガルベス、彼が怖がっています」

「フン……」

 フィルの注意を鼻で返し、そのまま彼は関係のない方向へ向いてしまう。どうやら自分のイライラをテリオスに向けて発散しただけのようだ。もちろん、この世からの抹消などない。

 一方、たちの悪い冗談を言われたテリオスは、頭の中が混乱してわけがわからない。

「あ、心配しないでくださいね。あなたの命を奪ったりしませんから」

 呆然としているテリオスを安心させるため、そのようなことはしませんと伝える。ガルベスの言葉を本気にしてしまっていたテリオスとしては、安堵と同時に彼への怒りが込み上げてくる。

 何がこの世から抹消だ。そんな危ないことを真顔で言わないでほしい。

「も、もしあなたに神術を使う能力がないなら、私たちが責任を持って保護します。だから、安心してください」

 ガルベスの一言で殺伐としてしまったこの場を、何とか落ち着けようとするフィル。彼女はもちろん、彼がなぜこんなにもイライラしているのかを知っている。しかし、彼女としては一刻も早く、テリオスと話をつけたいのだ。無駄な喧嘩をして時間を食ってしまっては、あの人の命が……。

 フィルも焦っている。そのことを思い出し、ガルベスは心の中で反省した。

「私たちとしては、今すぐにでもあなたに同行してほしいのですが……」

「…………」

 彼女の言いたいことはわかる。この男が焦っているのもわかる。僕だってそんなに鈍感じゃない。

 しかし、一般人として生きてきた十四年間を、これからの人生を、そうほいほいと捨てられるわけがない。僕は物心ついたときから、普通に生きることを望み、普通に生きることができるように願いながら生きてきた。それがこうも簡単に、突然に裏切られてしまうとは……。普通に生きていた今ままでの人生は、全て偽りだったとは……。

 いや、違うな。心の底ではわかっていたんだ。以前、まだ両親が生きているときに教えてもらった。僕は警察に監視されている。その証拠に、この家には多数の監視カメラや盗聴器が仕掛けられている。それも、僕の両親がこの家に住み始めた時からずっと……だ。それを聞いたときから、僕の両親や僕自身が普通の人間でないことに気づいていた。公共組織に監視されるような、場合によっては危険な人間なのだと……。

 それ以来、監視されていることに気づきながらも、それに耐える人生を歩んできた。学校に行くにしても、友達と出かけるにしても、必ず後ろには黒服の人たちがばれないように追ってきていた。それがどれほどに怖かったか……。

「……わかった。一緒に行くよ」

 散々いやな目にあってきたんだ。そろそろ反撃してもいい頃だろう。

 先ほどまで冷静だったテリオスの目に宿る殺意。当然フィルやガルベスはその心中を悟る。

「期待を裏切って申し訳ありませんが、あなたの希望通りにはなりません」

「……え?」

 頭を傾げるテリオス。一方、フィルは真剣な目で彼の目を見つめる。

「私たちと行動をともにするにあたって、絶対に守っていただかなくてはならないことが、一つだけあります」



 大通りの交差点、その中心で、大型の竜巻が起きている。その中で、女性は耐えていた。

 それぞれ緑色に変わった目と髪。そして彼女自身を包みこむ緑色のオーラ……。その力を最大限に使い、竜巻で容赦なく襲ってくる銃弾を弾き返していた。

 神の力を目の当たりにした警察は、どうしていいのかわからず、上の人間に指示を仰いでいる。下っ端の警察官程度の持っている拳銃では、竜巻を止めることはおろか、貫通させることすらできないのである。

 しかし……いい加減竜巻を起こしているのにも限界がきている。いくら神の力であるとは言っても、器は人間なのだから、力の発動にも限度がある。その力は無限ではないのだ。

 彼らはまだ到着しないのだろうか……。少年との交渉に手間取っているのかもしれない。もしそうだとしたら、自分はここで終わりだろう。覚悟していたこととは言え、それを受け入れるのはつらい。

 何とか竜巻の崩壊をとどめていると、外からキュラキュラとキャタピラの音が聞こえてきた。どうやら戦車を駆り出したらしい。その主砲で竜巻を貫こうと言う魂胆だろう。さすがにそんなにでかい弾が相手では、弱ってしまった竜巻はとても耐えられないだろう。

 ドゴォォォッ!

 戦車の主砲が竜巻を貫通し、竜巻が消滅する。その瞬間、女性は元の姿に戻っていた。力を使い果たし、立ち上がることもできなくなっている。

「よし、捕らえろ!」

 警官の一人が嬉しそうな顔で周りに指示する。先ほどまで無線で上の者に指示を仰いでいた、情けない奴だ。あれが現場の指揮官とは……下っ端の連中に同情する。

 当の下っ端たちは不満そうながら、自分を捕まえようと駆け寄ってくる。立場が下である以上、どれほど無能な上司だろうが、そいつに従わなくてはならない。悲しい世の中だ。

 哀れな下っ端が腕をつかみ、強引に立ち上がらせる。どうやら、自分はここまでのようだ。

 後の事は……彼らに任せるとしよう。

 ゴアァァァァァァッ!

 諦めて目を瞑った瞬間、突然爆発音と共に赤い閃光が走った。まさか……と思いながら目を開けると、先ほどまでうるさいエンジンを鳴らしていた戦車がバラバラになっているではないか。飛び散った部品が、燃えたままカランカランとに地面に落ちる。

 それを見た女性は、フッ……と静かに微笑んだ。忘れていた。自分は悪運の強い女だった。

「な、何だどうした!?」

「戦車が爆発したぞ!」

 ビキビキビキ……!

 うろたえている警察官の足を、今度は氷が包んでいく。それは女性を捕らえている警官も同様だ。これで邪魔な腕を振り払うことは容易となった。そんな中、炎と氷の間をすり抜けて、少年が女性の下へとかけてくる。

「セレーナさん、遅れてすみません!」

 少年は女性の近くにくると、いまだに腕をつかんだままの警官を殴った。小さな悲鳴をあげて、警官が倒れる。足は氷で固まっている。一度倒れたらもう立つことはできないだろう。

 立ち上がれずにもがいている警官を見ながら、少年は不安そうな顔をする。人の顔面を殴ったのは今回が初めてなのだろう。やってしまった……と思っているのが表情でわかる。

「公務執行妨害……れっきとした犯罪だぞ。テリオス」

 不安げな少年に追い討ちをかけるように、男が呟く。赤い髪、紅い目、そして発せられる赤いオーラ……炎を操る神術師だ。

「ガルベス……」

「遅くなってしまったな。無事でよかった」

 温かい言葉だ。それを聞いたセレーナはガルベスの胸に寄りかかり、そのまま泣き出した。もう少し遅ければ、自分は裁判を起こすまでもなく死刑となっていただろう。異端の力を持つ存在を、『現実』が受け入れてくれるはずがないのだ。

 自分は助かった。愛する者とまた会えた。それだけで、嬉し泣きの理由としては十分だ。憎まれ口を叩かれたテリオスとしては言い返すタイミングを失い、不満そうである。

「お取り込み中申し訳ありませんけど、すぐにここから逃げないと」

 深刻な言葉とは裏腹に、満面の笑みを浮かべた氷の神術師が三人に告げる。一応この場は片付いたが、何せここは警視庁のすぐ近くだ。いつまた増援が来るかわからない。面倒くさいことになる前にここから退散しなければならない。

 フィルの言葉を聞いたセレーナがガルベスから離れる。

「私に任せて。得意分野よ。ゴッド・グレイス!」

 セレーナの目と髪が緑色に変化し、同色のオーラが発せられる。先ほど力を使い果たしたばかりなので大規模な神術は使えないが、この場にいる四人を別の場所へ移動させることは可能だ。

「ウインド・ゲート(風の門)!」

 ヒュオォォ……ッ!

 突風が吹き、四人を包む。次の瞬間、彼らはそこから消えていた。

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