序
カーテンを明けて、外を眺めてみる。その先にあるのは庭か、隣の家か、高層ビルか、田舎ならば草原が広がっているかもしれない。何の事はない。これが現実だ。誰かが外を眺めれば、その先には必ず何かがある。目線を少し上にやれば、そこには空があるはずだ。何の事はない。
当然のごとく存在しているもの達がバランスを取り、普通という状態を保っている・・・筆者はこの当然の世界に飽き始めている。別に自殺志願というわけではない。欠けてはならない友もいる。生きることに対する無意義さを抱いているわけでもない。ただ、不思議なほどにバランスの取れたこの世界に、ちょっとした変化を加えようとしているだけである。
先程外を見た。では問いたい。外の景色の中に、『面白いもの』はあったかと。特別目を引くものはあったかと・・・。この際に素朴でもいい。何か変わったものを見つけたなら、あなたの飽きは満たされるだろう。満たされ、新たな意欲が湧いたなら、それに越したことはない。だが、もし無いなら、この小説に目を通していただきたい。
バランスの取れた秤のバランスを崩すにはどうすればいいか。倒すのではない。あくまでバランスを崩すのだ。
答えは単純。どちらかの器に、重さを偏らせればいいのだ。現実と空想・・・このバランスを崩すには、空想の器に入っていたものを、現実の器に移し替えればいい。それだけの話である。何の事はない。問題なのは、空想の器に入っているものの内どれを移し替えるかである。
色々思うところはあるかもしれないが、今回は『魔法使い』と言う要素を、現実の器に入れることにする。何だ、よくあることじゃないか。確かにその通り。しかし、忘れてはならない。これから始まるのは、空想の器の中で、空想と空想が戦う物語ではない。
現実の器に入れられた『魔法使い』は少数。『人間』が世界中に巣食っている中に、突如放り込まれたのだ。しかし、『魔法使い』にその自覚はないし、『人間』に至っては『魔法使い』の存在にすら気付いていない。極々一部の者達を除いては・・・。そして自分達の滅亡を確信した『魔法使い』は、ある計画を実行に移す・・・!
さあ、現実と言う命題に対し、それを否定する命題を突き付けてみようではないか。その時現実は、アンチテーゼにどう対処するのか・・・。現実の世界に存在しえないはずの者達は何を思い、誰に何を託すのか・・・それはこれから始まる物語を読んでもらえればわかることである。どうか、この物語の結末を見届けてほしい。
筆者