心象
ぼくのいるおうちには
だれもこないの
ぼくのすんでいるおうちにきたひとは
ほぼいないの
パパもママもきたことがないの
いちどもないの
だれかがすんでいるおうちに
なんどもおじゃますることがあったけど
ぼくのすんでいるおうちにくるひとは
いつもいないの
ぼくはみんなのおうちにいくこと
いくことはできるけど
ぼくのすんでいるおうちに
だれかがくることはないの
だからぼくはもうだれかのおうち
みんなのおうちにもいきたくないの
ぼくのおうちにはなんにもないの
ぼくのおうちにはかがみがあるだけなの
おうちをのぞいたひとは
かがみにうつったじぶんのかおにびっくりして
よろこんだり いかったり
かなしんだり たのしんだりして
まんぞくしたり ふまんをもったりして
みんなかえっていくの
だからぼくのすんでいるおうちにくるひとは
いつもいないの
だからぼくはだれかのおうちにいくときは
そのだれかのおうちにある
よろこびや いかりや
かなしみや たのしみを
おなじものをこしらえて
おなじふくをきて
おじゃましにいかなきゃならないの
でもぼくはふくをきるのがすきじゃないの
それはぼくじゃないからなの
うそっぽいっていわれるのがいやなの
だからぼくはもうだれかのおうち
みんなのおうちにもいきたくないの
文中の“鏡”は覗いた者が覗かれるという不思議な鏡です。