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婚約解消ノススメ  作者: 通木遼平


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第二話



 テレーザは小さな領地を持つ伯爵家の一人娘として生まれた。彼女が生まれた時は祖父が伯爵として領地を治め泉に祈りをささげていたが、跡取りはまだ決まっていなかった。というのも、テレーザの父を跡取りにすることを祖父がためらっていたからだった。

 祖父母には父しか子どもが遺っていなかったのだが、父は子どもの頃から自己中心的でいかに自分が得をするかを常に考え、何もかも自身の思いどおりにならないと気が済まない性格をしていた。そしてそれを実行できるくらいの頭もあった。そんなテレーザの父が伯爵になることは家と領地と泉のためにならないだろうと考えていたのだ。

 しかし結局のところ、祖父は父に伯爵位を譲るしかなかった。年齢を重ねて体が言うことをきかなくなったことと、他の親戚から養子を取ろうと計画すると必ずテレーザの父がそれを妨害したからだ。親戚たちは伯爵家を継ぐことに尻込みをし、問題から目をそらすようになった。妥協するしかなかった。


 祖父の妥協案は、息子に一時的に伯爵位を譲るが、泉に祈りをささげるための正式な継承者はまだ物心つく前の孫娘、テレーザを指名するということだった。父がそれを飲み込んだのは精霊に対する信仰心が薄かったためだ。そういう貴族も多少はいて、時折問題を――たとえば泉への祈りを怠るなど――起こしては精霊と泉の大切さを人々に再認識させていた。


 テレーザは幼い頃から祖父や母に連れられて季節ごとに泉に祈りをささげていた。泉は美しかったし、精霊の力なのかいつでも辺りは過ごしやすく、ちょっとしたピクニックに行く気分だったので決して苦にはならなかった。

 一方で、伯爵となったテレーザの父は国に黙って年ごとに税金を増やし、領民が苦労して納めたそれで私腹を肥やしていた。税が納められなくなった領民の中には他国に売られた者もいたという。

 母が祖父と協力し父の罪を暴いたのは六年前のことだ。テレーザは十二歳だった。父は今、罪人として強制労働の刑に服している。おそらく一生自由の身にはなれないだろう。伯爵家は当然没落し、領地は一時王家が預かることになった。母は離縁し、今は王妃の元で働いている。祖父は領地に残り、国が派遣した代官を手伝いながら静かに老後を過ごしていた。


 そしてテレーザは、家が没落した今でも領地とその泉の跡取りのままだ。


 祖父はそこまで考えて、テレーザに儀式を受けさせていたらしい。オネストとの婚約もその一環だった。侯爵位を持つフェルローネ家の領地はテレーザの家の領地ととなりあっていた。祖父は王家とも相談し、フェルローネ家の嫡男であるオネストとテレーザを婚約させることで、万が一の時に伯爵領をテレーザの嫁入りに合わせて侯爵領に吸収させることに決めていた。テレーザは伯爵家が没落するまでそのことを聞かされていなかったが。


 そういうわけでテレーザは家が没落してもオネストの婚約者のままだった。最初は納得していたし、オネストへの想いもあったため婚約が解消されなくて安心してもいたのだが、そう言った事情を知らない周囲からは色々と陰で言われるようになった。オネストは令嬢たちからの人気も高かったのでなおさらだ。


「いつまでもフェルローネ家との婚約にしがみつくなんてどうかと思うわ」


 そんな中で面と向かってテレーザにそう言ったのは彼女の母方の従姉、ビビアナだった。


 領地が王家預かりになることが決まった際にテレーザはどこか親戚の家に預けられることになった。まだ令嬢としての教育も必要だったし、将来的にはオネストと結婚する前にどこかの家の養子になる手はずになっていて、候補の一番手が母の実家――現在は伯父が当主を務めるジャコッビ家だったのだ。


 伯父も伯母もテレーザにやさしかった。姪を養子にすればいずれ侯爵家とのつながりを得ることができるというメリットはもちろん考えていたが、それを抜きにしても色々と気にかけてくれていた。


「まあ、フェルローネ侯爵令息が?」

「はい。手紙のやりとりはしているのですが久しぶりに顔を見たいとおっしゃって……伯父さまや伯母さまにもごあいさつをしたいからと」


 伯父の家で暮らしはじめて三か月がたった頃――夕食の席で、家が没落してから手紙のやり取りだけになっていたオネストの訪問の許可を伯父に求めた。その頃はまだ彼との婚約を継続できることに心から安堵し、中々会えないことへのさみしさを募らせ、久しぶりに会うことができるかもしれないと胸を弾ませていた。


「訪問に関してはもちろん反対などしないが、私たちと顔を合わせるよりも久しぶりに会うのなら二人の時間を取った方がいいのではないかな? 私たちもフェルローネ家にはいずれきちんとあいさつに行くべきだとは思っているし、オネスト殿がわざわざ気を遣わなくても大丈夫だと伝えてもらえるかい?」

「そうね。それにもうすぐテレーザの誕生日でしょう? その時にあちらの家をご招待したらどうかと思っていたの」

「わたしの誕生日ですか?」

「ええ、あなたも十三歳になるなら交流を広げていくのにいい頃だわ。あんなことがなかったら、もっと早くてもよかったくらい。季節もいいし、ちょっとしたガーデンパーティーを開いたらどうかしら?」

「でも、わたしは……その、そこまでしていただかなくても……お世話になっているのですし……もちろん、うれしいのですが」

「気にすることはないよ。君の母親にもその辺りを頼まれているしね」

「それにうちのパメラも最近あちこちに出かけるようになったから、主催(ホスト)側も少しずつ学んでいかなければならないもの」


 テレーザはとなりに座る従妹のパメラに視線を向けた。伯父夫婦の娘であるビビアナとパメラの姉妹の内、妹のパメラはテレーザと同い年だった。人見知りなところもあるが穏やかでやさしいパメラとは以前から仲がよかった。一方で、姉のビビアナはあまり関わりを持っていなかった。十二歳頃の四歳差はとても大きく、親しくなるきっかけがなかったのだ。


 パメラも乗り気だったので、その後の夕食の席の話題はテレーザの誕生日祝いを兼ねたガーデンパーティーについてになった。食後は食堂のとなりにある小さな居間に移って家族はひと時を過ごすが、テレーザはいつもそこには参加せず、少し早めの「おやすみなさい」を言って部屋に戻ることにしていた。とはいえ、本当に眠るにはまだ早い時間のため手紙を書いたり本を読んだりして時間をつぶしていることが多かった。

 部屋の扉がノックされたのは、さすがにそろそろ寝るしたくをしようと思いはじめた頃だった。奥の寝室で仕事をしていたメイドの一人が扉を開けると、パメラがいた。テレーザは客室の一つを借りているのでパメラの部屋とは離れている。わざわざ足を運んだのだろうか? 不思議に思いながら部屋に招き入れ、寝る前に飲むハーブティーを二人分用意してもらった。「少し話をしたくって」とパメラは切り出した。


「フェルローネ侯爵家のオネストさまがいらっしゃるの?」

「うん、そうよ。これから予定は決めるけれど」

「それなら、その……お姉さまがいない日がいいと思うわ」

「えっ? どうして?」


 パメラは気まずそうな顔をした。


「この間、公爵夫人の招待で家族でガーデンパーティーに行ったでしょう?」

「パメラがお土産にお砂糖のお菓子を持ってきてくれた時?」

「そう」

「あのお菓子、とてもおいしかったわ」

「公爵夫人が持たせてくださったの。テレーザにもどうぞって。またお手紙を書いておくわ。それで、その時、フェルローネ家の方たちもいらしていたの」

「まあ、そうだったのね」

「他にも大勢いらしていたし、お父さまやお母さまはちょっとだけあいさつをしていたけれど、テレーザがいなかったから、またの機会にって。わたしとお姉さまはちょっと離れたところで待っていたのだけれど、その時、お姉さまが……オネストさまに、見惚れていたの」


 テレーザは目を瞬かせた。オネストが同年代の令嬢から人気があることを彼女はちゃんと知っていた。テレーザの家が没落するとすぐにお茶会などの招待状が山のように届いたらしい。遠回しのお見合いのお誘いだ。オネストは後からテレーザの耳に入って誤解されたくないと、手紙で愚痴まじりに報告してくれた。


「よくあることだと思うけれど……」


 なのでオネストと同年代のビビアナが彼に見惚れても別に不思議ではない。しかしパメラは深刻にとらえているようだった。


「帰りの馬車で、お姉さまはずっとテレーザがオネストさまの婚約者なのはおかしいって言っていたの。今までそんなこと言ったこともなかったのに。だからもしオネストさまが家に来たら、二人の邪魔をするんじゃないかと思って……」

「ビビアナさまが? そんなことするかしら?」

「最近はやっている恋愛小説でよくあるの」


 パメラはそう言って顔を赤くした。彼女は読書が趣味で、最近はよく恋愛小説を読んでいる。テレーザも何冊か借りたことがあるが、たしかにそういうシーンはよくあったと思う。照れているパメラが愛らしくて、テレーザは真剣な顔でうなずいたのだった。




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