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第8話「大好きな旦那様に、契りを」

ルーナはそれを見上げて、強張っていた表情が柔らかくなるのを感じる。


「旦那様……」


リアムが地面に着地すると、その衝撃に騎士たちはよろけて倒れていく。


ルーナは騎士たちを突き飛ばして、一心にリアムへと手を伸ばし抱き着いた。



「なにも出来なくてごめんなさい。旦那様が苦しんでいたのに」


「良い。……遅くなってすまない」


大きな口元に頬を擦り寄せると、湿った黒い鼻と銀の毛並みがルーナをくすぐった。


顔を上げるとトパーズとルビーの瞳が涙を流すルーナを見つめていた。



「もう痛くはありませんか? 縄はどうされたのです?」


「痛くない。あれは魔獣を捕らえるためのもの。……オレは魔獣なんかじゃない。ただの」


唇をよせ、憂いのこもった息を吐く。



「ただ妻を愛する一人の男だ」


そんな甘美なささやきがあってよいのか。


悪い魔獣を縛るものであり、リアムは魔獣と呼ばれる呪いを捨てた。


畏怖され、いつのまにかその通りにフェンリルとなって生きていた。


リアムの本音にルーナはおだやかに微笑んで、涙を拭う。



「私は旦那様といたい。旦那様を愛しているんです」


この想いはリアムが相手だから芽生えた。


種族の壁なんてものは二人の間に最初から存在しなかった。


ルーナの愛の告白に、リアムはしばらく黙り込む。



「……旦那様? きゃっ!?」


「しっかり捕まってろ」



小人にもらったローブを噛み、リアムは背中にルーナをのせる。


そして騎士たちの制止をものともせずに空へと飛びあがり、走り出した。


風を切る速さにルーナはワクワクして笑みを浮かべながらリアムにしがみつく。


空から白い雪が降りだしており、もう寒冷期は目の前だと教えてきた。




それからリアムは辺境伯の屋敷にある広い庭に着地する。


屋敷の中からルーナの逃亡を知った父王が飛び出してきて、バスローブ姿で叫ぶ。



「ルーナ! 頭を冷やせ! 戻ってくるんだ!」


「いいえ! 私は戻りません!」



父王の叫びにルーナは腹の底から声を出す。


その声はもともとルーナのもつハツラツさがよく出た澄んだものだった。



「私! 旦那様を愛してるんです! だからこの結婚は私が望んだことなのです!」


「なにを……」


「今は許していただけなくても、私は諦めません! 父上と母上のように心から愛し合った夫婦となってみせます!」




ルーナを含め、7人の姫君を産んだのち亡くなった母。


そのときの父の深く悲しむ姿を鮮明に覚えている。


母の身分はもともと男爵令嬢であり、王妃となるには低い身分だった。


その壁を乗り越え、愛し合う二人にルーナは強く憧れた。


待ち受けるは政略結婚かもしれない。


だが二人のように愛し合えたらとずっと夢を見ていた。


今はそれに負けないほどにリアムと愛し合えると確信を持っていた。




「今まで育ててくださって……愛してくださりありがとうございました!」


「ルーナ……」


「……会いに行きます。父上と姫たちに旦那様を紹介させてくださいね」



それがいつ叶うかはわからない。


一生認めてもらえないかもしれない。


今、認めてもらえないままに逃げ出すことはずるいのかもしれない。



「帰りましょう、旦那様」


「……あぁ」


愛する心は決して恥じるものではないのだから。


悲しくてやりきれない気持ちはある。


それでも前を向いて生きていたい。




「泣いてもいい」


繊細なルーナの心にリアムがそっと寄り添う。


「何度だって会いに行こう。家族なのだから」


「旦那様……」


「王女を嫁に……。オレを魔獣として扱った人間への当てつけだった」


それは人々に恐れられる魔獣・フェンリルとしての嘆きだ。


心は人と変わりないのに、世界の悪を押し付けられた。


だから国の英雄となって王女を要求してやろう。


そうして戦争において牙を剥いた。


多くの血の匂いに、赤く濡れた身体。


魔獣と何ら変わりない現実に、腹いせと言わんばかりの意地で王女を求めた。




「ルーナに出会い、そんな幼稚さもどこかへいった。……魔獣だからと独りで生きていた。人の営みが、家族という輪が、うらやましかった」



今はその戒めもない。


魔獣としての枷はいらないと、リアムはただの男として生きると覚悟を決めると、拘束していた縄がほどけた。


こんな愛に満ちた行動に、ルーナはリアムに嫁いだ歓びに震えた。



「私に穴埋めさせてください。もう寂しい想いなんてさせませんから」


「……あぁ。このどうしようもない願い、叶えてくれるか? 私の愛する妻よ」


「ーーはいっ! もちろんですわ!」


愛してますとリアムの耳元でささやき、気持ちがあふれ出して耳を食む。


諦めの悪さはルーナの長所だ。


雪が降りだす月明かりの下、ルーナはリアムとともに森へと戻るのだった。




***



それからアイスノ王国には人と獣が交わったことで新しい種族が誕生した。


森で暮らす種族であったが、王家との関わりは強く、定期的に交流を深めていた。


国の滅亡を象徴する獣が、人間の妻を前に甘く惚気る姿は国民を驚かせる。


こうしてアイスノ王国に生まれし姫君と巨大な狼は結ばれ、幸せに暮らすのだった。


【完】

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